殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*

文字の大きさ
上 下
16 / 17

友達とショッピング

しおりを挟む
 私はまずこの辺りで1番人気で高級路線のお店に入った。商業地区に住まう平民の女の子が大事なデートの服を買うとなれば絶対にここが真っ先に候補に挙がる。

「いらっしゃいませ。」
「わぁ…!」

お嬢様達は珍しい平民のファッションに目を輝かせていた。私はざっと店内を見渡す。

「…ねぇレティ、どんな服が好み?」
「えっと…、…そうね、あの店員さんが着ている服とかとっても可愛いと思うわ。」
「なるほど、上品系ね。確かに貴女にとっても似合うでしょう。…じゃあこの辺りとか?」

私はレティシア様が好きそうなブラウスをいくつか広げる。…ここは私もよく来るお店なので配置は大体把握していた。

「わぁ、可愛い!」
「レティに似合いそう!」
「ねぇ、こっちのワンピースも似合いそうじゃない?」
「あ、それも素敵ね!」

そんな風にみんなでわいわいしながらレティシア様の服を選んで、散々悩みながらも上品で可愛らしいワンピースと柔らかな薄手のカーディガンというコーデに収まった。うん、可愛い。

「ねぇ、サンダルとか持ってる?」
「あぁ…、…えぇと、持ってはいるけれど…。」

歯切れの悪い返事になんとなく察する。

「じゃあこのサンダルはどう?本当は履き慣れたのが一番なんだけど…。」

きっと殿下とのデートではそれなりに歩く事になるだろう。新しい靴は靴擦れしやすいし、履き慣れたものに越した事はないのだが。

「わっ、可愛い!」
「サイズもぴったりだし、歩きやすいわ…!」
「それなら良かった、私結構靴合わない事多いのよね。」

そんなこんなで服と靴をゲットし、私達は次のお店に向かう。ここは一軒目よりも少し安めのブランドで、ちょっとオシャレな普段着…といった所だろうか。鞄とアクセサリーをみんなで選ぶ。

「あぁそうだ、そろそろ日差しも強くなってくるわよね…。帽子もあった方が良いわ。」
「!確かにそうね…!」

こうしてフルコーデ揃え、達成感とレティシア様のかわいさに震えていると時刻は既におやつの時間を過ぎていた。日が伸びてきてまだまだ暗くなるには時間はあるが、早めに帰るに越した事はないだろう。

「みんなどうする?もう帰る?」
「あ、待って、私あのお店がどうしても気になって…。」

グラシア様が指差すのは洋菓子屋さんの中で売っている綿飴だった。あぁ、お嬢様達には珍しいのか…。

「私も気になってたの!あれ何?」
「綿飴っていう、ふわふわしてて口に入れるとシュワって溶ける飴だよ。食べた事ない?」

私が尋ねると皆様頷く。

「良かったね、あれ毎日売ってるわけじゃないのよ。買いに行こう!」

綿飴をそれぞれ買って、私達はお店の外のベンチで食べる。皆様楽しそうに食べていて、ホッと胸を撫で下ろす。

「すごい、雲みたい!」
「商業地区ってすごいのねぇ。」
「ふふ、殿下が虜になるのも納得だわ。」
「本当にね。…ねぇセシ、ものすごく今更なんだけど。」
「?」
「それ、婚約指輪?すっごく綺麗ね。リング自体も石も…サファイアかしら?かなり上等なものみたいだし…。」

グラシア様は私の左手薬指で輝く指輪を見て言った。あぁ、と私は笑う。

「そう、婚約した時にウィルがくれたの。このサファイアね、ウィルがある日突然いなくなったと思ったら良いサファイアが採れるって有名なダンジョンを1日で攻略して採って帰って来たのよ。びっくりでしょ?…けど学院ではうっかり傷つけたくなくてずっとネックレスにしてたんだ。まぁ今日みたいな式典の日とか、授業がない日はちゃんと指に付けてたんだけど…。…これ、もっとアピールしておけば何か変わってたかしらね…。」

私が言うと皆様は苦笑した。

「流石ウィルフレッド様ね…。」
「すごいわね、本当。…でも、殿下もエリアスも変わらないと思うわ。」
「あはは…。」

その後、私達は学院の正門まで転移した。それぞれの家の馬車を呼び、お貸しした上着を回収する。

「セシリアさん、今日は本当にありがとう!とっても助かったし楽しかったわ!」
「いえ、お役に立てたなら何よりです。それに久々に私も羽を伸ばせて楽しかったです。」
「ねぇ、今度また案内してくれないかしら?私、もっとスイーツを見て回りたいわ!」
「私も!」
「わたくしは服をもっと見たかったわ!」

皆様ワクワクしたようにそう仰り、どうやら楽しんでいただけたようで何よりだ。私は喜んで、と頷く。

「それでは私はこれで。…レティシア様、当日はどうぞ楽しんでくださいね。」
「!…えぇ、ありがとう。」

頬を染めはにかむレティシア様を私達は微笑ましく思いつつ、私はもう一度礼をして転移魔法でその場を後にした。友達にジャケットを返却して家に戻る。

「ただいまー。」
「お帰りなさい。」
「あ、シシー。お帰り。」
「!ウィル。今日は早いんだね。」

私の弟と今日は非番の姉、それからウィルの弟2人と共に結婚式会場の飾りを作っていたウィルはこちらに近づくとポーションを飴玉にしたものを渡して来た。私達は少し驚く。

「?ウィル兄、どうしたの?」
「今日は終業式でしょ?魔法使う事なんかないでしょ。」
「本来ならな。でもさっき使ってただろ?転移魔法の連発に認識阻害の魔法。」
「え、なんで知ってるの?」
「丁度帰る時に綿飴食べてるの見かけたからさ。」

あぁ、なるほど。確かにあのお店は帰り道だ。

「え、あのお店行ったの⁉︎良いなー!お土産は⁉︎」
「はいはい、ちゃんとありますよ。レオはマドレーヌ、兄さんと姉さんはガレットね。」
「やった、ありがとう!」
「ウィル達はいつものパイね。帰ったら食べて。」
「わーい、ありがとうシシー姉ちゃん!」
「ありがとうシシー!」
「いいえ、手伝ってくれてるお礼って事で。」

私は飴を舐めながら飾り作りに加わる。…ディエゴ殿下、上手く行くと良いなぁ。あの人は私にとってもう1人の兄のような人だから、彼にも幸せになって欲しい。


 私達の結婚式まで、あと───
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ令嬢は皇太子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

断罪茶番で命拾いした王子

章槻雅希
ファンタジー
アルファーロ公爵嫡女エルネスタは卒業記念パーティで婚約者の第三王子パスクワルから婚約破棄された。そのことにエルネスタは安堵する。これでパスクワルの命は守られたと。 5年前、有り得ないほどの非常識さと無礼さで王命による婚約が決まった。それに両親祖父母をはじめとした一族は怒り狂った。父公爵は王命を受けるにあたってとんでもない条件を突きつけていた。『第三王子は婚姻後すぐに病に倒れ、数年後に病死するかもしれないが、それでも良いのなら』と。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

何故恋愛結婚だけが幸せだと思うのか理解できませんわ

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のファラーシャは男爵家庶子のラーケサに婚約者カティーブとの婚約を解消するように迫られる。 理由はカティーブとラーケサは愛し合っており、愛し合っている二人が結ばれるのは当然で、カティーブとラーケサが結婚しラーケサが侯爵夫人となるのが正しいことだからとのこと。 しかし、ファラーシャにはその主張が全く理解できなかった。ついでにカティーブもラーケサの主張が理解できなかった。 結婚とは一種の事業であると考える高位貴族と、結婚は恋愛の終着点と考える平民との認識の相違のお話。 拙作『法律の多い魔導王国』と同じカヌーン魔導王国の話。法律関係何でもアリなカヌーン王国便利で使い勝手がいい(笑)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

婚約破棄していただきます

章槻雅希
ファンタジー
貴族たちの通う王立学院の模擬夜会(授業の一環)で第二王子ザームエルは婚約破棄を宣言する。それを婚約者であるトルデリーゼは嬉々として受け入れた。10年に及ぶ一族の計画が実を結んだのだ。 『小説家になろう』・『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

処理中です...