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別れ

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 その後殿下が外の侍従に声をかけると陛下と王妃殿下がいらした。

「話は終わったのか?」
「はい。」
「公爵、レティシアさん、改めてレオがごめんなさい。セシリアちゃんの言う通り、貴女はとってもよく頑張ってくれていたのに…。わたくし、レティシアさんが娘になってくれるのをとっても楽しみにしていたのよ。」
「イボンヌ様…!」

王妃殿下までそう言ってくださるだなんて…。わたくしが今までしてきた事は、無駄じゃなかったのね…。

「本当にすまない。何故ああなってしまったのか…。」
「幼いうちから父の所に預けた方が良かったんじゃないか?」
「はは、確かにな…。」

お父様と陛下は幼馴染で、そんな軽口をもう笑うしかないと言った様子で苦笑しながら叩き合っていた。そんな事をしているとグラシア達もやって来て、セシリアさんもお父様…ビオレータ副師団長とウィルフレッド様と共に現れた。ニコラス様にレオナルド殿下達4名も連れてこられ、陛下が口火を切る。

「揃ったな。まず、昨夜の件について異議申し立てはあるか?」

陛下が尋ねると4名は何も言わなかった。少しの沈黙の後、陛下は今度はわたくし達に言いたい事はあるかと尋ねる。

「いいえ、わたくしからは何も。」
「わたくしも。」
「娘がそう言うなら私からも言う事はありません。」
「…あの、エリアス様にお聞きしたい事があるのですが。」
「?なんでしょう?」

レオナルド殿下やリカルド卿、フェリクス様は沈んだ表情をしている中、エリアス様は1人まるで他人事のようにケロッとしていた。

「…もしかしてエリアス様は、セシリアさんが嫌がっているのをご存知だったのでは…?」
「「「!!!」」」

わたくしが尋ねるとレオナルド殿下方3名も皆様も驚いてエリアス様を見、セシリアさんは落ち着いた様子で静かに彼を見つめた。エリアス様は予想外の質問だったのかぱちくりと瞬きしている。

「…そんなの…、」

ごくり、と3名は生唾を飲み込む。

「そんなの、ではないですか。セスの目を見ていればその程度、一瞬で分かりますよ。…寧ろセスが俺達を誑かしているだとかいう噂を聞いて、なんでみんな気づかないんだろう、馬鹿だなぁって思ってましたよ。」
「「「なっ…!!??」」」

やっぱり…。皆驚いてラウラがカチンとしている中、セシリアさんは分かっていたのか嘆息した。

「あぁそれから、セスが騎士の家系の子なのだろうという事も予想はしていました。ふとした所作が所々騎士じみていますし、何より手が剣士のそれだったので。よく鍛錬してて偉いなぁって。…リッキーはそれだけは気づいてると思ったんだけどなぁ。」
「ぐ…。」
「では何故止めなかったのだ?」
「なんだか皆本気でセスを気に入ったようでしたし、まさか本気で…で、セスが嫌がっていると気づいていないとは思わなくて。魅了などの精神異常系の魔法にでもかかっているのかと疑いました。それでひとまずは心酔しているフリをして様子を伺おうと。」

陛下の質問にエリアス様はスラスラと答える。なるほど、それも一理ある。

「ですがセスが嫌がっている以上、故意にやった訳ではないでしょう。となれば光属性は無意識で人を引き寄せるような効果があるんじゃないか、でもそれなら俺がかかっていないのは何故か、と色々考えました。それにせっかく目の前に世にも珍しい光属性がいるんですよ?そんなの研究し尽くしたいに決まっているではないですか!もしセスを手元に置いておけたら実験も解剖もし放題ですよ⁉︎なんて素晴らしい!!」
「なるほど、ただのサイコパス。」

まぁそんな気はしてたわ~、とセシリアさんは全く目の笑っていない笑いを零した。ウィルフレッド様はセシリアさんを守るように抱きしめエリアス様を睨む。

「まぁでも、結局は魔法でもなんでもなくただ殿下の悪癖の集大成だっただけでしたけどね。残念です。リッキーとフェルもだったのが予想外でした。」
「いや何がだよ、何も残念じゃねえよ。てか気づいてたなら止めてよ。」
「え、俺にできると思うの?」
「うん無理だね、ごめん。」

素が出てしまっているセシリアさんとエリアス様は気安く言い合う。…こんな事がなければ案外良い友人になっていたのかもしれない。

「ではつまり…、セシリアさんは研究対象としてつけ回していて、側に置いて研究するためにグラシアとの婚約をなかった事にしたかった、と。」
「はい、そうです。」

悪びれもせず言い切るエリアス様に清々しさすら感じつつもわたくしはグラシアをチラリと見た。グラシアは黙っている。

「…そうですか、わたくしがお聞きしたかったのはそれだけですわ。ありがとうございます。」
「…エリアス。」
「?」

グラシアは突然口を開いたかと思うと立ち上がった。一度深呼吸をすると、ニッコリと笑う。

「婚約を破棄してくれてありがとう、私も貴方みたいな変態と縁を切れて安心したわ。二度とその面見せんな。」
「…、エリアスは無期限の領地での蟄居。フェリクスは次期当主の座剥奪。レオとリカルドはシルエラ領での再教育。今のところこんな処罰になりそうだが、何か意見はあるかい?」

ディエゴ殿下の質問に全員首を横に振った。お父様達も異論はないそうで、陛下方も少し安心したように頷いた。

「セシリアも言いたい事はないか?」
「そうですね…。…オルニートガルム君。あなたは人として本当にどうかと思うけど…。」
「あは、辛辣~。」
「…でも、4人の中で私の努力とか実力をちゃんと気付いて把握して、認めてくれていたのはあなただけだった。ありがとう、そこは本当に感謝してるよ。私が1番、心血を注いでいる事だから。」

セシリアさんはニコ、と穏やかに笑った。数回瞬きした後エリアス様も笑う。

「うん、俺も日々強くなっていく君を見て負けてられないって思ったんだ。君と稀代の天才の活躍がこの目で見られないのはもの凄く残念だけど…領地から応援してるよ。」

2人は笑って握手した。やはり魔法科には生まれや歳に関係なく独自の絆のようなものがあるのだろう。なんだか心が暖かくなってきた。

「では今日はここまでにしよう。昼食の用意をさせている、良かったら食べて行ってくれ。…衛兵、連れて行け。」
「まぁ、ありがとうございます陛下。」
「それではお言葉に甘えましてご相伴に与りましょう。」

レオナルド殿下達は再びどこかへ連れて行かれる。…殿下にお会いするのも、これが最後…。

「…レオナルド殿下。」

わたくしがレオナルド殿下に声をかけると殿下は顔を上げ、ハッと笑った。

「なんだ、嗤いに来たのか?それとも恨み言でも言いに?」

わたくしは手を伸ばしてもギリギリ届かないくらいの位置で殿下と向き合い、腰を折る。

「…申し訳ございませんでした、殿下。わたくしがもっと早くに気づいて陛下にご相談していれば、ここまで大事にはならなかったでしょう。」
「は…、」
「それから…、殿下との関係改善を諦めるべきではありませんでした。」

殿下は唖然としたようにわたくしを見つめると、プルプルと震え出した。衛兵がしっかりと捕縛してくれているので心配はない。

「…な…っ、お前はどれだけ俺を惨めにさせれば…っ!!!」
「…殿下。皆様。こんなにもよくできたご令嬢方を蔑ろにした事…、一生後悔してくださいね。」
「っ…!」

セシリアさんが真っ黒な笑顔で言うと殿下は再び項垂れ、4名共大人しくどこかへと連行されていった。

 こうして1年間学院を悩ませていた問題は、決して最良の形ではなかったがなんとか解決したのだった。
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