人生三度目、今度こそ君と。

ルジェ*

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6.初の謁見①

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~シャルロット~

 翌朝、私達は朝食後に少し皇宮での振る舞いを復習して、魔法の薬で髪を染めた。私は綺麗な栗色に、ジェラールはジゼル様と同じ綺麗な赤髪になった。今までと全く違った色なので随分とイメージが変わる。

「できたわ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。…アケルナル家の者は銀髪が多いのですか?」

ジェラールが尋ねると、ジゼル様は違うのよ、と返す。

「詳しくは帰って来たら話してあげるけれど、まずルイーゼの母上…つまりシャルロットのおばあさまは隣国、ディアスティマ王国の元王女なの。」

へぇ、そうだったんだ。ジゼル様は見事な刺繍の真っ白なベールとピンを手に取り、ジゼル様自ら私に付けてくださる。

「そしてジェラールもおばあさまの方の曾祖父がへーリオス家…、ディアスティマ王家に連なる方だったそうよ。そしてへーリオス家は月の女神からの加護を受けていて、その証がモーヴシルバーの髪なの。公爵やジェラールはへーリオス家の血が薄まって紫の色味が抜けてしまったのだと思うわ。」
「女神様…。」
「えぇ。…はい、できたわ。刺繍で口元を隠してあるからあまり触ったりしてずらさないようになさい。」
「はい。」

私は頷きつつ鏡を覗く。すると緻密で美しい刺繍がちょうど口元を隠してくれていて、ぱっと見は本当にエレオノール様そっくりだった。

「奥様、馬車の用意ができました。」
「そう、ありがとう。…2人とも、行きましょうか。」
「「はい。」」

私達は玄関へ向かう。階段はベールで視界が悪くて危ないからという事で執事が抱っこしてくれ、降りきった玄関ホールで降ろしてもらうと公爵が待っていた。私を見て目を見開く。

「…エレ…。」
「…そっくりでしょう?」

ジゼル様は切なげに微笑んだ。…公爵とジゼル様達はもしかして幼馴染とかなのだろうか。

「…2人を頼みますわよ。」
「あぁ。…行こう。」


 そうして私達は公爵に連れられてエスパス帝国の皇宮、ソレーユ宮殿にやって来た。ソレーユ宮殿はとても大きくて美しく、華麗、豪華絢爛、荘厳、そんな言葉全てを煮詰めたかのような佇まいで圧倒されてしまう。中に入り回廊を進んでいると高い天井から輝いているシャンデリア、上品な壁画、そして柱の一本を取っても美しく、前世の歴史の教科書なんかで見たベルサイユ宮殿を彷彿させた。謁見の間に辿り着くと私達はジゼル様に教わった通りにお辞儀をする。…早く帰りたい。

「…お初目にかかります皇帝陛下、わたくしはルイーゼ・エリザベート・ド・アケルナルの娘シャルロット・アデルと申します。」
「我等が太陽にお初目にかかります、私はジェラール・アラン・ド・アケルナルと申します。」
「面を上げよ。」

顔を上げるとそこには玉座に腰掛ける皇帝、それから護衛と思しき騎士2名と貴族らしき誰かがいた。陛下と推定貴族の人、それから騎士様はあまり顔には出さないようにしつつも少し驚いたように私を見ていた。…きっとこの人達もエレオノール様をご存知なのだろう。

「…ふむ。急に呼び立ててしまって申し訳なかったな。余がエスパス帝国皇帝、アンセルム2世だ。姫が魔力の暴走を起こしたそうだが大事ないか?」

姫、という言葉に少々引っかかりを覚えつつも私ははい、と頷く。

「お気を煩わせてしまいまして申し訳ございません。」
「良い、幼いうちは皆そうだ。」

皇帝は鷹揚に頷いて私をじっと見つめる。

「…エレとよく似ているな。」

ぽつりと呟いた皇帝の言葉に、私とジェラール以外の皆さんが頷く。

「このベールもエレオノール殿下の遺品では?」
「あぁ、妻が持っていたものだ。」
「なるほど。…懐かしいですね。」

大人達は皇帝の許しを求める事なく普通に話しているので、これはそんなに畏まった場ではないのだろう。陛下もそうだな、と頷く。

「…ところで公子。その傷はどうした?」
「!」
「……。」

陛下は話題を変えてジェラールの頬に目をやる。私達の傷は大体ジゼル様が治してくださったが、あまり治癒魔法に頼りすぎると身体の治癒能力が下がってしまうので小さなかすり傷は魔法では治さないでおく、と仰っていた。そんな小さな傷まで気付くとは。

「…ジェラール。」

公爵に促され、言いたくはないが仕方なく口を開く。

「…別に、剣の稽古でできたものです。大したものではございませんのでどうぞお気になさらぬよう。」

ジェラールはそっけなく平然と嘘を答える。こらこら、不敬罪になっちゃうぞ☆

「ふむ。では姫の手の甲にある引っ掻いたような傷はなんだ?」
「「っ…。」」

皇帝はジェラールの態度については何も言わず、私達は良いのか…と思いつつも言葉を詰まらせた。

(目敏いわねこの男…。)
(流石に皇帝は騙せないか…。)
(っていうか何なのこの男は。今まで私の事なんて忘れてた癖に今更呼び出して。しかも“姫”だなんて。馬鹿にしてるの?…あぁ、ムカつくわ。)
(シャル?)

「…お答えする義理はございませんわ。」
「「!」」
「…。」
「今までわたくし達の事などほんの少しの興味もなかったくせに突然何なのですか?正直言って急に呼び出されて根掘り葉掘り聞かれても困りますし怪しくて信用できませんわ。非常に不愉快です。」

要は迷惑って事だ。放置するなら最後まで放置しておいてほしかった。

「シャルロット、」
「っ、皇帝陛下の御前であるぞ!いくら皇女殿下であっても…」
「黙れ。」
「しかし陛下…!」
「あら、わたくし何か失礼な事を申しましたか?それは大変申し訳ございませんが…、あなた方も大概失礼ではございませんこと?それとも、会った事もなければよく知りもせぬ相手から訳も分からず呼び出され尋問される事は失礼ではないと仰る?あらまぁ、なんて野蛮な風儀なお国でしょう。」

(シャル、そろそろやめろ…!)

「シャルロット、やめなさい。…大変申し訳ございません陛下、どうやらシャルロットは緊張のあまり混乱しているようなので本日はこれで…」
「ふふ、そこの騎士様は大層陛下をお慕いなさっていらっしゃるのですね。殺気がダダ漏れですわよ?」

私はベールの下でにっこりと笑った。あぁ、本当に腹立たしい。皇帝もそこの騎士も、どう考えても幼子に、しかも仮にも皇帝の娘に対する態度ではないだろう。…そんなに嫌なら最初から殺せば良かったものを。

「どうぞ、殺したいなら殺してください。わたくしが死んだところで誰も何も困りませんから。」
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