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プロローグ

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「レティシア・デ・シルエラ。貴様には心底失望した。」

 今日は我が国、プランタ王国の王立学院の卒業記念パーティーだ。卒業生に在校生、教員、そして保護者も参加するこのパーティーで我が婚約者、レオナルド第二王子殿下は突然そう言い放った。皆唖然としたようにこちらに注目する。

「…何のお話でしょうか、レオナルド様。」
「ふん、シラを切るか、太々しい。貴様はセス…、セシリア・ビオレータ嬢に集団で囲い込み恐喝したり暴行を加えたりと嫌がらせを繰り返していただろう!俺はこの目で見ていたぞ!!!」
「…。」
「…レオナルド様の目撃情報だけでなく、他の方々からの聞き取りもなさって確実な証拠を集めた上でのご発言ですか?」

 わたくしはついため息を吐きたくなるのを堪えて尋ねる。すると殿下は「うるさい、俺が見ていたのだからそんなものは必要ないだろう!」と吹き抜けになっている2階へ繋がる階段の踊り場でセシリアさんの肩を抱きながら叫んだ。2階は王族が出入りする場所で、本来なら平民のセシリアさんが出て来て良い場所ではない。だというのにこんなに大勢の前で出て来てしまって大丈夫かしら…。

「あの、殿下…」
「数百年に一度しか現れぬという稀有な光属性を生まれ持ったセスへの嫉妬か?王族に嫁ぐ者として恥ずかしくないのか!!」
「ですからレオナルド様、それは誤解で…」
「貴様の卑劣な行いは到底許される事ではない!!よって貴様との婚約は破棄する!!!」
「「!!??」」

 辺りは騒然とする。わたくしは眩暈がしてくるのを堪えてレオナルド様と向き合う。

「レオナルド様、それは陛下の同意も得ていらっしゃるのですか?」
「ふん、この程度の事で父上の手を煩わせるわけに行かないだろう、どうせ同意してくださるに違いないのだから後でで構わないさ。それよりも…」

 あ、まずい。この先を言わせるのは非常にまずい。なんとか止めないと、

「新たな婚約者として…」
「レオナルド様、」
「セシリア・ビオレータ嬢を据える事を宣言する!!!」
「「「なっ!!??」」」
「で、殿下!!??」

 周囲だけでなくセシリアさんも驚いて目を見開いていた。レオナルド様は「驚いただろう?」とサプライズが成功したと言わんばかりに得意げにセシリアさんを見る。あぁ最悪だわ、早くなんとかしないと…

「セス、俺は君を愛している。」
「な…、」
「レオナルド様、」
「俺と結婚してくれ!」
「レオナルド様!」

 わたくしはもう仕方ないので2階へ続く階段へと足をかけた。無理矢理でも止めなければ…!


「…は?ふざけんなよ誰がするかっつーのこの自己中王子が。」


 あぁ、遅かった…。
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