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3.そして向き合う原点
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最寄り駅のあたりで嫌な予感はあった。
中学の学区は違ったけど、同じ小学校に通っていたんだから、直哉と私の家から電車に乗ろうとすると、同じ駅を使う事になる。
とはいえお互いの家は学区の端と端だったから徒歩だと三十分くらい離れている。
その最寄り駅で降りてからバスに乗り、なにも説明のないまま降りたバス停は、私達が通った小学校前だった。
「……なんで」
「最初に説明すると、行かないって言われると思ったからさ」
「そりゃ、言うよ。だって金曜日のこの時間って言ったら……」
薄暗くなった空の下、体育館の灯がついているのがわかる。
そう、私たちが通ったミニバスチームの練習日だ。
「ごめん! 今日だけ。今日だけ手伝ってよ」
「はあ?」
両手で拝んでいた直哉が顔をあげて体育館を指さす。
「俺らの時のメグコーチ、まだミニバスのコーチやってるんだよ」
「メグコーチ?」
懐かしい名前に思わず反応してしまう。
メグコーチというのは、私たちがミニバスに所属していた時にお世話になったコーチで、自身もママさんバスケチームに所属している現役のプレイヤーだ。
結構スパルタだったけど、明るくってみんな大好きだった。
「コーチ、元気?」
「それがさ、今朝、連絡があって階段で足を踏み外して挫いちゃったって」
「――ええ!?」
「聞いた限り、歩けないってわけじゃなさそうだけどさ。一応、今日はコーチ休んだら? って言ったんだ。なのに来るって。わかるだろ? あの人、絶対無理するって」
直哉の言葉を聞き、豪快に笑いながら痛めた足を「へっちゃら!」って言いながら叩いているメグコーチが思い浮かぶ。
うん、あの人ってそういう人だよね。
「でもコーチが怪我したって、なんで直哉が知ってるの?」
「それは俺、高校受験合格してから、ミニバスのボランティアコーチやってるんだよ」
直哉がコーチ……。
想像したことなかったけど、結構面倒見がいいし、向いてるかもしれない。
「俺のことはおいといて。メグコーチ、ほっとくと暴走しそうじゃん。だから夕映、今日だけミニバスの臨時コーチ、引き受けて欲しいんだ」
「へ?」
助っ人って、ミニバスのコーチの!?
「む、無理だよ。私、人に教えるなんて出来ないし。それに……」
「バスケから離れていたから、か?」
図星を指されて、思わず息をのむ。
そうだよ。直哉は知ってるはずじゃん。私がバスケから離れていたこと。
「わかっててなんで連れてくるのよ。意地悪が過ぎるんじゃない?」
「だって本当は夕映、バスケ好きじゃん」
ハッキリと言い切られて思わず直哉の顔を見た。
へへっと昔みたいにイタズラがバレたような顔をしている。
「そりゃ辛くて苦しんでやめたんだろうけどさ、それだってバスケが嫌でやめたんじゃない。自分の限界を感じてやめただけだろう?」
「だけって……」
「それにきっとこれはいいタイミングだ。別にプレイヤーとして戻って欲しいって言っているわけじゃない。今日は人助けだから。子供たちに教えるだけ、な」
確かに、臨時コーチなら自分がプレーするわけじゃない。
私が人に教えることができるかどうかはわからないけど、必死にお願いしてくる直哉を見ていたら、断るほうが人でなしみたいじゃない。
「仕方がないなぁ。だけど、こんな急に引っ張ってこられても、私シューズもウエアも持ってないのに」
「それは大丈夫! じゃあ気が変わらないうちに行くぞ!」
「え? 大丈夫って、どういう……」
話の途中だというのに、また手を引っ張って走り始めた。
もう、強引すぎるでしょ。そう思いながらも、この強引さに諦めと慣れと、どこか懐かしさを感じる。
直哉が引っ張っていってくれる先にきっと悪いことはないから。
でも、少し、緊張する。
逃げてから近寄らなかった場所に、もう一度足を踏み入れることに。
触らなかったボールに触れる瞬間が迫っていることに。
緊張しているのをごまかすように、繋がれた手を、きゅっと握り返した。
中学の学区は違ったけど、同じ小学校に通っていたんだから、直哉と私の家から電車に乗ろうとすると、同じ駅を使う事になる。
とはいえお互いの家は学区の端と端だったから徒歩だと三十分くらい離れている。
その最寄り駅で降りてからバスに乗り、なにも説明のないまま降りたバス停は、私達が通った小学校前だった。
「……なんで」
「最初に説明すると、行かないって言われると思ったからさ」
「そりゃ、言うよ。だって金曜日のこの時間って言ったら……」
薄暗くなった空の下、体育館の灯がついているのがわかる。
そう、私たちが通ったミニバスチームの練習日だ。
「ごめん! 今日だけ。今日だけ手伝ってよ」
「はあ?」
両手で拝んでいた直哉が顔をあげて体育館を指さす。
「俺らの時のメグコーチ、まだミニバスのコーチやってるんだよ」
「メグコーチ?」
懐かしい名前に思わず反応してしまう。
メグコーチというのは、私たちがミニバスに所属していた時にお世話になったコーチで、自身もママさんバスケチームに所属している現役のプレイヤーだ。
結構スパルタだったけど、明るくってみんな大好きだった。
「コーチ、元気?」
「それがさ、今朝、連絡があって階段で足を踏み外して挫いちゃったって」
「――ええ!?」
「聞いた限り、歩けないってわけじゃなさそうだけどさ。一応、今日はコーチ休んだら? って言ったんだ。なのに来るって。わかるだろ? あの人、絶対無理するって」
直哉の言葉を聞き、豪快に笑いながら痛めた足を「へっちゃら!」って言いながら叩いているメグコーチが思い浮かぶ。
うん、あの人ってそういう人だよね。
「でもコーチが怪我したって、なんで直哉が知ってるの?」
「それは俺、高校受験合格してから、ミニバスのボランティアコーチやってるんだよ」
直哉がコーチ……。
想像したことなかったけど、結構面倒見がいいし、向いてるかもしれない。
「俺のことはおいといて。メグコーチ、ほっとくと暴走しそうじゃん。だから夕映、今日だけミニバスの臨時コーチ、引き受けて欲しいんだ」
「へ?」
助っ人って、ミニバスのコーチの!?
「む、無理だよ。私、人に教えるなんて出来ないし。それに……」
「バスケから離れていたから、か?」
図星を指されて、思わず息をのむ。
そうだよ。直哉は知ってるはずじゃん。私がバスケから離れていたこと。
「わかっててなんで連れてくるのよ。意地悪が過ぎるんじゃない?」
「だって本当は夕映、バスケ好きじゃん」
ハッキリと言い切られて思わず直哉の顔を見た。
へへっと昔みたいにイタズラがバレたような顔をしている。
「そりゃ辛くて苦しんでやめたんだろうけどさ、それだってバスケが嫌でやめたんじゃない。自分の限界を感じてやめただけだろう?」
「だけって……」
「それにきっとこれはいいタイミングだ。別にプレイヤーとして戻って欲しいって言っているわけじゃない。今日は人助けだから。子供たちに教えるだけ、な」
確かに、臨時コーチなら自分がプレーするわけじゃない。
私が人に教えることができるかどうかはわからないけど、必死にお願いしてくる直哉を見ていたら、断るほうが人でなしみたいじゃない。
「仕方がないなぁ。だけど、こんな急に引っ張ってこられても、私シューズもウエアも持ってないのに」
「それは大丈夫! じゃあ気が変わらないうちに行くぞ!」
「え? 大丈夫って、どういう……」
話の途中だというのに、また手を引っ張って走り始めた。
もう、強引すぎるでしょ。そう思いながらも、この強引さに諦めと慣れと、どこか懐かしさを感じる。
直哉が引っ張っていってくれる先にきっと悪いことはないから。
でも、少し、緊張する。
逃げてから近寄らなかった場所に、もう一度足を踏み入れることに。
触らなかったボールに触れる瞬間が迫っていることに。
緊張しているのをごまかすように、繋がれた手を、きゅっと握り返した。
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