上 下
53 / 55
7.キミとまた会えたから

7-2

しおりを挟む
 ミニバスの練習が終わって帰る時、直哉に送ってもらうのがもう当然となっていた。
 それどころか、『カスミ』のバイト帰りでも、直哉がお店に来ている時には送ってもらうようにって、おじいちゃんもお母さんも直哉に言うんだもん。
 頼り過ぎじゃない? 子供じゃないから一人で帰れるっていうのに。
 直哉も直哉で嫌な顔しないから、今日もこうして並んで帰ることになっている。
 傍にいるのが当たり前で、いないことが考えられない。

 いつの間に直哉はそんな存在になっていたんだろう。
 中学生の頃は直哉のことをそんな風には考えていなかったのに。
 再会してから? ううん。そんなことはない。
 でも、再会してから色んなことがあったから。
 どんな時も直哉は嫌な顔しないし、受け止めてくれる。
 ってことは、直哉も懐が深いってこと? 誰にでもそうなのかな?

「夕映? さっきから黙り込んでどうした?」
 つい考えごとに集中していたから、直哉の呼びかけに顔を上げたら、思ったより至近距離に直哉の顔があった。
「うわっ、近いっ!」
「あ、悪い。なんかずっと俯いていたからどうしたかと思って」
「どうしたって……」
 言えるわけないじゃない。直哉のこと考えていたから、なんて。

「あ、そう! この前ね、千歌とちゃんと話し合えたの!」
 誤魔化すように話しはじめたけど、これだってちゃんと直哉に伝えたかったことだし。
 直哉は驚いたように目を丸くして、言葉をなくしている。

「それは、突然だな」
 呆気にとられたのか、ぽかんとした表情の直哉が面白くて、つい笑ってしまった。
「うん。この前さ、三角公園で直哉が自分のこと話してくれたでしょ? それで直哉はちゃんと自分で前を向いて進んできたのに、私っていつも直哉に助けられてばっかりだったなって。それにお母さんとも和解できて、今の私なら千歌と向き合っても逃げずにちゃんと話せるんじゃないかって、そう思ったの。それでね、そうしたら……」
「どうした?」
 不自然に言葉が途切れた私に、直哉は声をかけてくる。

 でも私は、ここまで話して気づいてしまったんだ。
 千歌と向き合うと決めたのは、いつまでも逃げた自分じゃいけないと思ったから。
 この先に進む一歩の為に、弱い自分だけど少しでも強くなりたいと思ったから。
 そうしたら、直哉も笑ってくれるんじゃないか……って。

「夕映?」
 今まで何度だって呼ばれた名前なのに、どくんっと心臓が跳ねあがる。

 『直哉くんのこと、本当に友達だと思っているの? あたしや、学校のお友達と同じ枠組みに、彼は入っているの?』

 千歌の言葉が頭の中でリフレインする。
 違う。直哉は千歌や真夏ちゃんたちとは一緒じゃない。
 優しいからだけじゃない、守ってくれるからだけじゃない。
 おじいちゃんと話す優しい声も、時々悪ガキに戻る表情も、どれもこれもが急に色鮮やかに浮かんでくる。

「さっきからどうした? おかしいぞ。体調悪いとかか?」
 心配そうに顔を覗き込まれて、そのまま額に手を置かれて熱を測られる。
「わかんないな。とりあえず身体冷やしたかもしれないし、急いで帰るか」
 今までだって何度も手を繋いできたし、こんな接触どうってことないはずなのに、急に恥ずかしくなってきた。
 おかしい。完全に感情がコントロールできなくなっている。

「とりあえず俺ので悪いけど、これも羽織っておけ。風邪の引き始めかもしれないし」
「ちがっ」
 こんなに私が取り乱しているっていうのに、直哉は平然としている。
 千歌の嘘つき。なにが特別よ。
 確かにこれは大事にしてくれているんだろうけど、オカン的に過保護なだけじゃないの? 直哉ってば。

「とにかく帰ろう。そんで早く寝ろ」
「いやっ」
 人の気を知らずに手を引っ張って帰ろうとする直哉の手を、勢いよく振り払った。

「夕映?」
「あ、その、いやっていうか、あの」
 あーもう、うまく説明できない。
 なにこれ。自覚した途端、人間ってこんなにポンコツになるの?

「だ、大丈夫! 風邪じゃないし、元気! 一人で帰れるし、もうここでいいよ。じゃっ」
 とにかく今はもう無理。いろいろ無理。
 キャパオーバーもいいとこだよ。
「あ、上着も返すね、それじゃっ」
 押し付けるように上着を渡して方向転換しようとしたら、その手首を掴まれた。

「な、直哉?」
 思ったより強い力で掴まれたから、逃げることなんてできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】碧よりも蒼く

多田莉都
青春
中学二年のときに、陸上競技の男子100m走で全国制覇を成し遂げたことのある深田碧斗は、高校になってからは何の実績もなかった。実績どころか、陸上部にすら所属していなかった。碧斗が走ることを辞めてしまったのにはある理由があった。 それは中学三年の大会で出会ったある才能の前に、碧斗は走ることを諦めてしまったからだった。中学を卒業し、祖父母の住む他県の高校を受験し、故郷の富山を離れた碧斗は無気力な日々を過ごす。 ある日、地元で深田碧斗が陸上の大会に出ていたということを知り、「何のことだ」と陸上雑誌を調べたところ、ある高校の深田碧斗が富山の大会に出場していた記録をみつけだした。 これは一体、どういうことなんだ? 碧斗は一路、富山へと帰り、事実を確かめることにした。

不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸
青春
【雨の日に出会った金髪アイドルとの、ノンストレスラブコメディ――――】  主人公――――慎也は無事高校にも入学することができ可もなく不可もなくな日常を送っていた。  取り立てて悪いこともなく良いこともないそんな当たり障りのない人生を―――――  しかしとある台風の日、豪雨から逃れるために雨宿りした地で歯車は動き出す。  そこに居たのは存在を悟られないようにコートやサングラスで身を隠した不審者……もとい小さな少女だった。  不審者は浮浪者に進化する所を慎也の手によって、出会って早々自宅デートすることに!?  そんな不審者ムーブしていた彼女もそれは仮の姿……彼女の本当の姿は現在大ブレイク中の3人組アイドル、『ストロベリーリキッド』のメンバーだった!!  そんな彼女から何故か弟認定されたり、他のメンバーに言い寄られたり――――慎也とアイドルを中心とした甘々・イチャイチャ・ノンストレス・ラブコメディ!!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...