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18. 皇族と皇宮⑤

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 それから私達はダイニングルームへ再び向かった。準備中のダイニングルームの前で大人しく待っているとすぐに皇帝達もやって来て扉が開く。それぞれ席に着くが、私は椅子が高くて1人では座れなかった。ジェラールは侍従が抱っこしてくれていて、第3皇子はそこが彼のいつもの席なのか横に踏み台が置かれていた。侍女達は明らかに私が視界に入っているはずだが素知らぬ顔で壁際に控えていて、第3皇子は気付いてニヤリと笑い、皇帝は気付いてもいない。皇妃陛下とアンリ卿、宰相閣下は何か話していて、エマニュエル卿はつい先程までいたはずなのに姿が見当たらなくなっていた。…ふぅん、なるほどね…。

「──シャ…」
「シャルロット殿下、少し失礼致します。」
「!」

突然ヒョイと持ち上げられたかと思うと私はそっと椅子に座らせられた。顔を上げるとエマニュエル卿が微笑んでいる。

「あぁ、もう一つクッションが必要そうですね。もう一度失礼致します、殿下。」
「あ…、ありがとうございます、エマニュエル卿。」

どうやら卿は私達のためにクッションを取りに行ってくれていたらしい。卿はいえ、と笑うと背後の侍女、侍従達に冷ややかな視線を向ける。

(…本当によく見ているというか、“お父さん”なんだな。)
(本当にね。皇帝よりもずっと私達の事を考えてくれていそうだわ。…少なくとも、“子ども”でいる間は卿にとって庇護の対象になりそうね。)
(あぁ。)

そんな話をしている内にエマニュエル卿はジェラールにもクッションを敷いて再び座らせた。

「…あら、ごめんなさい!お2人にもクッションが必要でしたわよね、すっかり失念していたわ。」
「いえ、お構いなく。」
「エマニュエル卿が用意してくださいましたので。」

こちらに気付いた皇妃陛下は申し訳なさそうに言った。そして卿にありがとう、と礼を言う。一方皇帝は「あぁ、2人は届かぬのか。」とやっと気付いたかのように呟いて、本当にこの人(私を除いて)4児の父なのかと疑ってしまう。
 全員席に着くと皇帝は口を開いた。

「ではいただこう。」

皇帝が言うと皇族の皆さんとアンリ卿は両手を組んで握り、恐らくお祈りをし始めた。一方宰相閣下とエマニュエル卿は同じように両手を握って「アーメン」とだけ言うとカトラリーを手にした。なるほど、要するにキリスト教なのね。私達はお祈りの言葉なんて知らないし宗教についても予想はつくがよくは知らないので、これまで通り両手を合わせて「いただきます」と言ってカトラリーに手を伸ばした。…一応、鑑定しておくか…。私は手にしたフォークとナイフ、それから目の前の前菜を鑑定してみる。

『銀のナイフ』
『銀のフォーク』
『野菜のテリーヌ、サーモンのミルフィーユ、ほうれん草とベーコンのキッシュ』

──特に有害物質は無さそうだ。チラリとジェラールのも鑑定してみるが大丈夫そうだった。

「…殿下、ここではベールを外されても大丈夫ですよ?」
「あ…、そうですね。ですが外してしまうと私1人では付けられなくて…。」
「あぁ成程。でしたら付けたままの方が宜しいでしょう。」

宰相閣下やアンリ卿からの同意を得て、私は内心ガッツポーズをする。よし、これで顔を晒さずに済む。私は一応持って来ていたピンで口元だけ晒すようにベールの裾を持ち上げて頭頂部で軽く止め、オードブルを口にする。…子どもには少し使いにくいわね、このカトラリー。皇子達は…、…あぁ、第2皇子と第3皇子は子ども用のを使ってるのね。よく見ると目の前に座るジェラールもそうだ。なんとか音を立てないようオードブルを食べ終える。次に出てきたのはじゃがいものポタージュとフランスパンで、スプーンとポタージュを鑑定して───

ガチャン!

「!!」
「シャル?」
「シャルロット殿下⁉︎大丈夫ですか!!??」

ポタージュは毒味したためかもうとっくに冷め切っているので熱くはなかったが、ワンピースはびしょ濡れだ。チラリと右隣に座る第3皇子を見ると知らないふりをして食事を続けている。…こいつ…。

「…大丈夫です、失礼致しました。」

いや、でも今回は彼の悪戯に救われた。このポタージュ、ジェラールのは大丈夫そうだが私のには下剤が入れられていた。左隣に座るエマニュエル卿が魔法であっという間にワンピースを綺麗にしてくれて、魔法って便利だなぁと感心しつつどうしてやろうかと思案する。新しいポタージュが届くと再び下剤が入れられていて、私は呆れつつもピンと思いつく。

「…ありがとうございます、エマニュエル卿。あの、ついでにお願いがあります。」
「?はい、どうなさいましたか?」

エマニュエル卿は笑って私の顔を覗き込む。…できるだけ子どもらしく…。

「このスプーンとっても重くて使いにくいですし、さっきみたいに“突然”、“触ってもいないのに”、ひっくり返ったら怖いので食べさせてください。」
私が言うと皇子達はクスクス笑い、皇帝は気にも止めておらず、皇妃陛下は内心怒っていそうな笑顔で第3皇子を見つめアンリ卿と宰相閣下は不思議そうにしていた。周囲からも馬鹿にしたような視線を感じるが、そんな風にしていられるのも今の内だ。私の言葉に何かあると気付いたらしいエマニュエル卿は一瞬驚きつつも「もちろんです」と笑顔で頷く。

「では一応、毒味をさせていただきます。」

卿はそう言って彼の未使用のスプーンで私のポタージュを掬った。

 …それを、口に入れようとして。

「──ダメ!!!」
「「「!!??」」」

突如響いた侍女の声に皆は彼女の方を見た。そして彼女は自身の過ちに気づきサッと顔色を変える。

「あっ…、」
「…私は殿下のお食事の毒味をしようとしただけだが…、何か困る事が?」
「いえ、その、それは…、」
「ならば問題はないな?では…」
「待っ───!」
「待て、そこの騎士。それ、下剤入りだぜ。」
「「「!!!???」」」

突如上に現れたのはサラマンドルさんだった。ど、どうしてここに…。

「サラマンドル…⁉︎」
「何故貴方が…!」
「いやな、マックスの子孫が危機に晒されていると気付いてついな。それよりこの女、早く尋問した方が良いんじゃねえの?」

サラマンドルさんはさっき声を上げた侍女を指差す。彼女は既にアンリ卿によって既に捕らえられていた。

「…殿下。申し訳ございませんが急用ができてしまいました。もう食事どころでは無さそうですので、大変申し訳ございませんがお食事はまたの機会にご一緒させていただければと存じます。」
「はい。」
「じゃ、2人は俺が送ってやるよ。」
「あぁ、頼む。」
「宜しくお願い致します、大精霊様。」

皇帝と皇妃陛下はそれぞれ言った。サラマンドルさんは私とジェラールを抱えると魔法陣を描く。

「エマニュエル卿。」
「はい。」
「…ありがとうございました。」

私が言うと卿も笑って頷いた。そして魔法が発動し、私達はテール宮へと戻って来たのだった。
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