僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

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天狗の報酬

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7月14日早朝


「それじゃ、また来るからな。何かあったら連絡しろよ」

「うん。ありがとう」

思いっきりガッツポーズをしたいところだけど、もうちょっと我慢。僕に抱かれている松姫ちゃんも、眠そうな目で「達者でな」と手を振った。

玄関から一歩出た叔父さんは、慌てて引き返し、僕に手を合わせた。

「姐さんに悪い虫がつかないようにしっかり見張っといてくれ!この通りだ!」

「あはは・・・わかったよ」

「男と男の約束だからな!任せたぜ」

後ろ髪を引かれながら、定職無しで筋肉バカの叔父さんは、極道姐さんの舎弟という新たな肩書きを付与されて旅立っていった。

「上手くいきましたね。さすが兄弟です」

天狗は僕の肩に腕を回し、作戦成功を労った。

「そうだね。父さんに感謝だよ」

そう、叔父さん追い出しに成功したのは、父さんの入れ知恵によるものだった。弟の思考回路を熟知している兄が、操縦方法をアドバイスしてくれたからだ。

「アイツは単純だから、敬愛する人の言葉には絶対服従するんだ。だから、その習性を利用してコントロールすればいい」

父さんの言葉を信じて僕らは、はしたないと嫌がる秋香さんを説得して、もう一度だけ極道系お姐さんを演じてもらうことにした。
そして日の出前、夜通し柿の木の側で待機している叔父さんにに、秋香さんは渾身の荒くれ声でこう告げた。

「アンタ、そんなにアタシを慕っているって言うならあかしを見せな!」

「あ、証・・・っスか?」

「そうだよ。まず100万持ってきな。舎弟にするかどうか、話しはそれからだよ」

上手い!秋香さん、僕でも貢ぎたくなるカッコ良さだよ。

しばらくフリーズしていた叔父さんの頭も再起動したらしく、太い腕を高らかに上げて「かしこまりました」と応えた。

「男、雅志。姐さんに誠意を見せるっス!必ず、証を手に戻って参ります!」

そう言い切ると雄叫びを上げながら家に飛び込み、荷物をまとめ始めた。端から見てるとコントみたいだけど、一応みんな真剣なんだったんだよ。

気づくと松姫ちゃんは人形に戻っている。どうやら夜が明けたらしい。

「さて、今回の報酬は何にしましょうか?」

「え、報酬?」

奥の間に敷いた布団に松姫ちゃんを寝かせている僕に、ニコニコ笑いながら天狗は言った。

「報酬って・・・それ、父さんとの会話でいいじゃなかったっけ?昨日、叔父さん攻略の電話した時に話してたじゃん」

「それは、雅志の件ですよね。違いますよ、もう1つキミに対価を支払ってもらうモノがあります」

「対価?」

何!?僕、何か他に約束してたっけ?悪魔との契約的なヤバいことした?
でも、彼も妖怪。しかも山の守り神。見返り無しで人間に協力するなんてないってこと?

「まさか、命を取られるとか・・・?」

冷や汗が流れる僕に音もなく近づいた天狗は、ゾッとするくらいセクシーな声で耳打ちした。

「付き合って下さい」
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