すれ違う道

むちむちボディ

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まさか再び

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タケシが帰ってきてからの週末は華やかになった。
テニス以外はほとんど外出もせず寂しいおじさん熊生活であったが、
アレコレしようと時間が足りないぐらいタケシと一緒に居るように。
これはこれで楽しいもので、週末が待ちきれないほどだ。
今週も車で1時間ほどの郊外で梨狩りしたり、観光名所にもなっている神社にも行く予定にしている。
そんな週末の金曜日、オレが上司に呼び出された。

「山下くん、結婚はしてたかね?」

「えッ?結婚はしてませんけど。」

「そうなんだね。北海道の帯広で人材不足となっているんだが、君、どうだね?」

「どうだねと言うことは、ここは出しても影響ないと思われてるのですか?」

「う、うーん、そうだね。」

「そうですか、ここには必要ないと言うことですね。少し考えさせてください。」

オレはショックだった。
人材として必要ないと言われたのは初めてのことだった。
正直、お先真っ暗で辞めることまで考えた。
タケシの事も頭によぎって、どうしたら良いのか分からなくなってしまった。
結局、色々考えてしまってほとんど寝ないままの週末となってしまった。
一緒に旅行してても上の空なオレにタケシが、

「裕樹さん、どうかしたんですか全然心ここに在らずといった感じですよ?」

完全にバレてるオレ。

「あ、うーん、ゴメンねタケシ。実は…。」

と今までの経緯を話しした。

「えー、今度は裕樹さんが出向だなんて…。」

約3年待ったオレが今度は待ってもらうことになるとは…。
しかも出向とは言え帰って来られる保証なんて何もない状況であった。
まさかの出向に2人ともどんよりな気分になってしまった。

「裕樹さん、やっぱり自分の人生ですからね。良く悩んで考えましょう。」

タケシは真剣な顔で言い聞かせるように話してくれる。
たとえそれが自分にとって不利な方向になろうがかまわないと言う感じだ。
この優しさは本当に敵わないなと思いながら、その言葉はすごく嬉しかった。

「うん、ありがとう。どうするか考えてみるよ。ごめんね、余計な心配させちゃって。」

「いや、人生の相談を話してくれてる事がありがたいなと。裕樹さんの人生の片隅には僕が居るんだと言う事が分かったんで。」

「もちろんだよ。タケシが居なかったらすぐに北海道に行ってたと思うよ。」

「僕の事で人生の選択を迷わないでね。僕は裕樹さんの決断を尊重しますので。」

良く分かってると言うか、聞き分けが良いと言うか、出来た彼氏だなとつくづくタケシを尊敬してしまう。
そんなタケシとの旅行を終えて、色々話しした会話を思い出しながら悩みに悩んだ1週間。
オレは部長に話をした。

「部長、帯広の件ですがお引き受けします。帯広に行きます。」

「おぉ、そうかね。それは良い決断だよ。では人事にそう伝えておくからな。いつからでも行けるんだろう?」

「はい、こちらの住処を引き払っての時間さえ頂ければ。」

「分かった。準備は進めておいてくれるかな。」

「承知しました。」

オレは帯広に行く事にしたのだ。
少々は生活に困らないぐらいの貯蓄はあったので会社を辞めると言う決断も有ったのだが、
50過ぎのオッサンが再就職するのは厳しいと言う現実。
元々は色々な場所で仕事がしたいと言う想いから転勤の多そうな商社に入ったこともあり、
ストレス抱えながら仕事していくのも良い気はしなかったのだ。
なにより必要ない人材と言われた事もショックだったが、タケシとは離ればなれになってしまうけどタイの時のように遠距離は続けられるだろうとも思っている。
十分理解してくれているし、乗り越えられると思っている。
部長に話を告げたその日にタケシに話をすることに。

「タケシ、ごめん。やっぱりオレ、帯広に行くことにした。」

考えていた事をすべて伝えて、これからもこの関係を続けていたいと伝えた。

「裕樹さん、分かりました。大丈夫です、僕がタイに行ってた時と同じですから。」

「本当にごめん。時間見つけて帰ってくるから。」

「絶対ですよ~!帰ってきたら1ヶ月分、相手してもらいますからね。」

タケシの言葉で重苦しくなっていた2人の関係が、元に戻ったようだった。
やっぱり最愛の彼氏は凄い男だなと改めて感心。
ほどなくして辞令が発行され、オレは単身で帯広へ行くことに。
こちらの住んでいたマンションも引き払っての移動となる。
今まで住んでいた神戸の街がとても住みやすく、タケシと出会った地だったので名残惜しさでいっぱいだった。
そんな神戸に別れを告げて、伊丹空港から羽田を経由して帯広空港へ。
帯広空港からバスで帯広市内へ到着した。
第一印象が北海道は広いなと言う感じだったが、市内は都会で神戸と変わらない感じがした。
これからここで暮らすのだなと思いながら会社の用意してくれたマンションへ向かう。
管理人が付いているマンションで今どき珍しいなと思いながら、管理人室のドアをノックする。

「こんにちは、今日からこちらに入居します山下です。カギ受け取りに来ました。」

「はーい。ちょっと待ってね。」

とドアの奥から声がして、出て来たのは60過ぎたでっぷり親父であった。
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