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5.だれしも過去を抱えている

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 部活もない、受験勉強もない夏休みというのは、追われるものも夢中になるものもなく。
 今年の夏休みはほぼ『カスミ』のバイトをして過ごした。
 平穏、こんなに静かな夏休みは、はじめてかもしれない。
 夏祭りでも行けばよかったかな。でも真夏ちゃんたちとは予定が合わなかったし、なんて考えていたら、来客を報せるベルが鳴った。

「いらっしゃいませ……って、直哉か」
「よっ」
 軽く手をあげて挨拶をした後、いつものカウンター席へと腰かける。
 夏休み中、週一、多い時は週三で来てる。しかも滞在時間が長い。
 そんな直哉におじいちゃんも笑顔で声をかける。

「暑い中、いつもありがとうね。宿題は終わったかい?」
「おかげさまで。ここだと集中できるから、はかどります!」
 直哉には達哉くんっていう三歳離れた弟がいるんだけど、インドア派だから夏休みは一日中家にいるらしくて。
 性格も直哉とは正反対で、宿題はさっさと終わらせるタイプらしい。
 そんなわけで、すでに宿題が終わっている達哉くんは、一日中ゲームしたり動画見たりしているらしく、家にいると直哉もそれについ、つられてしまうんだって。

「いっそ達哉くんが宿題しているのにもつられて、一緒に終わらせられればよかったのに」
「無理言うなよ。そういう夕映こそ終わったのか?」
「うん。ほぼ終わってるよ」

 先週、渚沙ちゃんの家でお泊り会をしたんだ。
 その時に宿題も集中してほぼ終わっている。お友達の家にお泊り会なんて、夜更かしてどんな話したりするのかな、なんてワクワクして楽しみにしていたのに、ビックリするくらいスパルタな渚沙ちゃんのもとで、私と真夏ちゃんは半泣きになりながら宿題と戦ったんだ。
 渚沙ちゃん、ふんわりとした印象からのギャップが激しすぎる。
 そんな発見もあって、楽しいお泊り会だった。

「まぁ、頑張りなよ。もうあと三日しかないんだからね」
「はやすぎるよなぁ。この前、夏休みに入ったばかりのような気がするのに」
「そうだね……」

 夏休み初日、ミニバスの帰りに千歌に会った日だ。
 そして、お母さんと向き合おうって思いながら、結局勇気が出ないまま今日まで来てしまった。
 千歌のことも、お母さんのことも、逃げたまま……。
 このままじゃいけないってわかってはいるんだけど、いざ家でお母さんと顔を合わせても、つい逸らしてしまう。
 多分、お母さんもなんだよね。なんか言いたげな雰囲気は伝わってくるもん。
 素直になれたらいいのに。でも、また喧嘩になるのは嫌だなぁ。

「夕映、百面相してるぞ」
「へ!?」
 直哉がケラケラ笑うから、思わずプンッて横向いた。
 考えごとしてたんだから、しょうがないじゃない。
 チラッと視線を直哉に戻せば、楽しそうに笑っている。
 そういえばずっと聞けないままだった。
 直哉がなんで杜野にきているのか。なんでバスケを辞めたのか。
 それこそミニバスのボランティアコーチなんてやってるんだから、嫌いで辞めたわけじゃないんだろうと思う。
 でも、だったらなんで? 直哉こそ、バスケが大好きで仕方がなかったのに。

 知りたいこと、前を向かなくちゃいけないこと、話し合わなくちゃいけないこと。
 抱えた宿題は終わらないまま、夏が終わろうとしている。
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