西上総神通力研究所

智春

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白と黒・二

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「やはり、六花の者だったか」

広い座敷に横たわったまま、雪村美智子はシロからの手紙を傍らに置いた。

昼過ぎ、雪村家の者によって緊急で届けられた彼からの手紙は、簡潔な報告書のような文章で、〈千里眼〉を使って助手の記憶を透視して、その正体が判明したことが記されていた。

雪村の女主人は、古びた日本家屋の天井を支える立派な梁を眺めながら、大きく一息ついた。

「まったく、そんな怖ろしい者の相手などさせおって・・・殺す気か、あの坊主は」

記憶は失っていたとしても、恐怖を感じるほど能力は絶大だった。特殊能力者を罰することができる、能力者の中の能力者。その中でも、かつて最強を呼ばれていた男・・・敵うはずがない。

あの時、もしクロが本気でぶつかってきたら自分は今こうしていただろうか。背筋がスッと冷えた。

「史郎、お前・・・死ぬぞ」

美智子は光から隔絶された薄暗い部屋の天井を見上げ、20数年前の記憶を思い返した。

まだ彼女が自力で歩けていた頃、姉の息子が危篤状態に陥ったと母から告げられた。未婚のまま子を産んだ姉は事故により他界していて、美智子にとっては自分の子のように可愛がっている甥だった。

自分の子のように愛する理由がもう一つ、彼は彼女と同様〈白子〉として生まれていた。

〈白子〉として生まれた雪村の者は虚弱な体質で、些細なことでも体調を崩し、重篤な状況となることが多かった。
今回も、急に涼しくなった陽気の変化で風邪をひいてしまい、肺炎にまで悪化してしまっていた。
今は生死をさまよう危険な状態だという。

かわいそうに・・・

美智子は瀕死の少年の病室で、今にも命が消えてしまいそうな彼の手を取った。

「史郎、よくお聞き」

熱にうかされ荒い息であえぐ少年の耳元で、美智子は雪村の〈白子〉の生き延びるための術を教えた。そして、最初に病室に入ってきた看護師をその生贄として選んだ。

検温に来た看護師は、付き添いの美智子に挨拶をした。
その瞬間、彼女は能力を発動し、まだ若い看護師の精気を吸い取る。はつらつとした活発な精気は美智子の中で滋養として変換され、繋いだ手から少年へと流れていった。
滋養を得た史郎の顔色には健康的な張りや艶が出て、溺れるような息苦しさも嘘のように消えた。
ベッドの側に倒れた看護師は、すでに事切れていた。

史郎はまだ、美智子のように〈白子〉の能力を使いこなすことはできない。
しかし、数年前から妙な研究を始め、それに全資産をつぎ込んでいるという。育ての親である美智子の身の回りの世話や、身体が弱った時の滋養として若者を派遣することは継続しているが、研究所を立ち上げてから何かが変わってしまった。

「僕もゆくゆくは叔母さんみたいに不自由な身体になるのでしょう?そんなの嫌だな。滋養だって、ただ若い人ってだけじゃ面白くないよ。ちょうど面白い書物を買い取ったところなんだから、これを活用しない手はないよね」

雪村邸へ珍しく見舞いに来た史郎は、大量の古い書物を手に入れた話を美智子に話した。

「ねぇ、特殊能力者の精気を滋養として取り込んだら、僕にもその能力って引き継がれるのかな?」

「さぁ、私には興味ないが」

「え~!面白そうじゃない?ただ生きながらえるだけじゃなくて、最強の能力で最強の精神力を持つことができたとしたら、無敵じゃない?不老不死になったも同然だよ」

夢見る若者は、うっとした目で「これで、太陽だって怖くないんだよ」と笑った。

その数年後、彼は書物で知ったある女性の住む隠れ家へ向かったと聞いた。人里離れた山中に隠遁生活していた女性を言いくるめ、そのままそこへ居つき、間借りした部屋に書物を運び込み研究所を開設したようだ。

隠れ家に住む女性は〈さとり〉の能力を持っていた。史郎の最初の実験の被験者は、彼女だったそうだ。
その実験は失敗に終わったが・・・

史郎坊、あの助手は諦めろ。あの者には手を出してはいけない。

雪のように白い顔で横たわる女主人は、両手で顔を覆った。
生き抜く術を教えたのは自分だ。そして、か弱い少年が純粋に強く生きたいと望むことも仕方がないことだろう。それでも、多くを望むことにはリスクが伴う。自分の欲に忠実な彼は、その境界を越えようとしている。

「せめて、雪村に生まれなければ・・・」

無謀な賭けに挑もうとする甥の身を案じ、美智子はそっと目を閉じた。
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