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入学と新たな仲間
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あれから月日は流れ、私はついに魔法学院に入学した。入学式を終え、私とニゲルは共にギルドへ向かっている。…何故ニゲルも一緒かって?それはニゲルも魔法学院に入学したからだ。なんならマリウスも現在魔法学院の三年生だ。てっきりマリウスは前と同じく王立学院に行くと思っていたのに、彼が選んだのは魔法学院だった。まぁニゲルはマリウスが魔法学院にしたから自分もそうしたというくらいの事なのだろう。元々ニゲルもマリウスもどっちでも良さそうだったし。──マリウスが魔法学院に合格した時にどうして魔法学院にしたのかそれとなく理由を聞いてみると、魔法学院の方が近いからというのと王族と学年が近くてめんどくさそうだからとの事だった。しごく尤もな理由だけど…、なんで前と変わったんだろう。いやまぁニゲルやマリウスとまた同じ所に通えるのは嬉しいけどね?マリウスの制服姿カッコいいけどね?でもやっぱりちょっと気になるじゃん?…もしかして、私が魔法学院にするって言ったからかな。魔法学院の良い所を私が言った事で、そっちの方が良さそうに感じたとか?心理学全然詳しくないから分かんないけど…、まぁ2人がそれで良いなら何でも良いか。
王立学院と比べて魔法学院の生徒数は少なく、1学年約50名となっている。魔法学院に通う生徒の卒業後の進路は多種多様だが、運営主である魔法協会に就職する人も多い。私のように冒険者を目指す人はギルドで冒険者登録をするし、研究者などを目指す人はギルドで登録したりしなかったりと人による。冒険者は4、5人程度でパーティーを組んでギルドに寄せられた依頼をこなし、高等学校に通う場合の多くは同じ学校に通う生徒同士で組む。つまり入学式が終わった今、次にやってくるのはパーティーを組むというとても重要なイベントなのだ。
ニゲルも一応私と一緒に登録したが、ニゲルは冒険者でなく薬師になるつもりなのでパーティーに誘ってみたが断られた。まぁ前もそうだったもんね。
「ただいまー。」
「あら、ニゲルにエミリア。」
「お帰りなさい。」
ギルドに入るとギルドのみんなが笑顔で出迎えてくれた。春の暁はギルドの仲間たちを家族のようにお互い大事にしており、大事にしない者は即破門となるのが特徴だ。
「2人とも入学おめでとう!」
「これで2人も俺たちの後輩だな!」
「うん、ありがとう。」
春の暁は先述の理由で魔法学院の卒業生も多いため、多くは先輩だ。こんなに強くて優しい先輩達がいて心強いことこの上ない。
「パーティーは組めた?」
「ううん、ニゲルに振られたところ。」
「なら俺らとパーティー組もうぜ!」
背後からの声に振り返ると、そこにはマリウスとマリウスの同級生、アレクサンデル・ウィルゴの姿があった。アレクとマリウスは仲が良く、私達もギルドで何度も会った事があった。
「でも2人とも3年だし、パーティーも組んでたでしょ?」
「一応組んでたんだが、他の2人のうち1人は留学生でな。メンバーが足りないから仮登録で無理矢理入ってもらってただけなんだよ。」
「もう1人もやっぱ魔法協会に行くって言い出してな。2人分空いてるんだよ。」
アレクとマリウスは説明してくれる。なるほど、そうだったのね…。留学生や王都から離れた所からやって来た人達は仮登録でパーティーを組み、学院を卒業したらマスターが書いた推薦状を持って故郷に帰り故郷のギルドに入る、というケースも多い。ただし仮登録ができるのは学生だけだ。
「そういう事か、分かった。なら私で良ければよろしく。」
「よろしくな!」
私が右手を差し出すとアレクは笑顔で握り返してぶんぶん振った。
「もう1人に当てはあるの?」
「いや、ないな。」
「じゃあ明日学校で探してみようか?」
「あぁ、頼んだ。」
私が尋ねるとマリウスは頷いた。マリウスは基本ヒーラーで、私はアタッカーもしくは補助。アレクは剣が得意で武器に魔力を乗せて戦うって言ってたから恐らく接近戦タイプ…、となると遠距離タイプか支援タイプだとバランスは良さそうかな。
翌日。クラスでそれぞれ自己紹介を行った後、冒険者を目指しててパーティーを組みたい人のためとオリエンテーションをかねて一年生全員で演習をする事になった。先生達が捕まえてきた低級魔族を1人1体、どんな方法でも良いから倒してみようというものだ。5人ずつ呼ばれ、みんなに見守られる中魔物を倒す。…まぁ魔物とはいえギルドでは初心者であるEランクパーティーに討伐を割り振られるようなレベルのものなので、エリート揃いの魔法学院では割とサクサク進む。
「…次、エミリア・デーフェクト!」
私の名が呼ばれ、前に進む。
「デーフェクトってもしかして…。」
「あぁ、春の暁のマスターの一族だよな。」
「…コネ?」
「まさか、あいつは本物の天才だよ。」
そう笑うのは初等学校で同級生だったテオドシウス・クルクスだ。テオの期待を裏切らないためにも、それなりにちゃんとやらないとね。
私は魔物の前に立ち、じっと観察する。んー、とりあえず光魔法の中で1番得意で手軽な魔法でやるか。
「洗礼の雨」
パチンと指を鳴らすと、魔物に無数の光の矢が降り注ぐ。今回は出来るだけ範囲を狭めたが、この魔法は広範囲にすれば敵を一気に殲滅できるので魔王討伐の時の道中もよく使っていた魔法の1つだ。もちろん、広範囲にすればするほど魔力の消費も大きくなるのだが。
「なっ、あれは…!」
「まさか光魔法…⁉︎」
「そうか、100年振りに現れた光属性持ちって彼女の事だったのか…!」
「いえーい、ミリーかっこいいぞー!」
辺りは騒がしかったが、聞いている限りではどうやらギルドの名誉は守られたらしい。良かった良かった。ブンブンと手を振るテオとニゲルに私はニッと笑って手を振り返した。
学年全員分が終わり、私達は演習場から教室に戻る事になった。その道中、沢山の子達に囲まれる。
「すっごいねー!私光魔法初めて見た!」
「僕も、あまりに綺麗で感動したよ。」
「ねぇ、冒険者志望?良かったら一緒にパーティー組まない?」
光属性は珍しいし、こういう反応は慣れてはいるがやはりどうも落ち着かない。マリウスみたいにスマートな対応は私にはできなさそうだ。…いや、マリウスの場合はスマートっていうより冷たいと言った方が正しいかもしれないけど。
「初めまして、私はヘレナ・メルクリウス。さっきの魔法、キラキラしてて綺麗だったね!」
昼休み。ニゲルとテオと共に食堂に向かおうとしたところで屈託のない笑顔で話しかけてきたのは、さっき魔力銃と魔道具を駆使して倒しているのが印象的だった女の子だった。
「ありがとう。あなたがさっき使ってた魔道具…、自分で作ったの?」
「見ててくれたんだ!そうだよ、全部自作。魔法石を使って爆弾とか煙玉とか狩で使う簡単な罠とか、色々作ってるんだー。あと魔力銃の弾も自分で作ってる。」
「弾を自分で⁉︎」
それはすごい。魔力銃の弾は、作ること自体はそんなに難しい事ではないが、ちゃんと威力を発揮させるのは中々難しいのだ。自分で作ってあれだけの威力が出せているなら、これから先もっとすごいものが作れるだろう。…彼女が作り出すものを、この目でもっと見てみたい。
「…ねぇ、冒険者になる予定があったりしない?」
私がそう尋ねると、彼女はキョトンとしたように私を数秒見つめた後ニッと笑った。
「偶然、昨日春の暁に登録してきたところだよ。」
その答えに私もにっこりと笑い、右手を差し出す。
「なら、私と一緒に冒険しない?とっても明るい剣使いのお兄さんと、治癒魔法の天才のお兄さんもいるよ。」
「面白そうね。喜んで!」
ヘレナは笑顔で私の手を握り返した。
「じゃあ早速マリウスとアレクに会いに行こう!」
「兄ちゃん、昼休みは食堂にいるって言ってたよね。」
「じゃあ行くか!」
そう言って私達4人は食堂へと向かった。
食堂はたくさんの学生で賑わっていたが、アレクは燃えるような真っ赤な髪をしているおかげで探しやすかった。アレクとマリウスに近づくと彼らも4人でご飯を食べているようで、こちらに気付いたアレクはヒラヒラとこちらに手を振った。2人と一緒にいるうちの1人は琥珀のような瞳の爽やかな印象の人で、もう1人はこの国では珍しい濡羽色の綺麗な黒髪を持つ明るい雰囲気の人だった。きっとこの人が昨日言っていた留学生なのだろう。東の方の国からの留学生だろうか。
「アレク、兄ちゃん。」
「ニゲル。エミリアとテオも一緒か。」
「昨日ぶりだな。」
「マリウス、弟か?」
「あぁ。」
マリウスは友達の質問に頷く。マリウスはどうしてか、マリウスが初等学校を卒業してからは私を“エミリア”と呼ぶようになった。昔のようにリアと呼ぶのはつい口から出てしまった時か、2人でいる時にごくごく稀に呼ぶだけだ。“前”もそうだったけどなんでだろ、恥ずかしいのかな?ちょっと寂しいなと思ったり。
「初めまして、ニゲル・オルドーです。兄がお世話になってます。」
「俺はレオ・キルクルス、よろしくな。」
「俺はシロウ・アズミ。マリウスと違ってしっかりしてるなー!」
「あ?」
マリウスはシロウ先輩を睨みつけるが、シロウ先輩は愉快そうに笑っていた。
「それで、君たちは?」
「初めまして、私はエミリア・デーフェクトと申します。」
「あぁ、マリウスの幼馴染の?」
「春の暁のマスターの血縁なんだっけ。」
私が頷くと2人はよろしく、と笑った。
「俺はテオドシウス・クルクスです。」
「私はヘレナ・メルクリウスです、よろしくお願いします。」
「なんだヘレナじゃねーか、久しぶり。元気だったか?」
アレクはヘレナにそう尋ね、私達は驚いて目を丸くした。
「もちろん、この通り。」
「え、アレクとヘレナって知り合い…?」
「まぁな。俺、実はウィルゴ伯爵家の三男でヘレナはうちの騎士団長の娘なんだよ。」
「私とアレクは年も近かったから兄弟みたいに育ってきたんだー。」
なるほど、そうだったんだ。ていうかアレクって貴族だったんだね、全然知らなかったな。でもマリウスや先輩達は驚いてないから知ってたって事だよね…、きっとアレクも貴族扱いされるのはあんまり好きじゃないのかな。王立学院も魔法学院も王侯貴族は珍しくないけど、魔法学院の人は貴族も平民も関係ないって人がほとんどな印象だな。うちのルキウス兄も王弟殿下だけど、普通にみんなと飲んで騒いだり私達が小さかった時は一緒に泥だらけになりながら走り回ったりしてたし。
「すごい偶然だね、エミリア。」
「ね、びっくり。」
「ん?」
「いや、実はパーティーのもう1人にヘレナはどうかなって思って一緒に来てもらったんだ。」
首を傾げたマリウスに説明すると、マリウス達は納得したように相槌を打った。
「良いじゃん、俺は賛成だぜ?」
「旧知の仲なら連携も良さそうだな。」
「な、こんな偶然そうそうないだろうし。」
「そうだな、俺も異論はねぇよ。」
「ほんと?良かった!じゃあこれからよろしくね、3人とも!」
ヘレナが笑顔で言うとアレクはヘレナとハイタッチしてよろしく、と言った。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はマリウス・オルドー、アレクと同じ3年だ。よろしく。」
「よーし、じゃあ4人ともここ空いてるから一緒にご飯食おうぜ。」
「良いなそれ、ここおいでよ。」
「良いんですか?」
「ありがとうございます!」
私達はお言葉に甘えて隣に座り、昼食を取った。学院の事を教えてもらったりと色々な話をしていたらあっという間に時間が過ぎていき、予鈴が鳴った。
「そろそろ戻るか。お前ら、何かあればいつでも言えよ。」
「俺達で良ければ相談乗るし、勉強も教えるよ。」
「はい、ありがとうございます!」
4人はそれぞれ笑って食堂を後にした。いやー、頼れる先輩達だなぁ。
「私達も行こうか。」
「うん。次は教科書配布だっけ?」
「そうだね。あとは───」
魔法学院に入学して、パーティーも組めた事だし。頼りになる先輩とも出会えたし。
これから楽しくなりそうだ。
王立学院と比べて魔法学院の生徒数は少なく、1学年約50名となっている。魔法学院に通う生徒の卒業後の進路は多種多様だが、運営主である魔法協会に就職する人も多い。私のように冒険者を目指す人はギルドで冒険者登録をするし、研究者などを目指す人はギルドで登録したりしなかったりと人による。冒険者は4、5人程度でパーティーを組んでギルドに寄せられた依頼をこなし、高等学校に通う場合の多くは同じ学校に通う生徒同士で組む。つまり入学式が終わった今、次にやってくるのはパーティーを組むというとても重要なイベントなのだ。
ニゲルも一応私と一緒に登録したが、ニゲルは冒険者でなく薬師になるつもりなのでパーティーに誘ってみたが断られた。まぁ前もそうだったもんね。
「ただいまー。」
「あら、ニゲルにエミリア。」
「お帰りなさい。」
ギルドに入るとギルドのみんなが笑顔で出迎えてくれた。春の暁はギルドの仲間たちを家族のようにお互い大事にしており、大事にしない者は即破門となるのが特徴だ。
「2人とも入学おめでとう!」
「これで2人も俺たちの後輩だな!」
「うん、ありがとう。」
春の暁は先述の理由で魔法学院の卒業生も多いため、多くは先輩だ。こんなに強くて優しい先輩達がいて心強いことこの上ない。
「パーティーは組めた?」
「ううん、ニゲルに振られたところ。」
「なら俺らとパーティー組もうぜ!」
背後からの声に振り返ると、そこにはマリウスとマリウスの同級生、アレクサンデル・ウィルゴの姿があった。アレクとマリウスは仲が良く、私達もギルドで何度も会った事があった。
「でも2人とも3年だし、パーティーも組んでたでしょ?」
「一応組んでたんだが、他の2人のうち1人は留学生でな。メンバーが足りないから仮登録で無理矢理入ってもらってただけなんだよ。」
「もう1人もやっぱ魔法協会に行くって言い出してな。2人分空いてるんだよ。」
アレクとマリウスは説明してくれる。なるほど、そうだったのね…。留学生や王都から離れた所からやって来た人達は仮登録でパーティーを組み、学院を卒業したらマスターが書いた推薦状を持って故郷に帰り故郷のギルドに入る、というケースも多い。ただし仮登録ができるのは学生だけだ。
「そういう事か、分かった。なら私で良ければよろしく。」
「よろしくな!」
私が右手を差し出すとアレクは笑顔で握り返してぶんぶん振った。
「もう1人に当てはあるの?」
「いや、ないな。」
「じゃあ明日学校で探してみようか?」
「あぁ、頼んだ。」
私が尋ねるとマリウスは頷いた。マリウスは基本ヒーラーで、私はアタッカーもしくは補助。アレクは剣が得意で武器に魔力を乗せて戦うって言ってたから恐らく接近戦タイプ…、となると遠距離タイプか支援タイプだとバランスは良さそうかな。
翌日。クラスでそれぞれ自己紹介を行った後、冒険者を目指しててパーティーを組みたい人のためとオリエンテーションをかねて一年生全員で演習をする事になった。先生達が捕まえてきた低級魔族を1人1体、どんな方法でも良いから倒してみようというものだ。5人ずつ呼ばれ、みんなに見守られる中魔物を倒す。…まぁ魔物とはいえギルドでは初心者であるEランクパーティーに討伐を割り振られるようなレベルのものなので、エリート揃いの魔法学院では割とサクサク進む。
「…次、エミリア・デーフェクト!」
私の名が呼ばれ、前に進む。
「デーフェクトってもしかして…。」
「あぁ、春の暁のマスターの一族だよな。」
「…コネ?」
「まさか、あいつは本物の天才だよ。」
そう笑うのは初等学校で同級生だったテオドシウス・クルクスだ。テオの期待を裏切らないためにも、それなりにちゃんとやらないとね。
私は魔物の前に立ち、じっと観察する。んー、とりあえず光魔法の中で1番得意で手軽な魔法でやるか。
「洗礼の雨」
パチンと指を鳴らすと、魔物に無数の光の矢が降り注ぐ。今回は出来るだけ範囲を狭めたが、この魔法は広範囲にすれば敵を一気に殲滅できるので魔王討伐の時の道中もよく使っていた魔法の1つだ。もちろん、広範囲にすればするほど魔力の消費も大きくなるのだが。
「なっ、あれは…!」
「まさか光魔法…⁉︎」
「そうか、100年振りに現れた光属性持ちって彼女の事だったのか…!」
「いえーい、ミリーかっこいいぞー!」
辺りは騒がしかったが、聞いている限りではどうやらギルドの名誉は守られたらしい。良かった良かった。ブンブンと手を振るテオとニゲルに私はニッと笑って手を振り返した。
学年全員分が終わり、私達は演習場から教室に戻る事になった。その道中、沢山の子達に囲まれる。
「すっごいねー!私光魔法初めて見た!」
「僕も、あまりに綺麗で感動したよ。」
「ねぇ、冒険者志望?良かったら一緒にパーティー組まない?」
光属性は珍しいし、こういう反応は慣れてはいるがやはりどうも落ち着かない。マリウスみたいにスマートな対応は私にはできなさそうだ。…いや、マリウスの場合はスマートっていうより冷たいと言った方が正しいかもしれないけど。
「初めまして、私はヘレナ・メルクリウス。さっきの魔法、キラキラしてて綺麗だったね!」
昼休み。ニゲルとテオと共に食堂に向かおうとしたところで屈託のない笑顔で話しかけてきたのは、さっき魔力銃と魔道具を駆使して倒しているのが印象的だった女の子だった。
「ありがとう。あなたがさっき使ってた魔道具…、自分で作ったの?」
「見ててくれたんだ!そうだよ、全部自作。魔法石を使って爆弾とか煙玉とか狩で使う簡単な罠とか、色々作ってるんだー。あと魔力銃の弾も自分で作ってる。」
「弾を自分で⁉︎」
それはすごい。魔力銃の弾は、作ること自体はそんなに難しい事ではないが、ちゃんと威力を発揮させるのは中々難しいのだ。自分で作ってあれだけの威力が出せているなら、これから先もっとすごいものが作れるだろう。…彼女が作り出すものを、この目でもっと見てみたい。
「…ねぇ、冒険者になる予定があったりしない?」
私がそう尋ねると、彼女はキョトンとしたように私を数秒見つめた後ニッと笑った。
「偶然、昨日春の暁に登録してきたところだよ。」
その答えに私もにっこりと笑い、右手を差し出す。
「なら、私と一緒に冒険しない?とっても明るい剣使いのお兄さんと、治癒魔法の天才のお兄さんもいるよ。」
「面白そうね。喜んで!」
ヘレナは笑顔で私の手を握り返した。
「じゃあ早速マリウスとアレクに会いに行こう!」
「兄ちゃん、昼休みは食堂にいるって言ってたよね。」
「じゃあ行くか!」
そう言って私達4人は食堂へと向かった。
食堂はたくさんの学生で賑わっていたが、アレクは燃えるような真っ赤な髪をしているおかげで探しやすかった。アレクとマリウスに近づくと彼らも4人でご飯を食べているようで、こちらに気付いたアレクはヒラヒラとこちらに手を振った。2人と一緒にいるうちの1人は琥珀のような瞳の爽やかな印象の人で、もう1人はこの国では珍しい濡羽色の綺麗な黒髪を持つ明るい雰囲気の人だった。きっとこの人が昨日言っていた留学生なのだろう。東の方の国からの留学生だろうか。
「アレク、兄ちゃん。」
「ニゲル。エミリアとテオも一緒か。」
「昨日ぶりだな。」
「マリウス、弟か?」
「あぁ。」
マリウスは友達の質問に頷く。マリウスはどうしてか、マリウスが初等学校を卒業してからは私を“エミリア”と呼ぶようになった。昔のようにリアと呼ぶのはつい口から出てしまった時か、2人でいる時にごくごく稀に呼ぶだけだ。“前”もそうだったけどなんでだろ、恥ずかしいのかな?ちょっと寂しいなと思ったり。
「初めまして、ニゲル・オルドーです。兄がお世話になってます。」
「俺はレオ・キルクルス、よろしくな。」
「俺はシロウ・アズミ。マリウスと違ってしっかりしてるなー!」
「あ?」
マリウスはシロウ先輩を睨みつけるが、シロウ先輩は愉快そうに笑っていた。
「それで、君たちは?」
「初めまして、私はエミリア・デーフェクトと申します。」
「あぁ、マリウスの幼馴染の?」
「春の暁のマスターの血縁なんだっけ。」
私が頷くと2人はよろしく、と笑った。
「俺はテオドシウス・クルクスです。」
「私はヘレナ・メルクリウスです、よろしくお願いします。」
「なんだヘレナじゃねーか、久しぶり。元気だったか?」
アレクはヘレナにそう尋ね、私達は驚いて目を丸くした。
「もちろん、この通り。」
「え、アレクとヘレナって知り合い…?」
「まぁな。俺、実はウィルゴ伯爵家の三男でヘレナはうちの騎士団長の娘なんだよ。」
「私とアレクは年も近かったから兄弟みたいに育ってきたんだー。」
なるほど、そうだったんだ。ていうかアレクって貴族だったんだね、全然知らなかったな。でもマリウスや先輩達は驚いてないから知ってたって事だよね…、きっとアレクも貴族扱いされるのはあんまり好きじゃないのかな。王立学院も魔法学院も王侯貴族は珍しくないけど、魔法学院の人は貴族も平民も関係ないって人がほとんどな印象だな。うちのルキウス兄も王弟殿下だけど、普通にみんなと飲んで騒いだり私達が小さかった時は一緒に泥だらけになりながら走り回ったりしてたし。
「すごい偶然だね、エミリア。」
「ね、びっくり。」
「ん?」
「いや、実はパーティーのもう1人にヘレナはどうかなって思って一緒に来てもらったんだ。」
首を傾げたマリウスに説明すると、マリウス達は納得したように相槌を打った。
「良いじゃん、俺は賛成だぜ?」
「旧知の仲なら連携も良さそうだな。」
「な、こんな偶然そうそうないだろうし。」
「そうだな、俺も異論はねぇよ。」
「ほんと?良かった!じゃあこれからよろしくね、3人とも!」
ヘレナが笑顔で言うとアレクはヘレナとハイタッチしてよろしく、と言った。
「そういやまだ名乗ってなかったな。俺はマリウス・オルドー、アレクと同じ3年だ。よろしく。」
「よーし、じゃあ4人ともここ空いてるから一緒にご飯食おうぜ。」
「良いなそれ、ここおいでよ。」
「良いんですか?」
「ありがとうございます!」
私達はお言葉に甘えて隣に座り、昼食を取った。学院の事を教えてもらったりと色々な話をしていたらあっという間に時間が過ぎていき、予鈴が鳴った。
「そろそろ戻るか。お前ら、何かあればいつでも言えよ。」
「俺達で良ければ相談乗るし、勉強も教えるよ。」
「はい、ありがとうございます!」
4人はそれぞれ笑って食堂を後にした。いやー、頼れる先輩達だなぁ。
「私達も行こうか。」
「うん。次は教科書配布だっけ?」
「そうだね。あとは───」
魔法学院に入学して、パーティーも組めた事だし。頼りになる先輩とも出会えたし。
これから楽しくなりそうだ。
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