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3.そして向き合う原点
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お昼を報せるチャイムとともに、数人の男子がダッシュで廊下へと飛び出した。
一年生の教室は購買から一番離れているから、のんびりしていると人気のパンなどは売り切れちゃうんだ。
「夕映ちゃん、今日のお昼は二組で食べよう」
クラスメイトの真夏ちゃんがお弁当箱をゆらゆらさせながら声をかけてくれた。
「うん」
返事をして、鞄の中からお弁当箱を取り出すと、真夏ちゃんの後ろについて二組へと向かう。
真夏ちゃんはクラス委員長で、バレー部に所属している。
身長が高くてポニーテールが良く似合う一見活発な女の子。でも意外に人見知りなんだって。
そんな真夏ちゃんと仲良くなったのは、ある日、宿題を忘れた真夏ちゃんが静かにパニック起こしていて、その様子が見ていられなかったから。
真夏ちゃん、明らかに挙動不審でオロオロしていたんだけど、誰に話しかけることもなくて、でも明らかに困っている様子だったから、思い切って声をかけてみた。
すると委員長なのに宿題のノートを忘れてきた……とこの世の終わりのような顔をするから、ノートを写させてあげたんだ。それからすっかり仲良くなって、今では一緒にお昼を食べるようになった。
キッカケはノートだったけれど、仲良くなれた理由の一つに、私の中で変化があったからかもしれない。
あの日、直哉に中学生時代の話をして、感情をすべてさらけ出したら少しスッキリした。
悔しいけれど直哉の言う通りだったってわけだ。
それだけのことだったのに、翌日からちょっとだけ景色が違って見えた。
ずっとくすんだ世界にいると思って息苦しかった高校で、楽に呼吸が出来るようになった気がする。
学校でも誰とも関わらないように俯いていたのも、前を向くようになった。だからこそあの日、宿題を忘れた真夏ちゃんに声をかけられたんだと思う。
入学当初の私なら、きっとそのまま知らんぷりしていたんだろうな。
真夏ちゃんと一緒に二組に行くと、そこには真夏ちゃんの仲良しである渚沙ちゃんが、すでに三人で座れるように机を用意してくれていた。
二人は中学生時代からの仲良しらしい。
クラスが離れていても真夏ちゃんと渚沙ちゃんは、こうしてお昼は一緒にどちらかの教室で食べていたんだって。
そこに私も誘ってくれるようになって、今では三人でお昼を過ごしている。
「あ……」
渚沙ちゃんの席に向かおうとしたところ、ちょうど直哉が教室から出るところだったみたいで、鉢合わせるような形になった。
「よっ」
「……うん」
挨拶になってるんだかわからないような言葉を交わして、直哉は教室から出ていった。
多分友達と購買に行ったんだろうな。
あれから直哉とは、学校で顔を合わせると短い挨拶を交わす。
あれだけ泣いて醜態をさらしてしまえば、今更他人の振りしづらいというか……。
あの日、散々泣き続けた私の傍に、直哉はいてくれた。
泣くというのは体力を使うもので……やがて私のお腹は元気にアピールをした。
そんな音が響いてしまえば涙なんて引っ込んでしまうもので、大笑いする直哉と一緒に『カスミ』でお昼ご飯を食べた。
明らかに泣き顔の私におじいちゃんは何も言わず、いつもの優しい笑顔で、私が大好きなおじいちゃんのサンドイッチを作ってくれた。
いつも以上に優しくてフワフワのたまごサンドだったのに、いつもよりちょっぴり塩辛く感じた。
「うまいな」そんな直哉の言葉に、ただただ頷いてサンドイッチを頬張った。
「夕映ちゃん、どうしたの?」
その時のことを思いだしてぼぉっとしてしまったから、真夏ちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
「ごめん、なんでもない」
お昼休みの他愛もない時間。少し前の私だったらもう少しピリついていたかもしれない。
下を向いたままだったら、きっと今でもお弁当を美味しく感じることはなかっただろう。
あの日、直哉はただ単に私の心を軽くしてくれただけでなく、高校生活にも彩りを与えてくれた。
一年生の教室は購買から一番離れているから、のんびりしていると人気のパンなどは売り切れちゃうんだ。
「夕映ちゃん、今日のお昼は二組で食べよう」
クラスメイトの真夏ちゃんがお弁当箱をゆらゆらさせながら声をかけてくれた。
「うん」
返事をして、鞄の中からお弁当箱を取り出すと、真夏ちゃんの後ろについて二組へと向かう。
真夏ちゃんはクラス委員長で、バレー部に所属している。
身長が高くてポニーテールが良く似合う一見活発な女の子。でも意外に人見知りなんだって。
そんな真夏ちゃんと仲良くなったのは、ある日、宿題を忘れた真夏ちゃんが静かにパニック起こしていて、その様子が見ていられなかったから。
真夏ちゃん、明らかに挙動不審でオロオロしていたんだけど、誰に話しかけることもなくて、でも明らかに困っている様子だったから、思い切って声をかけてみた。
すると委員長なのに宿題のノートを忘れてきた……とこの世の終わりのような顔をするから、ノートを写させてあげたんだ。それからすっかり仲良くなって、今では一緒にお昼を食べるようになった。
キッカケはノートだったけれど、仲良くなれた理由の一つに、私の中で変化があったからかもしれない。
あの日、直哉に中学生時代の話をして、感情をすべてさらけ出したら少しスッキリした。
悔しいけれど直哉の言う通りだったってわけだ。
それだけのことだったのに、翌日からちょっとだけ景色が違って見えた。
ずっとくすんだ世界にいると思って息苦しかった高校で、楽に呼吸が出来るようになった気がする。
学校でも誰とも関わらないように俯いていたのも、前を向くようになった。だからこそあの日、宿題を忘れた真夏ちゃんに声をかけられたんだと思う。
入学当初の私なら、きっとそのまま知らんぷりしていたんだろうな。
真夏ちゃんと一緒に二組に行くと、そこには真夏ちゃんの仲良しである渚沙ちゃんが、すでに三人で座れるように机を用意してくれていた。
二人は中学生時代からの仲良しらしい。
クラスが離れていても真夏ちゃんと渚沙ちゃんは、こうしてお昼は一緒にどちらかの教室で食べていたんだって。
そこに私も誘ってくれるようになって、今では三人でお昼を過ごしている。
「あ……」
渚沙ちゃんの席に向かおうとしたところ、ちょうど直哉が教室から出るところだったみたいで、鉢合わせるような形になった。
「よっ」
「……うん」
挨拶になってるんだかわからないような言葉を交わして、直哉は教室から出ていった。
多分友達と購買に行ったんだろうな。
あれから直哉とは、学校で顔を合わせると短い挨拶を交わす。
あれだけ泣いて醜態をさらしてしまえば、今更他人の振りしづらいというか……。
あの日、散々泣き続けた私の傍に、直哉はいてくれた。
泣くというのは体力を使うもので……やがて私のお腹は元気にアピールをした。
そんな音が響いてしまえば涙なんて引っ込んでしまうもので、大笑いする直哉と一緒に『カスミ』でお昼ご飯を食べた。
明らかに泣き顔の私におじいちゃんは何も言わず、いつもの優しい笑顔で、私が大好きなおじいちゃんのサンドイッチを作ってくれた。
いつも以上に優しくてフワフワのたまごサンドだったのに、いつもよりちょっぴり塩辛く感じた。
「うまいな」そんな直哉の言葉に、ただただ頷いてサンドイッチを頬張った。
「夕映ちゃん、どうしたの?」
その時のことを思いだしてぼぉっとしてしまったから、真夏ちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
「ごめん、なんでもない」
お昼休みの他愛もない時間。少し前の私だったらもう少しピリついていたかもしれない。
下を向いたままだったら、きっと今でもお弁当を美味しく感じることはなかっただろう。
あの日、直哉はただ単に私の心を軽くしてくれただけでなく、高校生活にも彩りを与えてくれた。
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