殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*

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卒業記念パーティー3

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「影の皆さん、お願いします。」

セシリアさんが言うと会場の扉が開き、全身真っ黒で覆面の人達が入場して来た。胸には王国騎士団の紋章が入ったバッジをしている。

「失礼致します、我々は王国騎士団隠密部隊、通称“影”です。職務の性質上名乗りは控えさせていただきますがご理解ください。それでは、皆様の言動の記録を読み上げさせていただきます。まずはレティシア・ド・シルエラ公爵令嬢です。××月△△日───」

影の皆様はわたくし達の噂の鎮静化に関する言動を述べ、また婚約者への諫言も読み上げた。それからセシリアさんが自らと影の方を自身の意思で転移させた事や認識阻害の魔法をかけて自身の意思で教室から飛び出した事、わたくし達は何もしていない、悪くない、セシリアさんではなくわたくし達とランチをすべきだと何度も何度も仰っていた事も証言する。

「…これで、レティやご令嬢方が寧ろ噂を鎮静化しようとしていた事は証明されたな。セシリア嬢へのいじめも犯人は別にいると先程証明してくれたし…。」
「はい。それから私からも証言を、殿下が“囲まれていた”と仰っている件についてですが、あの時は殿下方にはお伝えしました通りただご挨拶させていただいていただけで脅迫などと言った事は一切ございませんでした。…寧ろ、レティシア様やオルキデア様は私の話を聞いて理解しようとしてくださいました。あなた方とは違って。」
「なっ、何を…!!!」
「っく、じゃあやはりセスが俺達を陥れようと…!」
「おやめください殿下、セシリアはそのような事は絶対に致しません。」

ロベルト様はキッパリとそう言い切る。…魔法科は随分とクラス内の団結が強いのね…。素敵だわ。

「っだが!」
「──委員長、お願い。」
「あぁ。…では皆様、続きましてこちらをご覧ください。」

次に映し出されたのは4名が魔法科2年の教室にいらっしゃるところだった。何やら言い合いをしているようだ。

『…ですから!我々はセシリアの居場所など存じません!』
『毎日懲りないな、お前達がセスをどこかへ追い出しているのだろう!』
『それは違いますわ!シシーは自分のその足で窓から教室を出たのですわ!』
『そもそも俺達の大事な仲間を匿う事はあっても追い出すだなんてそんな事あるはずないではありませんか!』

あぁ、これはお昼休みに魔法科の皆さんとレオナルド様方がセシリアさんを巡って争っている場面ね…。

『じゃあ何故セスは毎日昼休みは教室からいなくなるんでしょう?我々は授業が終わってすぐにここへ来ているというのに。』
『え、逆にお分かりになられないのですか…?』
『…はぁ、おそれながら皆様。皆様は婚約者様がいらっしゃるお立場です。そんな皆様が1人の女子生徒にかまけているとなればどうなるかは明白ですわよね?』
『セシリア嬢は無用な争いを避ける為、毎日こうして…』
『ええいうるさい!俺が誰と仲良くしようが俺の勝手だろう!しかも他人に卑劣な嫌がらせ…いや、犯罪行為を行う女などに王子妃が務まるものか!!!』
『っ殿下!!!』
『…あの、オルニートガルム様?シシーの体育着入れを漁って何を…?』
『うん、これが良いかな。』
「うわっ…。」

エリアス様がセシリアさんの体育着を取り出したところでどこかからそんな声が漏れる。流石にこれは見ていられなくてわたくしもつい目を逸らしてしまった。

『…よし、匂いは覚えた。殿下、あっちに行ってみましょう。』
『ん?あぁ、そうだな。』

ぷつん、とレオナルド様方が教室を出たところで映像が途切れた。どうやら3名は魔法科の皆さんと言い合いをしていてエリアス様の奇行をご存知なかったらしく、流石の3人も引いていた。…魔法科の皆さんからの諫言にも全く聞く耳を持たない、と…。

「ご覧いただきましたのはとある日の昼休みの風景です。我々はもう半年以上、ほぼ毎日のようにこのやり取りをしておりました。全日分の映像もございますがひとまず代表として一つだけお見せ致しました。」
「ふむ、セシリア嬢が自らの意志で逃げ回っていた事と殿下方が魔法科2年の生徒達からも諭されていたという事も証明されたな。…他にも何かあるのかい?」

あまりのエリアス様の奇行に唖然としてしまった会場の雰囲気を立て直そうとお兄様が切り込む。するとロベルト様は再び魔道具を弄り、映像を映し出した。…これは魔法科の武器庫、かしら…?

『…ごめんセシリアちゃん、武器庫に映像記録魔道具を置くの忘れてた…。』
『すまん、盲点だった。』
『あぁ良いのよ、私もそこまで気づかなかったし、訓練用の木刀ならまた買えば良いし。…それよりみんなのは大丈夫?盗難とか壊されたりとかない?』
『えぇ、私達は平気よ。』

どうやらセシリアさんが魔法演習で使う、学院指定品の訓練用の木刀が何者かに粉々に砕かれていた時の映像のようだ。犯行後ではあるが一応記録しておいたのだろう。

『なら良かった。…じゃあ念のため先生に報告して──』
『…あら、セシリアさん?ご機嫌よう、どうかなさったの?』
『!ヒラソル様、先輩方。こんにちは。』
『ご機嫌よう。』
『お疲れ様です、先輩方。実はセシリアの訓練用の木刀が何者かに破壊されておりまして…。』

ロベルト様が説明すると魔法科3年の方々は驚いたようにしていた。

『まぁ、そんな事が…。』
『可哀想に。』
『私も訓練用の木刀は失念しておりました。ですが、木刀はすぐに手に入るものですので…。』
『うーん、まぁそれはそうだが…。』
『…そうだわ、セシリアさん、良かったらわたくしの木刀を使わない?わたくし、入学する時に一応購入したものの杖をいつも使っていて結局剣は一度も使っていないのよ。わたくしはもう卒業だし、あなたが使ってくださったらありがたいわ。』

アリシア様がそう提案すると皆それは良いと表情を明るくした。セシリアさんもよろしいのですか?と尋ねる。

『えぇ。このまま物置に放置しておくのももったいないでしょう?』
『助かります、ありがとうございます、ヒラソル様。』
『…む、アリシア、セス?』
『あら、リカルド様、殿下。』

無事話がまとまってほんわかとした雰囲気の中、偶然通りかかったのはリカルド卿とレオナルド様だった。お2人がやって来たという事は…、とこの先の展開が容易に想像できてしまって頭が痛くなってくる。映像の中の皆さんはそれぞれお辞儀をする。

『…セス、どうしたんだこの木刀は。』
『あぁいえ、これは…、…魔法演習の時に勢いあまって壊してしまいまして。』
『そうか、熱心だな!』

きっと本当の事を言ったらまた面倒な事になると誰もが理解していたのだろう、皆は何も言わずセシリアさんの誤魔化しに合わせていた。レオナルド様は素直に感心する一方でリカルド卿は何か気に掛かるのかふむ、と考え込んだ。

『…、セス、本当にそうなのか?』
『え?』
『魔法科2年の魔法演習の授業は一昨日の6限だろう?俺達騎士科3年の剣術実習も同じ時間だからよく見かけるんだ。…6限ならその後は放課後だから片付ける時間も十分あっただろうに…、折れた木刀がそのままで尚且つ新しい木刀が見当たらないのは不自然だ。』

あぁ、リカルド卿、その洞察力をもっと別の方に使ってくだされば…。…リカルド卿が気付いてしまえば、レオナルド様が暴走するのは明白で。そしてやはり、レオナルド様はアリシア様が犯人だと決めつけた。

『なっ⁉︎お待ちください、アリシア嬢はそのような事は致しません!!』
『そうです殿下、ヒラソル様ではございません!!寧ろ新たな木刀を譲ってくださるとまで仰ってくださったのですよ⁉︎』
『殿下、誓ってわたくしではございません。騎士の皆さんにとってそうであるように、魔導師にとってもそれぞれの“媒体”は命と言っても過言ではありません。そんな物を壊すだなんて、魔導師として失格ですわ。』
『ふん、口ではどうとでも言えるだろう。安心しろセス、俺がきちんと学院長に報告しておいてやる。』
『ですから殿下!!それは違うと、』
『行こうセス。そうだ、最近できた新たなケーキ屋が美味しいと話題でな。放課後に行かないか?』
『いやあの殿下、何度も言いますが私には心に決めた人が、』
『そうだ、そのまま新しい木刀も買いに行こう!うん、それが良いな!』
『殿下!!!婚約者が、』
『大丈夫だセス、全て俺に任せておけ!』
『殿下!!!!』
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