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17. 皇族と皇宮④
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「こちらが皇族のプライベートエリアとなります。」
到着した場所はやはり豪奢な内装で、プライベートエリアといえども侍女や侍従達が行き交っていたが役人なども行き交う下の階よりは随分と人気が少なかった。
「陛下のお部屋は…」
「あぁいえ、そこまで教えていただかなくても結構です。」
私が言うとエマニュエル卿は驚いたように私を見た。近くを通る侍女、侍従達はチラチラとこちらを見ていた。私はすぅ、と少し大きめの声を出すため息を吸う。
「私達がここに足を踏み入れる事は一生ないでしょうから。…エマニュエル卿は私達が誤ってここに迷い込んでしまわないようご配慮くださったのですよね?ありがとうございます。」
「それは、」
「エマニュエル卿。」
ジェラールは卿を呼んでちらりと侍女、侍従達を一瞥する。反応は下での反応と大体同じだ。…今は、陛下の気まぐれだと思われていた方が良い。まだ皇太子が確定していない今、後継者争いの火種になり得ると判断されるのは私とジェラールの平穏に支障が出るので困るのだ。
「…、そうですね。…ではお2人とも、まだ昼食には時間がありますし最後に少しお付き合いいただいても宜しいでしょうか?」
「?はい。」
「もちろんです。」
私達が頷くとエマニュエル卿は笑顔でありがとうございます、と言って歩き出した。プライベートエリアとは反対方向に廊下を突き進み、1番奥まで行くと階段が現れる。
「…お2人とも、お疲れではございませんか?いくら中身が…とはいえ、お身体は幼子ですから。お疲れでしたら遠慮なく仰ってください。」
階段前で卿は再びそう言った。確かに身体はこれまで碌な栄養を取って来なかった子どもだ、体力はそろそろ限界に近づいて来ていた。
(ここで倒れるのも迷惑よね…。)
(あぁ、それにエマニュエル卿は子どもの相手に慣れていそうだしな…。)
「…ではお言葉に甘えまして。すみません、少し疲れてしまいました。」
「虚弱で申し訳ありません。」
私達が言うと、エマニュエル卿はニコッとなんだか嬉しそうに笑った。
「いえ、お2人の境遇を考えれば無理もありません。では失礼致します。」
「わ、」
ヒョイ、と卿は私達を抱き上げた。両腕にそれぞれ私達を抱えて階段を上がる。
「…エマニュエル卿は子どもの相手がお上手なのですね。」
「おや、それは光栄です。私にはジェラール公子と同じ5歳になる双子の息子がいるのです。」
「あぁ、なるほど。それで。」
そんな話をしながら階段を上がり切ると、見張り台のような見通しの良い場所に出た。爽やかな風が心地良い。
「わぁ…。」
「すごい…。」
バルコニーに出るとソレーユ宮殿の広大な庭園や街が一望でき、とても良い眺めだった。エマニュエル卿はニコッと笑う。
「ここは私のお気に入りの場所です。以前は見張り台として衛兵が交代で詰めていたそうですが、今は新たに騎士の詰所に作られたのでここにはほとんど人が来ないので1人で少し休みたい時などには持ってこいなのですよ。」
「そうなのですね。風も気持ちが良いですし、とても良い場所ですね。」
「シャル、ベールが飛ばされないように気をつけろ。」
「あ、そうね。」
私達は少しの間黙って景色を眺めていた。ここからは庭園の半分ほどしか見えないが、本当に広い。1番近くには澄んだ湖のある離宮があり、その奥には金ピカに輝いている離宮がある。…日本にも金閣寺があったけれど、なんていうか…あの離宮は中々のご趣味ね…。私はあんな所住みたくないわ…。
「…私は、ルイーゼ様は無実だと思っております。」
「「!!」」
エマニュエル卿の予想外の言葉に私は弾かれるように振り向いた。私達を抱く卿は苦しげに顔を歪ませていた。
「…申し訳ありません。今更こんな事を言っても遅いですしお2人を困らせてしまうだけでしょうが…、…シャルロット殿下は、絶対に罪人の娘などではございません。貴女は…いや、子どもは皆愛されるべきなのです。」
「卿…。」
「私は一介の騎士、あの時はどうする事もできませんでしたし今後も私にできる事は多くはないでしょう。…ですが、私がお2人の盾になります。」
エマニュエル卿は真剣な表情でそう言った。…子どもが好きなのは本当の事だろう。卿が私達に向ける目は明らかに父親が子どもに向けるそれだ。
「私を信用して欲しい、とは申しません。ですが、どうぞ必要な時には遠慮なくお使いください。先程のように誰かに絡まれた時でも、呼んでくだされば少しはお役に立てるかと。」
「…分かりました。」
私達が頷くとエマニュエル卿は僅かに目を見開いた。…エマニュエル卿は陛下の側近だ。私達に取り入る理由は、有益な情報を持つ星渡りをここに繋ぎ止めておくためくらいしかない。しかもそれも、さっきの会話で皇妃陛下の母上の方が進んだ知識を持つと思っただろうしどちらにせよ私達の持つ知識もさほど変わらないので、どうしても繋ぎ止めておかなければならない理由はない。それに、皇宮に来てまだ間もないが今のところ皇宮で心から私達に気を配ってくれる人間はエマニュエル卿だけだ。味方なのかはまだ判断できないが、恐らくジゼル様と同様に敵にはならないだろう。それに、陛下の側近とお近づきになっておいて損はない。
「その時は、どうぞ宜しくお願いします。」
「はい、お任せください。」
到着した場所はやはり豪奢な内装で、プライベートエリアといえども侍女や侍従達が行き交っていたが役人なども行き交う下の階よりは随分と人気が少なかった。
「陛下のお部屋は…」
「あぁいえ、そこまで教えていただかなくても結構です。」
私が言うとエマニュエル卿は驚いたように私を見た。近くを通る侍女、侍従達はチラチラとこちらを見ていた。私はすぅ、と少し大きめの声を出すため息を吸う。
「私達がここに足を踏み入れる事は一生ないでしょうから。…エマニュエル卿は私達が誤ってここに迷い込んでしまわないようご配慮くださったのですよね?ありがとうございます。」
「それは、」
「エマニュエル卿。」
ジェラールは卿を呼んでちらりと侍女、侍従達を一瞥する。反応は下での反応と大体同じだ。…今は、陛下の気まぐれだと思われていた方が良い。まだ皇太子が確定していない今、後継者争いの火種になり得ると判断されるのは私とジェラールの平穏に支障が出るので困るのだ。
「…、そうですね。…ではお2人とも、まだ昼食には時間がありますし最後に少しお付き合いいただいても宜しいでしょうか?」
「?はい。」
「もちろんです。」
私達が頷くとエマニュエル卿は笑顔でありがとうございます、と言って歩き出した。プライベートエリアとは反対方向に廊下を突き進み、1番奥まで行くと階段が現れる。
「…お2人とも、お疲れではございませんか?いくら中身が…とはいえ、お身体は幼子ですから。お疲れでしたら遠慮なく仰ってください。」
階段前で卿は再びそう言った。確かに身体はこれまで碌な栄養を取って来なかった子どもだ、体力はそろそろ限界に近づいて来ていた。
(ここで倒れるのも迷惑よね…。)
(あぁ、それにエマニュエル卿は子どもの相手に慣れていそうだしな…。)
「…ではお言葉に甘えまして。すみません、少し疲れてしまいました。」
「虚弱で申し訳ありません。」
私達が言うと、エマニュエル卿はニコッとなんだか嬉しそうに笑った。
「いえ、お2人の境遇を考えれば無理もありません。では失礼致します。」
「わ、」
ヒョイ、と卿は私達を抱き上げた。両腕にそれぞれ私達を抱えて階段を上がる。
「…エマニュエル卿は子どもの相手がお上手なのですね。」
「おや、それは光栄です。私にはジェラール公子と同じ5歳になる双子の息子がいるのです。」
「あぁ、なるほど。それで。」
そんな話をしながら階段を上がり切ると、見張り台のような見通しの良い場所に出た。爽やかな風が心地良い。
「わぁ…。」
「すごい…。」
バルコニーに出るとソレーユ宮殿の広大な庭園や街が一望でき、とても良い眺めだった。エマニュエル卿はニコッと笑う。
「ここは私のお気に入りの場所です。以前は見張り台として衛兵が交代で詰めていたそうですが、今は新たに騎士の詰所に作られたのでここにはほとんど人が来ないので1人で少し休みたい時などには持ってこいなのですよ。」
「そうなのですね。風も気持ちが良いですし、とても良い場所ですね。」
「シャル、ベールが飛ばされないように気をつけろ。」
「あ、そうね。」
私達は少しの間黙って景色を眺めていた。ここからは庭園の半分ほどしか見えないが、本当に広い。1番近くには澄んだ湖のある離宮があり、その奥には金ピカに輝いている離宮がある。…日本にも金閣寺があったけれど、なんていうか…あの離宮は中々のご趣味ね…。私はあんな所住みたくないわ…。
「…私は、ルイーゼ様は無実だと思っております。」
「「!!」」
エマニュエル卿の予想外の言葉に私は弾かれるように振り向いた。私達を抱く卿は苦しげに顔を歪ませていた。
「…申し訳ありません。今更こんな事を言っても遅いですしお2人を困らせてしまうだけでしょうが…、…シャルロット殿下は、絶対に罪人の娘などではございません。貴女は…いや、子どもは皆愛されるべきなのです。」
「卿…。」
「私は一介の騎士、あの時はどうする事もできませんでしたし今後も私にできる事は多くはないでしょう。…ですが、私がお2人の盾になります。」
エマニュエル卿は真剣な表情でそう言った。…子どもが好きなのは本当の事だろう。卿が私達に向ける目は明らかに父親が子どもに向けるそれだ。
「私を信用して欲しい、とは申しません。ですが、どうぞ必要な時には遠慮なくお使いください。先程のように誰かに絡まれた時でも、呼んでくだされば少しはお役に立てるかと。」
「…分かりました。」
私達が頷くとエマニュエル卿は僅かに目を見開いた。…エマニュエル卿は陛下の側近だ。私達に取り入る理由は、有益な情報を持つ星渡りをここに繋ぎ止めておくためくらいしかない。しかもそれも、さっきの会話で皇妃陛下の母上の方が進んだ知識を持つと思っただろうしどちらにせよ私達の持つ知識もさほど変わらないので、どうしても繋ぎ止めておかなければならない理由はない。それに、皇宮に来てまだ間もないが今のところ皇宮で心から私達に気を配ってくれる人間はエマニュエル卿だけだ。味方なのかはまだ判断できないが、恐らくジゼル様と同様に敵にはならないだろう。それに、陛下の側近とお近づきになっておいて損はない。
「その時は、どうぞ宜しくお願いします。」
「はい、お任せください。」
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