人生三度目、今度こそ君と。

ルジェ*

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14.皇族と皇宮①

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~シャルロット~

 ジゼル様もお帰りになると私達は成人サイズに戻り、テール宮に入った。中もとても綺麗に手入れされており、それぞれの部屋には上品な新品のベッドやテーブルなどの家具が置かれていた。キッチンや水回りなども前世でのものと近しいもので、中々の設備だった。早速ジゼル様が持って来てくださった食材でアルに“スキル”の使い方を習いつつ夕飯を作る。

「スキルってのは、個人個人が持っている能力の事だ。シャシャは鑑定、ジェジェは…ほう、空間把握か。」

サラマンドルさん曰く、どちらも珍しくて貴重なスキルなのだそうだ。特に私の鑑定スキルはディアスティマ王国の王族にはよく見られるがそれ以外ではほぼ現れないスキルなのだそうだ。

「鑑定が使えればもし食事に何か盛られていてもすぐに分かるし、空間把握で敵の居場所を把握できれば随分有利に動けるだろう?」
「えぇ、あなた達は敵が多そうですものねぇ。1番に覚えるべきことね。」
「だが、すぐに覚えてしまうとはやはり流石だな。」
「今回教えたのは初級の使い方とはいえ、そんなに簡単ではないんだぜ?やっぱりセンスあるんだな!」

アル達はそう笑いながら褒めてくれた。初級の鑑定だと物の名前、それから簡単な特徴が書かれていて食材だと『腐っている』とか『毒入り』とかの注意書きも出るそうだ。今回ジゼル様が持って来てくださった食材はどれも新鮮だったので特に何も書かれておらず、私達はジゼル様への信頼が少し上がったのだった。

 そして翌日、朝起きるとジゼル様が持って来てくださった物の中にあった謎の卓上サイズの郵便受けのような物の中に手紙が入っていた。お母様曰くこれは手紙交換機ポストという魔道具のようで、それぞれのポストに割り振られている番号を指定してポストに手紙を入れると指定先に手紙が転送されるそうだ。この前世のメールのようなシステムや“ポスト”という名前なあたり、きっと開発者は私達と同じ20~21世紀あたりの記憶を持つ星渡りだろう。
 手紙の内容は陛下からの呼び出しで、私達は子ども姿に変身しジゼル様がくださった薬で髪色を変え、ベールもお母様につけてもらうとアルの転移魔法でソレーユ宮殿に赴いた。案内された部屋には子どもが3人と女性が1人、そして昨日の皇帝と推定貴族の人と騎士2名が私達を待ち受けていた。お母様はテール宮で掃除なんかをしてくれていて元お妃様がそんな事をできるのかと少し心配していたのだが、どうやらお母様は一時期ジゼル様のお母様…つまり現皇太后陛下の侍女をしていた事があったそうで、テキパキと働いていた。

「おはよう、昨夜はよく眠れたか?」
「ご機嫌よう陛下、おかげさまで。」
「お気遣いいただき身に余る光栄に存じます。」
「それは良かった、何かあれば遠慮なく申せ。…今日2人を呼んだのは我が妻子達と側近達を紹介しておこうと思ってな。」

…我が妻子達、ね。私はベールの中で小さく笑う。

(ふっ、シャルと叔従母おば上は違うんだな。)
(まぁお母様は離婚されてるから。)
(あぁ、それもそうか。)

「皆、この2人が昨夜話した2人だ。」
「…お初目にかかります、シャルロット・アデルと申します。」
「お初目にかかります、ジェラール・アラン・ド・アケルナルと申します。」

私達はそれぞれ礼をしながら挨拶する。はぁ、早く帰ってアル達から魔法の事を教わりたいわ。

「初めまして、わたくしはカトリーヌ・マリー。…シャルロット様。」

皇妃陛下は私の正面に立って私をじっと見つめた。何事かと私は首を傾げる。

「…とても大切なお話がしたいので、後日お茶会にお誘いしてもよろしいでしょうか?ご心配でしたら、神獣様やジェラール公子などもご一緒に。」

予想外の言葉に私は驚きつつアルを見ると、アルは小さく頷いた。

「…ありがたき光栄にございます、陛下。ではわたくしも皇宮での振る舞いは不慣れ故、お言葉に甘えて3名でお邪魔させていただきたく存じます。」
「えぇ、お待ちしておりますわ。神獣様とジェラール公子も、楽しんでいただけますよう誠心誠意準備させていただきますわ。」
「恐悦至極にございます。」
「ああ。」

皇妃陛下は優雅な微笑みを讃えつつもなんだか妙に苦しげに見えた。私はそんな陛下の様子に少し違和感を覚えつつ、一歩前に出た長男と思しき少年に目を向けた。

「初めまして、僕はクロード・ルイ。今年で10歳になる。妹と従弟に会えて嬉しいよ、よろしく。」

一見まともな事を言っている第1皇子の笑顔は、なんだかとてつもなく胡散臭かった。絶対腹黒いタイプでしょ、この子。いやでも次期国王ともなればそうなるのも仕方ないか…。そう考えると少し不憫な気もしてくる。

「…俺は第2皇子のエティエンヌ・ジャック。お前、なんで皇族でもないのに皇宮に住んでるんだよ。」
「エティ!」
「エティ、昨日父上から説明されただろ?公爵家で色々あったのと“魔力”が不安定で神獣様しか対処できないから、彼も皇宮で預かる事になったんだって。」

魔力が不安定…、なるほど、皇子達にはそう説明したのか。

「ごめんなさいねジェラール公子、とんだ失礼を…、」
「いえ、構いません。このくらいの子どもでしたら突然家に他人がやって来たら驚くのは当然でしょう。」

ジェラールはニコ、と微笑んだ。私達は中身は通算40代なので、子どものちょっとした意地悪程度どうという事もないし寧ろ第1皇子よりも余程子どもらしくて好ましさすら感じる。皇子達は変なものでも見るような目でジェラールを見た。

「ほらテオ、あなたも挨拶なさい。…テオ?」

テオ、と呼ばれる幼児は憮然とした表情でフイと顔を逸らした。

「テオ。」
「…テオドール・ロジェ。」

皇帝にも促され、渋々といった感じで挨拶するのが第3皇子だろう。第1皇子は「テオはシャルロットと同じ4歳だよ」と補足した。彼はギッと私を睨みつける。

「おれはおまえをかぞくとみとめないからな!きやすくはなしかけるなよ!!」
「まぁ。承知いたしました、殿下。」

本当は「陛下にも見捨てられていたので殿下方に認めていただけるとも、いただこうとも微塵も考えておりませんのでご心配なく~」と言いたいところだが、子どもには少し難しいかもしれないのでとりあえず笑顔で頷く。

「テオ!」
「ふん!」
「末の皇女はどうした?」
「あぁ、実は風邪をひいてしまって寝込んでおりますの。リゼットはまた後日にご挨拶させていただきますわね。」

アルが話題を逸らすと皇妃陛下はそう答えた。あらあら、お可哀想に…。

「まぁ、それはお大事になさってくださいませ。」
「季節の変わり目ですしね。」
「早く良くなると良いな。」

そんな話をしつつ次は皇帝の側近達を紹介された。推定貴族の人は宰相閣下だったようだ。

「私はラサルハグェ伯嫡男、フィリップ・ド・ラサルハグェと申します。」
「私は護衛騎士のエマニュエル・プルシオンと申します。陛下には陛下が15歳の頃からお仕えさせていただいております。どうぞ宜しくお願い致します、シャルロット殿下、ジェラール公子。」

エマニュエル卿はニコッと人懐っこい笑みを浮かべた。

「私も同じく陛下の護衛騎士の座をを賜っております、アンリ・ジョセフ・ド・キタルファと申します。」

黒髪の真面目そうな彼、アンリ卿は相変わらずの無表情できっちりと礼をした。

「…よし、では皇子達は剣の稽古に行って来なさい。後ほど皆で昼食にしよう。」
「「「はい。」」」

皇子達は頷き、第1皇子は私達にも笑顔で挨拶を、第2皇子はスルー、第3皇子は睨みつけて部屋を後にした。陛下はさて、と私達に目を向ける。

「…2人は星渡りとの事だが、前世の世界は科学が発展した世界か?」
「はい。」
「左様にございます。」

今訊くという事は恐らく皇子達には聞かれないよう追い出したのだろう。私達は素直に頷く。

「わたくしの母も星渡りなのですよ。お2人のご出身はどちらなのですか?」
「まぁ、そうなのですね。わたくし達は日本出身です。」
「まぁ、母と同じだわ!」
「そうでしたか。時代が同じとは限りませんが、同郷の方がいらっしゃるのは心強いですね。」

ジェラールの言葉に私も頷く。お母様達から聞いた話だと東の方には日本とよく似た文化の国があるそうだし、他にも日本出身の星渡りがいそうだ。

「ふむ、そういえば星渡りだと噂の盈月國の画家の絵がちょうど隣の部屋にあったな。」
「あぁ、そうでしたね。持って参りましょうか。」
「頼む、マニュ。」

エマニュエル卿は頷くと部屋を出て、すぐに戻って来た。彼は額縁に入った絵を手袋をした手で大事に抱え、私達の前に持って来て見せてくれる。
───これは。

「「北斎だーーーー!!??」」
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