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2.悲報
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本邸では今までとは真反対に丁重な扱いを受けた。ジェラールも私も暴力を振るわれる事はなくて少し驚いてしまうが、しかしそういえばそれが普通なんだよな、と思い出して私達はここでの生活に随分毒されてしまったと苦笑した。
「先日の爆発はお嬢様の魔力の暴走によって起きたものですよ。」
本邸で私達のお世話をしてくれている侍女2人はそう答えた。私の風邪も治って私達は部屋でおやつのビスケットを食べながら彼女の話を聞く。
「幼い頃は魔力の循環が上手くいかず暴走を起こす事も割とよくあるのです。特に、体調を崩した時や魔力量が多い子どもは。お嬢様はとても魔力量が多いようですから、風邪をひかれた事もあって魔力の暴走を起こしたのでしょう。」
なるほど…、そういう事だったんだ。私達は納得する。
「じゃあジェールはどうなんですか?」
「もちろん、ジェラール様も可能性はございますよ。お2人共皇族の方、皇族は初代皇帝が火の大精霊から加護を受けたので皆とても魔力量が多いのです。…言い換えれば、だからこそ初代皇帝陛下は戦乱の世を平定し平和をもたらし、そして歴代の皇帝もその圧倒的な力で6世紀にも渡って平和を維持してくださっているのです。」
ふーん、なるほどね…。皇族が強ければ、他国への牽制にもなるし自国でも魔王に逆らおうとする貴族なんかいない、と。気にすべきは皇族同士での継承争いだけってことね。
「初代皇帝の忠臣であるアケルナル公爵家は代々武勲をあげて来ましたが、それは魔法だけでなく剣や馬術、戦術などを駆使した結果なので単純な魔力量は皇族には劣ります。」
「魔法は誰でも使えるのですか?」
「えぇ、この星に住まう全ての人間が魔力を生まれ持っていて魔法を使えるんですよ。お2人がもう少し大きくなられたら魔法のお勉強が始まるでしょう。」
侍女はニコッと優しく微笑んだ。…前世までならあっさりとこの侍女達に懐いていただろうが、今世は事情が事情なので全く信用できない。嫡男のジェラールはともかく、皇妃を害そうとした人間の子に優しくしなくてはいけない義務などない。嫌われて当然だ。その優しさがなんだか得体が知れなくて少し気持ち悪い。親の罪と子どもは無関係だという考えが正論だが、そう考えない人も多い事はこれまでの人生で知っている。彼女達は私達を懐柔するためにわざと優しいふりをしているだけかもしれない。公爵家の嫡男と、追い出されたとはいえ皇族だから仕方なくそうしているだけかもしれない。…、疲れるわね…。
(…そうだな。…よし、大きくなったらここを出て冒険者になろう。)
ジェラールは魔法で私に念を飛ばしてそう言った。私達はまだ魔法の使い方などわからないがある時強く念じたら偶然できてしまい、それだけは使えるのだ。
(そうね。国も出て他の国に行きましょう。そうすればきっと私達も自由に生きていけるわ。)
(あぁ、誰も知り合いのいない遥か遠くまで行こう。)
そんな話をおやつを食べている中密かにしていると、突然部屋をノックする音が聞こえた。侍女の1人が扉を開け、数言話すとジゼル様とその侍女が入って来た。最近なんだか忙しそうにしていたので本邸に移ってからもあまり会わなかったのだがどうかしたのだろうか。
「2人とも、陛下から皇宮へ呼び出しがかかったわ。」
「「「!!??」」」
ジゼル様が少し不服そうに告げた言葉に私達は自分の耳を疑う。皇帝が私達を?なんで今更?そもそもなんの用?ついに殺される?いやでもそれだとジェラールも一緒なのはおかしいわよね…。
「明日、公爵と皇宮へ行くから準備をしておいて。」
「かしこまりました、奥様。」
侍女2人は綺麗にお辞儀をした。…やっぱりこの人達は所作も丁寧できちっとしているし教養もありそうだし、主の前だからとはいえ言葉遣いやなんかも離れにいた侍女とは大違いだ。本邸と離れとでレベルの差がありすぎではないだろうか。離れの方の侍女はそこまで教育が行き届かないのかそれとも敢えてしなかったのか、それとも教えてもできない人達の左遷先なのか…。
「ひとまず2人とも、その髪をなんとかなさい。その後は皇宮での作法を教えるから、私の部屋まで来るように。良いわね?」
「「はい。」」
私達が頷くとジゼル様はドレスのスカート部分を翻して部屋を後にした。侍女達は散髪の準備をする。私達の髪は伸び放題のボサボサで、前髪も離れの元侍女達に適当にハサミで切られただけだったのでガタガタだしほとんど目も隠れていた。
「さぁお2人とも、お髪をさっぱりさせましょうね。」
「「…。」」
ハサミを握る彼女達を見て私達は警戒する。…流石に皇帝の前に出すのに髪をズタズタにするはずわけない、わよね…?公爵家の名に泥を塗ることになるし…。
「?どうかなさいましたか?」
「…あの、前髪は自分で切らせてください。」
私が言うと侍女達は一瞬驚いた表情を見せた。しかし私達のガタガタでボサボサな髪を見て察したのか、何も聞かずに頷いた。前髪は前世でも自分で切っていたのでそのくらいはお手のものだ。
散髪が終わると頭が軽くなって視界も良好になり、スッキリする。が、目の前の鏡には金色に輝く瞳が映っていて私は目を逸らした。私はこの目が嫌いだ。これが私が皇族である事を示している。火の大精霊の祝福だそうだが…、皇帝は私のこの目を不快に思うのではないだろうか。やっぱり前髪は切らないままの方が良かったか…?
「似合うな、シャル。」
「ありがとう、ジェールもかっこよくなったね。」
「ありがとう。」
「えぇ、お2人ともとってもよくお似合いです!」
侍女達は満足そうに言った。そして侍女達に連れられジゼル様の所へ向かう。
「奥様、ジェラール様とシャルロット様をお連れいたしました。」
「先日の爆発はお嬢様の魔力の暴走によって起きたものですよ。」
本邸で私達のお世話をしてくれている侍女2人はそう答えた。私の風邪も治って私達は部屋でおやつのビスケットを食べながら彼女の話を聞く。
「幼い頃は魔力の循環が上手くいかず暴走を起こす事も割とよくあるのです。特に、体調を崩した時や魔力量が多い子どもは。お嬢様はとても魔力量が多いようですから、風邪をひかれた事もあって魔力の暴走を起こしたのでしょう。」
なるほど…、そういう事だったんだ。私達は納得する。
「じゃあジェールはどうなんですか?」
「もちろん、ジェラール様も可能性はございますよ。お2人共皇族の方、皇族は初代皇帝が火の大精霊から加護を受けたので皆とても魔力量が多いのです。…言い換えれば、だからこそ初代皇帝陛下は戦乱の世を平定し平和をもたらし、そして歴代の皇帝もその圧倒的な力で6世紀にも渡って平和を維持してくださっているのです。」
ふーん、なるほどね…。皇族が強ければ、他国への牽制にもなるし自国でも魔王に逆らおうとする貴族なんかいない、と。気にすべきは皇族同士での継承争いだけってことね。
「初代皇帝の忠臣であるアケルナル公爵家は代々武勲をあげて来ましたが、それは魔法だけでなく剣や馬術、戦術などを駆使した結果なので単純な魔力量は皇族には劣ります。」
「魔法は誰でも使えるのですか?」
「えぇ、この星に住まう全ての人間が魔力を生まれ持っていて魔法を使えるんですよ。お2人がもう少し大きくなられたら魔法のお勉強が始まるでしょう。」
侍女はニコッと優しく微笑んだ。…前世までならあっさりとこの侍女達に懐いていただろうが、今世は事情が事情なので全く信用できない。嫡男のジェラールはともかく、皇妃を害そうとした人間の子に優しくしなくてはいけない義務などない。嫌われて当然だ。その優しさがなんだか得体が知れなくて少し気持ち悪い。親の罪と子どもは無関係だという考えが正論だが、そう考えない人も多い事はこれまでの人生で知っている。彼女達は私達を懐柔するためにわざと優しいふりをしているだけかもしれない。公爵家の嫡男と、追い出されたとはいえ皇族だから仕方なくそうしているだけかもしれない。…、疲れるわね…。
(…そうだな。…よし、大きくなったらここを出て冒険者になろう。)
ジェラールは魔法で私に念を飛ばしてそう言った。私達はまだ魔法の使い方などわからないがある時強く念じたら偶然できてしまい、それだけは使えるのだ。
(そうね。国も出て他の国に行きましょう。そうすればきっと私達も自由に生きていけるわ。)
(あぁ、誰も知り合いのいない遥か遠くまで行こう。)
そんな話をおやつを食べている中密かにしていると、突然部屋をノックする音が聞こえた。侍女の1人が扉を開け、数言話すとジゼル様とその侍女が入って来た。最近なんだか忙しそうにしていたので本邸に移ってからもあまり会わなかったのだがどうかしたのだろうか。
「2人とも、陛下から皇宮へ呼び出しがかかったわ。」
「「「!!??」」」
ジゼル様が少し不服そうに告げた言葉に私達は自分の耳を疑う。皇帝が私達を?なんで今更?そもそもなんの用?ついに殺される?いやでもそれだとジェラールも一緒なのはおかしいわよね…。
「明日、公爵と皇宮へ行くから準備をしておいて。」
「かしこまりました、奥様。」
侍女2人は綺麗にお辞儀をした。…やっぱりこの人達は所作も丁寧できちっとしているし教養もありそうだし、主の前だからとはいえ言葉遣いやなんかも離れにいた侍女とは大違いだ。本邸と離れとでレベルの差がありすぎではないだろうか。離れの方の侍女はそこまで教育が行き届かないのかそれとも敢えてしなかったのか、それとも教えてもできない人達の左遷先なのか…。
「ひとまず2人とも、その髪をなんとかなさい。その後は皇宮での作法を教えるから、私の部屋まで来るように。良いわね?」
「「はい。」」
私達が頷くとジゼル様はドレスのスカート部分を翻して部屋を後にした。侍女達は散髪の準備をする。私達の髪は伸び放題のボサボサで、前髪も離れの元侍女達に適当にハサミで切られただけだったのでガタガタだしほとんど目も隠れていた。
「さぁお2人とも、お髪をさっぱりさせましょうね。」
「「…。」」
ハサミを握る彼女達を見て私達は警戒する。…流石に皇帝の前に出すのに髪をズタズタにするはずわけない、わよね…?公爵家の名に泥を塗ることになるし…。
「?どうかなさいましたか?」
「…あの、前髪は自分で切らせてください。」
私が言うと侍女達は一瞬驚いた表情を見せた。しかし私達のガタガタでボサボサな髪を見て察したのか、何も聞かずに頷いた。前髪は前世でも自分で切っていたのでそのくらいはお手のものだ。
散髪が終わると頭が軽くなって視界も良好になり、スッキリする。が、目の前の鏡には金色に輝く瞳が映っていて私は目を逸らした。私はこの目が嫌いだ。これが私が皇族である事を示している。火の大精霊の祝福だそうだが…、皇帝は私のこの目を不快に思うのではないだろうか。やっぱり前髪は切らないままの方が良かったか…?
「似合うな、シャル。」
「ありがとう、ジェールもかっこよくなったね。」
「ありがとう。」
「えぇ、お2人ともとってもよくお似合いです!」
侍女達は満足そうに言った。そして侍女達に連れられジゼル様の所へ向かう。
「奥様、ジェラール様とシャルロット様をお連れいたしました。」
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