上 下
2 / 23

2.悲報

しおりを挟む
 本邸では今までとは真反対に丁重な扱いを受けた。ジェラールも私も暴力を振るわれる事はなくて少し驚いてしまうが、しかしそういえばそれが普通なんだよな、と思い出して私達はここでの生活に随分毒されてしまったと苦笑した。

「先日の爆発はお嬢様の魔力の暴走によって起きたものですよ。」

本邸で私達のお世話をしてくれている侍女2人はそう答えた。私の風邪も治って私達は部屋でおやつのビスケットを食べながら彼女の話を聞く。

「幼い頃は魔力の循環が上手くいかず暴走を起こす事も割とよくあるのです。特に、体調を崩した時や魔力量が多い子どもは。お嬢様はとても魔力量が多いようですから、風邪をひかれた事もあって魔力の暴走を起こしたのでしょう。」

なるほど…、そういう事だったんだ。私達は納得する。

「じゃあジェールはどうなんですか?」
「もちろん、ジェラール様も可能性はございますよ。お2人共皇族の方、皇族は初代皇帝が火の大精霊から加護を受けたので皆とても魔力量が多いのです。…言い換えれば、だからこそ初代皇帝陛下は戦乱の世を平定し平和をもたらし、そして歴代の皇帝もその圧倒的な力で6世紀にも渡って平和を維持してくださっているのです。」

ふーん、なるほどね…。皇族が強ければ、他国への牽制にもなるし自国でも魔王に逆らおうとする貴族なんかいない、と。気にすべきは皇族同士での継承争いだけってことね。

「初代皇帝の忠臣であるアケルナル公爵家は代々武勲をあげて来ましたが、それは魔法だけでなく剣や馬術、戦術などを駆使した結果なので単純な魔力量は皇族には劣ります。」
「魔法は誰でも使えるのですか?」
「えぇ、この星に住まう全ての人間が魔力を生まれ持っていて魔法を使えるんですよ。お2人がもう少し大きくなられたら魔法のお勉強が始まるでしょう。」

侍女はニコッと優しく微笑んだ。…前世までならあっさりとこの侍女達に懐いていただろうが、今世は事情が事情なので全く信用できない。嫡男のジェラールはともかく、皇妃を害そうとした人間の子に優しくしなくてはいけない義務などない。嫌われて当然だ。その優しさがなんだか得体が知れなくて少し気持ち悪い。親の罪と子どもは無関係だという考えが正論だが、そう考えない人も多い事はこれまでの人生で知っている。彼女達は私達を懐柔するためにわざと優しいふりをしているだけかもしれない。公爵家の嫡男と、追い出されたとはいえ皇族だから仕方なくそうしているだけかもしれない。…、疲れるわね…。

(…そうだな。…よし、大きくなったらここを出て冒険者になろう。)

ジェラールは魔法で私に念を飛ばしてそう言った。私達はまだ魔法の使い方などわからないがある時強く念じたら偶然できてしまい、それだけは使えるのだ。

(そうね。国も出て他の国に行きましょう。そうすればきっと私達も自由に生きていけるわ。)
(あぁ、誰も知り合いのいない遥か遠くまで行こう。)

そんな話をおやつを食べている中密かにしていると、突然部屋をノックする音が聞こえた。侍女の1人が扉を開け、数言話すとジゼル様とその侍女が入って来た。最近なんだか忙しそうにしていたので本邸に移ってからもあまり会わなかったのだがどうかしたのだろうか。

「2人とも、陛下から皇宮へ呼び出しがかかったわ。」
「「「!!??」」」

ジゼル様が少し不服そうに告げた言葉に私達は自分の耳を疑う。皇帝が私達を?なんで今更?そもそもなんの用?ついに殺される?いやでもそれだとジェラールも一緒なのはおかしいわよね…。

「明日、公爵と皇宮へ行くから準備をしておいて。」
「かしこまりました、奥様。」

侍女2人は綺麗にお辞儀をした。…やっぱりこの人達は所作も丁寧できちっとしているし教養もありそうだし、主の前だからとはいえ言葉遣いやなんかも離れにいた侍女とは大違いだ。本邸と離れとでレベルの差がありすぎではないだろうか。離れの方の侍女はそこまで教育が行き届かないのかそれとも敢えてしなかったのか、それとも教えてもできない人達の左遷先なのか…。

「ひとまず2人とも、その髪をなんとかなさい。その後は皇宮での作法を教えるから、私の部屋まで来るように。良いわね?」
「「はい。」」

私達が頷くとジゼル様はドレスのスカート部分を翻して部屋を後にした。侍女達は散髪の準備をする。私達の髪は伸び放題のボサボサで、前髪も離れの元侍女達に適当にハサミで切られただけだったのでガタガタだしほとんど目も隠れていた。

「さぁお2人とも、お髪をさっぱりさせましょうね。」
「「…。」」

ハサミを握る彼女達を見て私達は警戒する。…流石に皇帝の前に出すのに髪をズタズタにするはずわけない、わよね…?公爵家の名に泥を塗ることになるし…。

「?どうかなさいましたか?」
「…あの、前髪は自分で切らせてください。」

私が言うと侍女達は一瞬驚いた表情を見せた。しかし私達のガタガタでボサボサな髪を見て察したのか、何も聞かずに頷いた。前髪は前世でも自分で切っていたのでそのくらいはお手のものだ。
 散髪が終わると頭が軽くなって視界も良好になり、スッキリする。が、目の前の鏡には金色に輝く瞳が映っていて私は目を逸らした。私はこの目が嫌いだ。これが私が皇族である事を示している。火の大精霊の祝福だそうだが…、皇帝は私のこの目を不快に思うのではないだろうか。やっぱり前髪は切らないままの方が良かったか…?

「似合うな、シャル。」
「ありがとう、ジェールもかっこよくなったね。」
「ありがとう。」
「えぇ、お2人ともとってもよくお似合いです!」

侍女達は満足そうに言った。そして侍女達に連れられジゼル様の所へ向かう。

「奥様、ジェラール様とシャルロット様をお連れいたしました。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

処理中です...