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12.再会と後悔①

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~ジゼル~

「ご機嫌ようお兄様、一体これはどういう事ですの?」
「ジゼル、久しいな。身体の具合はどうだ?」

馬をかっ飛ばして皇宮から帰って来た公爵から「すまない、2人がテール宮で過ごす事になって止められなかった。」と聞き、わたくしが使用人達に引っ越しの準備を指示しつつ公爵も引きずって皇宮に乗り込むとお兄様は執務室で呑気にそう尋ねた。

「えぇおかげさまで大事ありませんわ、それよりこれはどういうおつもりでして?今更シャルロットになんの用ですの?」
「落ち着け、ジゼル。俺はただ自分の娘を皇宮に呼び戻しただけだ、何か問題でもあるのか?」

本気でそう言うお兄様にわたくしは流石にぶち、と堪忍袋の緒が切れた。

「はぁ!!??今までシャルロットの存在すらお忘れになっていたくせに、“自分の娘”ですって!!??どの口が仰っているんですか、どうせ魔力暴走でうちの離れが吹き飛んだらしいという噂を聞いてやっとあの子の事を思い出したのでしょうに!!!」
「待っ、ジゼル、」
「な、」
「大体!!!お兄様はルイーゼが皇妃陛下カトリーヌ様を殺害しようとしていたと思っていらっしゃるのですよね!!??それでわたくしの親友の!!身重のルイーゼに離婚を言い渡して皇宮から追い出し!!家族も領地へ戻らせて謹慎させているのですわよね!!??何故今更そんな犯罪者の娘をお側におかれるのです!!??母の代わりに幼子に罰をお与えになろうとでも仰るのですか!!??」
「ぐ…、待て、ジゼル。あの時は俺もどうかしていた。」

お兄様は苦しげにそう言った。

「…何ですって?」
「出産までは待ってやれば良かったと思っている。それに、子どもに罪はない。俺はあの子に何かしようとは一切考えていない。…ただ、皇女でありながらあんなにもの侮辱を受けていると知って、父としてせめて何かしてやらねばと思ったのだ。それに何より、皇家の沽券に関わる。」
「はぁ、それで皇宮に移らせた訳ですね。皇女である事を他でもない皇帝が認めている、と知らしめるために。」

わたくしがため息を吐きつつ言うとお兄様はそうだ、と頷いた。一応お兄様もほんの少しはシャルロットには悪いと思っているようだ。…全く、どうしてこうわたくしの周りの男達はこうなのかしら。

「今更ですけれど、お考えは分かりましたわ。…本当に今更ですけれど。」
「ジゼル…。」
「ぐっ。」
「まぁわたくし達も不覚を取ってしまったのでお兄様ばかり責める事はできませんわね。…ですがそれなら何故離宮に?公爵家でも良かったのでは?」
「…実はな、まだ公にはしていないがシャルロットとジェラールは星渡りのようだ。」
「!」

声を潜めるお兄様にわたくしは僅かに目を見開いた。やはりそうだったのね…。

「そして、神獣によるとどうやら2人の魂が不安定で危険な状態ならしい。神獣なら何とかできると言うので神獣と共にテール宮に移らせた。」
「な!…大丈夫なのですね?」
「あぁ、魔法でどうにか安定させ続ければ成長と共に良くなるそうだ。」

お兄様の言葉にわたくしはホッと息を吐く。…わたくしに心配する資格などないだろうが、それでもこれからはあの子達ができるだけ理不尽や悪意に晒される事なく過ごしてくれたらと思う。…まぁ、皇宮へ行ってしまった時点でそれはかなり難しくなってしまったが。

「…それより、ジェラールも離宮にいる理由はどうする?星渡りである事は然るべき時が来るまで黙っておいた方が良いだろう。」
「えぇ、そうですわね。でないと継承争いに担ぎ出される可能性もありますわ、…エレのように。…そうだわ、いっそ本当にわたくしがジェラールを虐待していたと噂を流しましょう。そして公爵が陛下に助けを求め、見かねたお兄様が2人纏めて引き取った、という事にしては?そうすればアケルナル公爵家の醜聞も広まりますし、バランスは取れるでしょう。」
「あぁ、そうだな。」
「そうしよう。」
「侍女や使用人はどうする?下手に皇宮の人間を送らせてシャルロットに敵意を持った人間と当たってしまうよりはうちから送った方が良いだろう。」

お兄様の前で臆面もなくそう言う公爵もなんだかんだでシャルロットやルイーゼの件で多少の怒りは感じていたのだろう。ぐ、と呻くお兄様を尻目にわたくしはそうねと頷く。

「でも神獣様がついているなら護衛は必要ないかもしれませんわね。侍女は後ほどわたくしが厳選して送りますわ。」
「確かにそうだな、ではそちらはあなたに頼もう。」

公爵は頷いた。

「ではお兄様、わたくしはこれで。」
「私も失礼します。」

わたくし達は項垂れるお兄様を他所に執務室を後にした。公爵は防音魔法をかけて共に歩き始める。

「…叔父の所にも皇宮へ移ったという連絡はした。恐らく近いうちに会いに来るだろう。その時にルイーゼに長く使えていた使用人を寄越してもらえないか訊いておく。」
「あぁ、その方が良いかもしれませんわね。ひとまず今から2人の様子を見て参りますのでそれから詳しく決めましょう。」
「そうしよう。」

そんな話をしながらわたくし達は外に出る。ここからは公爵とは別の道だ。

「…2人に宜しく伝えてくれ。…健やかに、のびのびと育つようにと。」
「…、はぁ、本当にあなたは。そういうところでしてよ?」

わたくしがため息を吐くと、彼は怪訝そうに首を傾げた。…あぁもう。本当に不器用なんだから。

「だから、あなたも王都にいる限りはいつでも会いに来れるでしょう?…今生の別れじゃないのですから、ご自分で仰っては如何?」
「!」

わたくしが言うと公爵は少し驚いたように目を見開いた。

「というか、そうでないといつまで経ってもあなたはあの子達の中で“公爵”のままですわよ?…まぁ、それはわたくしも同じ事ですけれど…。」
「!…はは、それは少し寂しいな。…なるべく、人目には付かぬよう会いに行こう。」
「ふ、えぇ。拒絶されない限りはそうなさると良いと思いますわ。」
「…あぁ。」

わたくし達はそうして別れた。わたくしは転移魔法でテール宮へと向かう。必要な物は何か考えていると、謎の大精霊が自分が侍女をやると言い出して。


「その声…、ルイーゼ…!!??」


「「え?」」

わたくしが言うと見た目は全くの別人の姿を取っている彼女は、少しバツが悪そうに視線を泳がせたのだった。
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