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6.そして向きあう

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「そうだね。じゃあ、言ってもいい?」
 それまで笑ってくれていた千歌が、ふと引き締めるような表情をした。
 ピリッと空気が変わって、背中に冷たい汗が一筋流れた。
 思わず姿勢を正した私を見て、千歌が大きく深呼吸しはじめた。

「千、千歌?」
 何度かの深呼吸の後、大きく息を吸った後に、一気にまくしたて始めた。

「まずね、避けられたのは本当に悲しかったんだよ! 友達なのになんで何も言ってくれないの? って。進路も勝手に杜野に決めちゃうしさ。一緒に藤咲に行こうって言ってたのはなんだったのよ。おまけにこの前の再会もだし、今日もあたしの顔を見た時の夕映の顔。あれ、なに? 幽霊でも見たかのように青ざめないでよ」
 そこまで言うと息が切れたのか、肩を揺らして小さな呼吸を繰り返した。
 あまりの千歌の剣幕に、私はただ呆気にとられてしまった。

「言ったよ、これで満足?」
 にこっと明るく笑う千歌は、涼しい顔をして手をつけずにいたグラスを一気にあおった。
「あーっ、すっきりした!」
 本当に心からそう言っているみたいで、千歌こそ今日最初にあった時みたいに強張った表情は、もうしていない。
 責められるのを覚悟していたけれど、これはあんまり責められたって感じしない。
 許せないとか、嫌いとか、醜い感情が一個も伝わってこなかったから。

「あ、ありがとう?」
「なんで疑問形なの」
「なんか、好きが伝わってきたから?」
「今まで伝わっていなかったことにショックだよ、あたしは」
 素直すぎる千歌の言葉に、思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
 千歌から逃げるように過ごしていた時には、こんな風に千歌ともう一回、笑いあえる日がくるとは思っていなかった。

「私も、好きだよ。千歌のこと」
 好きだから、嫌われたくなかった。
 好きだから、対等の立場になれないと思った時に、悔しくて仕方がなかった。
 好きだから、もう一回、ちゃんと向き合いたいって思った。

「ありがとう。でもさ、こんな大声で叫んだあとに愛を伝えあってて、あたしたち、誤解されないかな?」
 千歌に言われてハッと周りを見渡せば、確かにあちらこちらから視線を感じる。
 そういえば一つ離れたテーブルの話し声だってしっかり聞こえるくらいだったもん。
 千歌のあのまくしたてたのは店内に響き渡っているよね。

「あーっ、恥ずかしい! 千歌のせいじゃん」
「ひどい。夕映が言ったんでしょ。怒っていいって」
「そうだけど、そうだけどね」
 お互いのせいにしたりしながら、それでもこうして築き直せた関係が嬉しくて、表情筋が痛くなるくらい、笑いあった。
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