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2.逃げた過去
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「……そうして私は、杜野へきたってわけ。とにかく地元の人間が通わなさそうで、バスケが盛んじゃない学校だったらどこでもよかった。それを基準に探しながら、お母さんを納得させるためになるべく偏差値高めを狙ってね」
誰もいないところに行きたかった。
バスケを辞めて抜け殻になった私は、もう人と関わりたくもなかった。
あの時の感情は、劣等感と嫉妬だ。
千歌は私の後ろを追いかけてくると思っていたのに、いつの間にか抜かれてしまっていたことに対して。
すぐに追いつけると思ったのに、努力だけではどうにもならない差があったことに気がついて。
どんどんと空回りし始めた自分が情けなくて恥ずかしくなって、みんなと一緒にいるのが苦しくなってしまったことが、辛くて、悔しくて。
とにかく知ってる人がいない場所に行きたかったんだ。
「ばーか」
くしゃくしゃっと頭を撫でながら、直哉が息を吐くように言った。
「やめてよ。髪の毛絡まっちゃうじゃない」
直哉の手を止めようと思ったのに、ぽんぽんとリズムよく撫でる手のひらの温もりに、抗えなくなっていった。
そのリズムが、心の奥でずっと閉じ込めていた涙を落とさせる。
もう、今日は泣いてばかりだ。
「……頑張ったな」
「下手な慰めはよしてよ。逃げた人間にかける言葉じゃないでしょ」
「真剣にやってた人間なら、夕映の気持ちわかるさ。そんな自分が許せないと思っていることもな」
「わかったようなことっ……」
「わかるよ。何年の付き合いだと思ってるんだよ」
わかる、その言葉が私の心の氷を溶かすように沁みていく。
チームメイトには言えなかった。こんな情けない気持ちも、醜い心も。
軽蔑されるのが怖かったんだ。それならいっそのこと自分から離れてしまう方がいいと思った。
だから誰にも言えなかった。でも、本当は「わかる」って誰かに寄り添って欲しかった。
「……っくっ……うっっ……」
今までこらえていたものが、全部零れ落ちていく。
強がっていたことも、目を背けようとしていたことも、全部。
「おう、泣いとけ。ぜーんぶ、はきだしてしまえ」
顔を見ているわけじゃないのに、きっと直哉は優しく見守ってくれている。
そう感じる手の温もりを頭に感じながら、堰き止めていた思いが、激しく涙となって流れていった。
誰もいないところに行きたかった。
バスケを辞めて抜け殻になった私は、もう人と関わりたくもなかった。
あの時の感情は、劣等感と嫉妬だ。
千歌は私の後ろを追いかけてくると思っていたのに、いつの間にか抜かれてしまっていたことに対して。
すぐに追いつけると思ったのに、努力だけではどうにもならない差があったことに気がついて。
どんどんと空回りし始めた自分が情けなくて恥ずかしくなって、みんなと一緒にいるのが苦しくなってしまったことが、辛くて、悔しくて。
とにかく知ってる人がいない場所に行きたかったんだ。
「ばーか」
くしゃくしゃっと頭を撫でながら、直哉が息を吐くように言った。
「やめてよ。髪の毛絡まっちゃうじゃない」
直哉の手を止めようと思ったのに、ぽんぽんとリズムよく撫でる手のひらの温もりに、抗えなくなっていった。
そのリズムが、心の奥でずっと閉じ込めていた涙を落とさせる。
もう、今日は泣いてばかりだ。
「……頑張ったな」
「下手な慰めはよしてよ。逃げた人間にかける言葉じゃないでしょ」
「真剣にやってた人間なら、夕映の気持ちわかるさ。そんな自分が許せないと思っていることもな」
「わかったようなことっ……」
「わかるよ。何年の付き合いだと思ってるんだよ」
わかる、その言葉が私の心の氷を溶かすように沁みていく。
チームメイトには言えなかった。こんな情けない気持ちも、醜い心も。
軽蔑されるのが怖かったんだ。それならいっそのこと自分から離れてしまう方がいいと思った。
だから誰にも言えなかった。でも、本当は「わかる」って誰かに寄り添って欲しかった。
「……っくっ……うっっ……」
今までこらえていたものが、全部零れ落ちていく。
強がっていたことも、目を背けようとしていたことも、全部。
「おう、泣いとけ。ぜーんぶ、はきだしてしまえ」
顔を見ているわけじゃないのに、きっと直哉は優しく見守ってくれている。
そう感じる手の温もりを頭に感じながら、堰き止めていた思いが、激しく涙となって流れていった。
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