隣の親父

決断

月曜に出勤し、上司に嘘の事情を説明して週末までの休みをもらった。
翌日から新田さんと過ごせるようになったので、こっちでの観光や食べ歩き、色々な時間を一緒に過ごす事が出来た。
もちろんお互いの身体を合わせながら、一緒に居る充実感を十分に感じていた。
しかし楽しい時間はあっと言う間で、いつの間にかもう週末となっていた。
明日には戻らないといけない土曜の夜、新田さんと一緒に抱き合いながら、
「もう明日、帰っちゃうんだよね…寂しくなるなぁ…。」
涙ながらに俺が言うと
「また来るから。これが最後の別れじゃないんで、元気出して。」
と新田さんは俺の涙を拭いながら言った。
俺はウンウンと頷きながら、自分の中ではある決断をしたのだった。

新田さんとの楽しい1週間が過ぎ、久々に出勤した月曜日、俺は上司に相談した。
前回と同じ地方に転勤させて欲しいと。
東京での仕事は忙しくやりがいはあったが、
戻って来た時の個人的なスキルアップは地方のおかげではないかとも思っていたし、
何よりあそこには新田さんが居ると言う事。
何とか配慮して欲しいと頼み込んだ。
上司は最近の俺の仕事ぶりから手離すのを最初は嫌がっていたが、
俺の熱意に負けたのか、申請を受理してもらえることに。
もちろんこの先で人事課が判断はするのだが、上司の許可が有れば概ね決定となる。
俺は人生を新田さんと共に過ごす事を決断したのだ。
あれから毎日のように新田さんとは連絡を取り合ってるが、この話は黙っておこう。
突然向かって喜ばせてやろうと思ってる。以前新田さんがしてくれたように。
このことがキッカケとなって、俺の気持ちが固まったのもあるので、
感謝の気持と恩返しのつもりで驚かせてやろうかなと。
でも住むところどうするかな…突然荷物運び込むのもなぁ…。
最小限の荷物を引越し業者に預けて、その間に説得するしかないかー。
なんてことを計画しながら東京での日々が過ぎていった。
無事に俺の申請が通り、以前と同じ地方へと転勤の辞令が正式に出た。
また荒木課長のもとで働けることになる。こちらはこちらで楽しみではあるが…

東京での仕事も終わった週の金曜日、休暇を取って引越しと移動をする予定にしていた。
引越し業者の集配も終わり、月曜日に引越し先のマンションに持ってきてもらうように依頼している。
引越し先のマンションと言っても新田さんの部屋を指定しているのではあるが…
東京に未練は無く、それよりも新田さんとの暮らしが始まるかと思うと希望しかなかった。
その日の夕方には最寄り駅に到着したので、その足で新田さんのマンションに向かった。
懐かしい景色と以前までの色々な思い出が蘇ってくる。
期待を胸にマンションの入り口に着いたが、どうも様子がおかしい。
以前住んでいた時には入り口のポストに新田さんの名前が書かれていたが、
今は取り外されて無くなっている。
「どうしたんだろうな…昨日も普通に電話したんだけどなぁ…。」
入り口はオートロックなので入れないが、部屋番号を押して呼び出してみる。
しかし返事はなし。まだ帰っておらず留守なのかなと思い、電話してみることに。
これまた新田さんは電話に出ず、留守番電話となった。
「いやいや、困ったな。まさか居ないとは。残業で遅くなってるのかな…。」
とりあえずここに居ても仕方ないので、駅まで戻ることに。
新田さんからの連絡は無く、どうしたらいいのか分からず途方に暮れてた時、
荒木課長に連絡してみようとひらめいた。早速電話してみることに。
「もしもし、荒木課長、すみません。」
「お、健介か。どうしたんだ、もうこっちに着いてるのか？」
「そうなんです、今来たばかりなんですけどね。ちょっと困ってて。」
「ん？今どこにいるんだ？駅か？」
「はい、駅にいるんですが…。」
「あー、分かった。そこに居ろよ。迎えに行くから。」
そう言って電話は切れた。
相変わらずヤクザな対応だな…と思いつつも助かったなと。
来てくれると言うことで暫く待つことに。