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5.だれしも過去を抱えている
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誰にだって話したくないことはある。
でも、どこかで誰かに聞いて欲しいと思っている気持ちもある。
私にとっては、それが直哉だった。
そして今、直哉が私に話そうとしてくれている。
ずっと私が色んなことを聞いてもらってばっかりだったから、話そうとしてくれるのを嬉しいと思っている。
それに知りたいと思っている。直哉がなんで今、バスケをやっていないのか。
話そうとしている直哉も緊張しているんだろうけど、私も密かに緊張しているんだ。
沈黙が続く私たちの間を、夕方の涼しい風が通り抜けた。
風に遊ばれた髪を整えていたら、直哉が覚悟を決めたのか、息を吸う音が聞こえた後、話しはじめた。
「杜野高校で再会している時点でなんとなく気づいているだろうけど、夕映の中学生時代の話を聞いたとき、『わかる』って言っただろう? 俺の中学生時代も似たようなもんだったんだよ」
確かに直哉のいう通り、心のどこかでなんとなく気づいていた。
ただ杜野高校に来ただけなら、藤咲落ちたのかな? くらいに思ったかもしれない。
ううん。それでもバスケを続けるつもりなら杜野という選択肢はない。
だって、杜野高校のバスケ部は弱小もいいところで、本気でバスケをやりたいなら、違う学校を選ぶはずだから。
「中学二年生の時、急に膝が痛みだしたんだ。最初はよく言われる成長痛とかかなって思った。先輩にも『今は無理せず、上手に付き合っていけ』って言われたし。だけど、いつまで経っても痛みは治まらない。最初はジャンプした時とか、ストップした時に痛んでいたものが、徐々になにもしなくても痛くなっていった」
バスケをしているなら、膝の痛みを経験したことがある人は多いんじゃないかな。
私も、少し経験したことがある。
やっぱりジャンプした時とか、膝に負担をかけるような動きの時に痛むやつ。
私の場合は一時的だったけど、それでもその時はすごく痛かった。
あれがずっと続くってかなりつらい。
「湿布だけじゃどうにもならなくて、病院に行った。そしたら『オスグッド』って診断されたんだ」
「オスグッド?」
はじめて聞く病名に思わず聞き返す。
重症だった、とか?
私の疑問は顔に出ていたみたいで、直哉が安心させるように小さく笑った。
「オスグッドっていうのは成長痛とは違うけど、成長期にスポーツをよくやる人に起こる症状だって。とにかく安静にって言われたよ」
「安静にしたら、治るの?」
痛みがどのくらいで治まるのか。
捻挫や突き指なら回復がわかりやすいけど、スポーツをやっていたら起きる症状なんて言われたら、終わりが見えなくて不安になる。
私の疑問に同調するように直哉は首を竦めた。
「骨折とかさ、全治何か月とか言ってくれれば、その間我慢すればいいんだとか思えるけど、痛んだら安静にって曖昧だと思わないか? しかも、歩く分にはそれほど痛いわけじゃないから、見た目にも分かりづらいし」
あぁ、やっぱりそうなんだ。
しかも中学二年生、一番頑張りたいときにそう言われたら、かなりつらい。
「いつまでも治まらない痛みに、我慢できなかったんだ。だから痛みなんて無視してプレーし続けた。それでどんどん痛みは酷くなっていって、当然、満足のいくプレーなんて出来なくて。で、ある日気づいたんだ。あぁ、俺の選手生命ここで終わったなって」
フッと口をゆがめて笑う直哉の表情に、思わず胸が苦しくなる。
口では終わったって言ってみせたって、簡単に諦められたわけないよね。
私の話を聞いた時に『わかる』って言った直哉。
そうだね。志半ばで辞める気持ちは、私たち、よくわかるね。
でも、どこかで誰かに聞いて欲しいと思っている気持ちもある。
私にとっては、それが直哉だった。
そして今、直哉が私に話そうとしてくれている。
ずっと私が色んなことを聞いてもらってばっかりだったから、話そうとしてくれるのを嬉しいと思っている。
それに知りたいと思っている。直哉がなんで今、バスケをやっていないのか。
話そうとしている直哉も緊張しているんだろうけど、私も密かに緊張しているんだ。
沈黙が続く私たちの間を、夕方の涼しい風が通り抜けた。
風に遊ばれた髪を整えていたら、直哉が覚悟を決めたのか、息を吸う音が聞こえた後、話しはじめた。
「杜野高校で再会している時点でなんとなく気づいているだろうけど、夕映の中学生時代の話を聞いたとき、『わかる』って言っただろう? 俺の中学生時代も似たようなもんだったんだよ」
確かに直哉のいう通り、心のどこかでなんとなく気づいていた。
ただ杜野高校に来ただけなら、藤咲落ちたのかな? くらいに思ったかもしれない。
ううん。それでもバスケを続けるつもりなら杜野という選択肢はない。
だって、杜野高校のバスケ部は弱小もいいところで、本気でバスケをやりたいなら、違う学校を選ぶはずだから。
「中学二年生の時、急に膝が痛みだしたんだ。最初はよく言われる成長痛とかかなって思った。先輩にも『今は無理せず、上手に付き合っていけ』って言われたし。だけど、いつまで経っても痛みは治まらない。最初はジャンプした時とか、ストップした時に痛んでいたものが、徐々になにもしなくても痛くなっていった」
バスケをしているなら、膝の痛みを経験したことがある人は多いんじゃないかな。
私も、少し経験したことがある。
やっぱりジャンプした時とか、膝に負担をかけるような動きの時に痛むやつ。
私の場合は一時的だったけど、それでもその時はすごく痛かった。
あれがずっと続くってかなりつらい。
「湿布だけじゃどうにもならなくて、病院に行った。そしたら『オスグッド』って診断されたんだ」
「オスグッド?」
はじめて聞く病名に思わず聞き返す。
重症だった、とか?
私の疑問は顔に出ていたみたいで、直哉が安心させるように小さく笑った。
「オスグッドっていうのは成長痛とは違うけど、成長期にスポーツをよくやる人に起こる症状だって。とにかく安静にって言われたよ」
「安静にしたら、治るの?」
痛みがどのくらいで治まるのか。
捻挫や突き指なら回復がわかりやすいけど、スポーツをやっていたら起きる症状なんて言われたら、終わりが見えなくて不安になる。
私の疑問に同調するように直哉は首を竦めた。
「骨折とかさ、全治何か月とか言ってくれれば、その間我慢すればいいんだとか思えるけど、痛んだら安静にって曖昧だと思わないか? しかも、歩く分にはそれほど痛いわけじゃないから、見た目にも分かりづらいし」
あぁ、やっぱりそうなんだ。
しかも中学二年生、一番頑張りたいときにそう言われたら、かなりつらい。
「いつまでも治まらない痛みに、我慢できなかったんだ。だから痛みなんて無視してプレーし続けた。それでどんどん痛みは酷くなっていって、当然、満足のいくプレーなんて出来なくて。で、ある日気づいたんだ。あぁ、俺の選手生命ここで終わったなって」
フッと口をゆがめて笑う直哉の表情に、思わず胸が苦しくなる。
口では終わったって言ってみせたって、簡単に諦められたわけないよね。
私の話を聞いた時に『わかる』って言った直哉。
そうだね。志半ばで辞める気持ちは、私たち、よくわかるね。
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