僕と松姫ちゃんの妖怪日記

智春

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久志の左目

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7月6日夕方


「え!蟒蛇うわばみに会ったのか?」

電話の向こうの父さんは「スゴいな、大希」と本気で驚いているようだ。

「あいつってシャイだから、滅多に人前に出てこないんだぞ。かなりレアだよ?どうやって引っぱり出したんだ?」

「い、いや別に何も・・・」

ダメだ。
ずっと日本酒とみりんを間違えて供えてたなんて口が裂けても言えない。もし知られたら、永久に家族の笑いものになっちゃうよ。
一升瓶って、みんな酒が入ってるって思うの僕だけ?

「あの人見知りの蟒蛇がねぇ・・・」

「な、なんだよ・・・変なことしてないよ、マジで」

勘のいい父さんは「お前、絶対何かしたよな」と疑っている。この人は隠し事されると暴いてやろうってしつこい。
その追求をかわすために蟒蛇の目のことを聞いてみることにした。

「え、何?久志、興味あるのか?」

意外そうにしている父さんに、蛇の目って神秘的で面白そうだと煽ってみた。もちろん、興味はないこともないし。

そう持ち上げられて、まんざらでもない父さんは、蟒蛇の視界について語ってくれた。

「ずっと前に、蛇は目が良くないって教えたよな?その通り、あいつらは熱を感知する器官があるから視力に頼ってないんだよ。しかも右目は俺の自前だから、そのギャップがしんどいんだ」

「へぇ~」

確かに、父さんは子供の頃から眼鏡をしていたらしい。生まれてすぐ重い眼病に罹って失明の危機は免れたものの、低下した視力は回復しなかったそうだ。

「俺が学校に上がる前だったかな、母さんが・・・あ、祖母ちゃんのことな。それが、井戸の大蛇に願掛けして、目を治してもらったって打ち明けたんだよ。ちょっとビックリだろ?その大蛇は、自分の目を神様に捧げて俺を助けたんだって言われてもさ」

「いや、ちょっとじゃないよ。かなりぶっ飛んだ告白だと思うけど」

やっぱり田舎育ちは神経図太いな。あ、そういう奇妙な出来事は松姫ちゃんの存在のせいで感性が麻痺してるとか?

「とにかく、そう教えられてハッと思ったんだ。この目で見ると、世界が違って見えるってね」

「え、違うってどんな風に?色が違うとか?それとも距離感とか違って見えるの?」

電話の向こうで、父さんが一呼吸する音が聞こえる。何、何?そこで溜めると気になるじゃん!
たっぷり焦らせてから、一言だけ呟いた。

「人には見えない世界が見えるんだ」

「おぉ!スゴっ!」

人に見えない世界ってどんなだろう?色彩とかって次元じゃないモノが認識できるとか?超常的な感覚が芽ばえてたみたいな?

「あ~カッコイイな。蛇の視界ってどういう世界か一度見てみたいな~」

「そんなにスゴいのか?」

「スゴいよ!普通の人は違って見える世界ってどんなの?その景色って、もしかして蟒蛇の目とリンクしてるとか?詳しく教えてよ」

めちゃくちゃ興奮している僕に、父さんはサラッとこう言った。

「な~んてね。嘘、嘘」

「は?」

「大希はすぐ信じるから面白いな。そんな単純じゃ、悪い大人にカモにされるぞ」

「なんだよそれ」

「だから、今の話は嘘だよ。みんな俺の即興妄想物語。左目は普通に視力悪いだけ。大希があの人見知りをおびき出せたこと内緒にするから、その仕返しだね」

子供かよ、この人!
どこから嘘だったんだ?全部か?もう!素直に信じてはしゃいだ僕が恥ずかしいじゃん。

「今日は蟒蛇のことを訊きたかったのか?それだけなら切るぞ」

「あ、そっか。仕事中だったんだっけ、ゴメン」

「いや、いいよ。また何かあったら電話しろ」

「うん。お疲れさま」

「あぁ、じゃぁな」

電話を切ってから、父さんに訊こうと思っていた疑問を思い出した。
おにぎりの謎や、頼まれた作業の裏には松姫ちゃんや蟒蛇みたいに、何かが関係しているんじゃないかということ・・・

「ま、いいか。今日はもうすぐ松姫ちゃん起きてくる頃だし」

怖い系の妖怪とかが絡んでいないことを願いつつ、やり残している作業を片付けるために庭に出た。


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