殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*

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「それでね?酷いのよ、あの人ったら!私があんなに楽しみにしていたタルトを…!!!」

ぐぬぬ、と悔しそうにしているグラシアにセシリアはあはは!とおかしそうに笑う。
 今日は久しぶりのお茶会だった。急に決まったお茶会だったので参加者はわたくしとグラシア、それからセシリアだけだったが、それでもこうして共にテーブルを囲むのはなんだかとても賑やかで懐かしい気分になる。

「ふふ、仲良くやっているようで何よりだわ。」
「どこが!!!」
「ふふっ。」
「あはは、本当、相変わらずのようで安心しました。」
「もう!…セシリアも、ウィルフレッド様と相変わらず仲良くやっているようね。お子さんは元気?」
「えぇ、元気過ぎて困っているくらいですよ。昨日もお義母様とお散歩しに行ったかと思えばずぶ濡れで慌てた様子の侍従に抱えられて戻って来て…。」

やれやれと言った様子のセシリアは、ウィルフレッド卿と盛大で当時では斬新な、今では大流行している形式の結婚式を挙げた後すぐに学生でありながら見習いとして魔法師団で働き始めた。渡り人としての知識なのかたくさんの画期的な魔道具を考案したり魔物を討伐しまくったりと初っ端から目覚ましい活躍を遂げた彼女は、卒業後新たに創設された魔法師団の特殊部隊、零番隊の副隊長に任命された。もちろん隊長はウィルフレッド卿である。ニコラス様達とも上手くやっているようだし、3歳になるお子さんもお2人の血を受け継いで莫大な魔力と天才的なセンスを既に見せているそうで逆に狙われないかと心配になってしまう。

「ふふ、可愛いじゃない。けど親は大変よね。…レティはどう?身体は平気?」
「ふふ、大丈夫よ。むしろ皆少し過保護で、する事がなくて暇すぎるくらいかしら。」

わたくしは膨らんだお腹をそっと撫でる。…あの後、少し時間がかかってしまったがわたくしはついに王太子妃となりディエゴ殿下と共にこの国を支え守る事にした。一度は第二王子と婚約していたわたくしを世間が許すかと心配だったが、殿下やお父様達が根回ししておいてくださったのか意外ととても祝福されて安堵したのがついこの前の事のようだ。

「あはは、ディエゴ殿下らしいですね。」
「平和そうで安心したわ。」

そう笑うグラシアもオルキデア伯爵家と古くから親交がある侯爵家のご長男と昨年結婚し、仲良くやっているようだ。ラウラもアリシア様もそれぞれ良い方と結婚し、アリシア様は魔法師団でも活躍している。…あのパーティーでの騒動から5年。わたくし達の立場もこの国も、随分と変わった。きっとこれからもどんどん変わっていくのだろう。
───だけど。

「レティ!」
「あら、ヤゴ。」
「殿下。ご機嫌よう。」
「殿下にご挨拶申し上げます。」
「やぁ、ご夫人方。楽にしてくれ、セシリアも辛いだろう?」

ディエゴ殿下…、ヤゴの言葉にわたくしとグラシアは首を傾げるがセシリアは少し呆れたように殿下、と言う。

「人の子はこの程度で死んでしまう程脆くはないのですよ。寧ろ、少しは運動しないと身体に良くないんですから。」
「だとしてもシシーの少しは全然少しじゃないからダメだよ。」
「うわ、ウィル。」

ヤゴの背後から現れたのはウィルフレッド卿だった。…もしかしてセシリア…、

「…おめでたなの?」
「あはは…、安定したらお伝えしようと思っていたのですが。」
「まぁ、おめでとう!…卿もおめでとう、良かったわね!」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます、レティシア殿下。」
「そうだったのね、おめでとう!じゃあまたうちのハーブティー送るわね。」

グラシアが言うとセシリアは嬉しいです!と顔を綻ばせた。オルキデア領のハーブティーはとても香りが良く大人気なのだ。

「ところでお2人は何故こちらへ?何かございまして?」
「あぁそうだ、母上が昨日のお茶会で珍しいフルーツを貰ったから3人も一緒にどうかと言っていてな。ついでにセシリアが良い食べ方も知っていればラッキー、とも。」
「俺は偶然そこで殿下と遭遇したので護衛ついでに。」
「なるほど。」
「まぁ、是非。」
「うーん、分かるとは限りませんよ?」

わたくしはヤゴの手を取り、歩き出す。セシリアを抱えて行こうとするウィルフレッド卿をセシリアが「このくらい歩いたって死にやしないわよ⁉︎」と怒っており、すかさずわたくしを抱き上げたヤゴにも「殿下!張り合わなくて良いですから!そのくらいは歩かせてください!!健康に悪い!!!」と叱った。兄妹のようなヤゴとセシリア、ウィルフレッド卿の掛け合いはいつ見ても楽しくて、実は結構好きだったりする。残念そうにしつつわたくしを降ろすヤゴにわたくしとグラシアは笑ってしまい、わたくし達は賑やかにイボンヌ様の元へと向かう。


 多くの事が変わって、この先もきっとどんどん変わっていくだろうけれど。それでも、わたくし達の絆がこの先もずっと変わらずに…そして、生まれてくる子ども達が笑って過ごせると良いなと思うのだった。
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みんなの感想(1件)

兎月
2023.11.23 兎月

会話文と文章の間は一行空けていただけたほうが、読者としては読みやすいです。

2023.11.23 ルジェ*

ご意見ありがとうございます。確かにweb小説と書籍の小説は違いますよね…。手の空いている時に手直ししていきます!

解除

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