兄ちゃん、今度は何?

智春

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酒乱ソムリエ

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「お前、俺のこと嫌いか?」

「は?」

「正直に言え。本当は嫌いだろ?」

肩に腕を回して、全体重をかけて寄りかかる兄ちゃんは「嫌わないで」と情けない声を上げた。

悪夢だ。
こんな事になるなんて思わなかった。マジで自分の選択をめちゃくちゃ後悔してる。

30分前、帰宅した兄ちゃんはワインボトルを数本抱えて部屋に来た。自腹で買ってきたワインをグラスに注いで俺の前に差し出した。

「週刊誌で紹介されたワインだ。毎年『解禁日』に話題にされるので、味わってもらおうと買ってきた。感想を聞かせてくれ」

「俺が飲むの?」

グラスには今年初出荷の赤ワインと白ワインが揺れている。確かにニュースになっているから知ってるけど、自分で飲めばいいじゃん。すると兄ちゃんは渋い顔をした。

「俺は、酒に弱い」

言いながら、グラスに顔を近づけ「酒くさっ!」と首を引っ込めた。自分が下戸だから、俺に勧めたのか。でも、肝心なこと忘れてる。

「俺まだ19なんだけど」

「え?」

「未成年に酒の味見させるの?」

この時、すぐに父さんに頼むように言えばよかった。そうすれば、この惨状回避できたのに。

俺に断られた兄ちゃんは、意を決して赤ワインのグラスを手に取って一気に飲み干した。

「苦い」

続けて白ワインのグラスも空けた。

「渋い」

ワインのテイスティングってそんなだっけ?と思う間に、赤と白、それぞれ注ぎ直して飲み続けた。

「ペース速くない?大丈夫?」

「この雑誌の紹介文がどうしても理解できない。評価が間違っているのか、俺の飲み方が悪いのか」

そのまま兄ちゃんは赤、白とも空けてしまった。さらにロゼまで栓を抜いた時点で完全に目が据わってしまい、ぐにゃぐにゃしながら俺に絡み始めた。

「お前、心配してるふりして、迷惑だって思っているだろ?腹の底では、邪魔だと思っているだろ?」

「そんなことないよ。もうやめなよ」

「いやだ!俺はワインを極める!」

「無茶だよ。ベロベロじゃん」

飲みかけのロゼのボトルを取り上げると、今度はスパーリングワインを開封した。いったい何本買ってきたんだよ?って言うか、それ銘柄違うじゃん!

「ヤダヤダ~!イジワルしないでよ!」

「うわ、幼児返り?ヤバっ怖いよ!」

兄ちゃんは酒癖最悪だ。もう二度と酒を与えないと決意した夜だった。
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