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捨神様ーステガミサマー

俺が転生した世界

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「……魔法だよ。」

「魔法」。この言葉に対し、体は異常な程の反応をみせる。
子供の頃、夢物語だと諦めていた幻想がいま現実になりつつあることに喜びを隠せないのであろう。

「そんなに嬉しいのかい?」

「ああ、嬉しいよ。お前も魔法の無い世界で暮らしてみたらわかるさ。」

「……そういうものなのかい。」

俺がそう言うと、捨神様は考えるように黙り込む。
…………可愛いな。
あまり意識していなかったが、
よく見ると、可愛い容姿をしている。薄くピンクがかった髪は肩よりも少し上の方で短く切られている。
俯き、アゴに手をかけ考える姿は知性的でそこがまた可愛い。
ん?なんか、こいつ顔が赤いような……あ、そっか。こいつは俺のことはなんでもお見通しだったな。
「恥」と似ているからだろうか。
どうやらこいつは今、「照れ」ているらしい。
まぁでも、俺には関係ない。
そんなくだらないことよりも、今、第一に優先すべき疑問がある。

「くだらないは酷くないかい?
僕だって一応女の子だぞ?」

そういえば、心が読めるの忘れてたな。
全く面倒な神だ。

「無視か...。
ツッコミってのは難しいな。」

え、あれツッコミだったの?

「神もツッコミに挑戦するものなんだな。
で、話を戻すぞ。
魔法は魔法の存在しない世界出身の俺でも使えるのか?」

彼女はまだツッコミのことを考えていたのか、
頭を傾げ、疑問に顔を歪めたまま答える。

「残念ながら、今の君に魔法は使えない。」

「今の、ね。
じゃあ、いつ使えるようになる?」

「使えるようになるのは時間の問題さ。」

「どういうことだ?」

「君はまだこの世界に順応してはいない。
君の体は今、急速に進化をしている状態にあるんだ。」

そこで彼女は語り始めた。
この世界の「魔法」について、を。



この世界には、マナというのがある。
ほら、あそこに馬鹿でかい木があるだろう?
あの木が光合成をすることによって酸素を生み出すのではなく、
変わりにマナの根本となる、マナ元素を生み出す。
マナ元素は空気中にありながら、
様々な物質と融合することで、その物質の性質を力として取り込んだマナとなる、
それを君が取り込むことで君の体はマナそのものとなり、この世界で唯一の「人間」のマナとなる。



「っと、ここまでの説明でわからないところは?」

「こちら....俺のいた世界の常識では、魔法を使用する際、マナは消費されるものなんだが、こっちではどうなんだ?」

「んーとね、半分正解、かな?
マナはその個体そのものだからね、いちいち消費していちゃ、体が持たないよ。」

「確かに....」

「でもね、消費って表現は間違っちゃいない。さっきも教えた通り、マナは現在、君の身体そのものになりつつある。」

少年は無言のまま、ただ呆然と、現在進行形でマナに蝕まれているであろう自らの手のひらをじっと見つめる。

「だが、それを逆に捉えれば、
君は今、マナそのものになりつつあるってことだ。」

「つまり、マナは君自身の身体能力と考えた方がいい。
走れば疲れるのと一緒だよ。
マナを使い切れば疲労感が一気に押し寄せ、たちまち行動不能になる。」

「なるほどな。ありがとう。」

「しかしまぁ、君の世界にもマナ元素はしっかり存在しているんだけどね。」

突然の新事実に驚きを隠せぬまま、少年は疑問を問う。

「なら、なぜあっちでは使えない?」

「あっちで使えないのは、マナ元素には強弱があるからだ。
つまり、君の世界のマナ元素は弱すぎるんだ。」

「もちろん、君の世界でもマナを取り込めるような奴らはいる。
しかし、それは時代と共にごくわずかなものとなってしまったってわけ。」

あ、なるほど。

「では、魔女などもそれに当たるわけか。」

「そういう事。
例えば、妖怪。あいつらはこの世界でいう、魔物に当たる存在なんだよ。この世界の動物はみんな魔物だ。」

「だから人間は...」

「そう、さっきも言った通り君だけ。
でも、安心したまえ。
こちらの常識では、この世界にも魔物の中に人型の種族がいる。そして、そいつらの中にはヒューマンって言う、君達と何も変わらない種族だっている。
これから行く都も、ヒューマンが主な多種族自由主義のところさ。」

「それなら心配はない。」

あちら側の人体の知識は一応こちらでも有効って事か。

「あ、そうそう。今失踪中の君には関係ないんだけどさ、君の世界にも、魔法が使えるように進化しちゃった奴らがまだいた気がするよ。
誰にも見つからないとこに国つくって暮らしていたなぁ。
ま、女ばっかのとこだけど。」

う~ん、興味なしっ!

「そんなことより、俺が魔法を使うにはどうすればいい?」

「そこまでは教えられないな。
ヒントはここまでさ。」

「そうか……」

顔を思わずしかませる。

「大丈夫。
まずはさっき言った通り、南に向かい、ジョルークを目指したまえ。
僕はいつだって君を見ている。
幸運を祈ってるよ。」

そういうと、忽然と彼女は消えた。
ただ、先程まで捨神がいた場所に
小さな袋と方位磁針、ゲームでよく見る、片手長剣っぽいのが転がっている。
大方、冒険に使えって事だろう。

「ありがたいな……。さて、行くか。」

そうして、力強くでも、大きいわけでもない、ただただ普通の一歩を踏み出す。
それでも、俺のリベンジは力強く、そして、大きく幕を開けた。


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