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2.逃げた過去
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二年生になった夏の大会は、県大会ベスト十六という成績で終わった。
先輩たちにとっては最後の大会だった。勝てなくて悔しくていっぱい泣いたけれど、心のどこかで次は自分たちが頑張る番だとも思っていた。
三年生が抜ければ当然チーム編成が大きく変わる。
バスケは試合中の交代が盛んにおこなわれるというものの、試合開始時にコートに出る五人がスターティングメンバ―。そこに入るのは私の目標の一つでもあった。そしてそれが叶った瞬間、周りには悟られないように心の中でガッツポーズをした。
ユニフォームを着用できるメンバーで、私以外のPGは二人。千歌と一年生の莉々だった。
莉々はミニバス経験者で私達より身長は高いけれど、遠慮がちの性格がプレーにも出ていて、特に私達二年生と一緒にプレーすると少し縮こまってしまう。
千歌も日々上達はしているけれど、まだディフェンスは甘いし、攻撃が単調で長い時間のプレーになると攻められることが多くなる。
そんな二人とお互い指摘しあったりしながらも、私はスタメンであることを当然のように思ってしまっていた。
秋の新人戦でもまずまずの結果を残し、冬の大会を目指して練習に励んでいた十一月。
私の歯車が狂いだしたのはこの頃だった。
……違う。目に見えたのがこの頃ってだけ。
本当はもっと前に気づくタイミングはあったはずなんだ。
スタメンであることを当然だと思ってしまった時。千歌がスポンジのようにどんどん吸収しているのを見ていた時。
今となってはすべてがもう遅い。
きっかけは試合形式の練習をしているときだった。
千歌と別々のチームになって、五分間のミニゲーム。今まで何度も繰り返してきた練習。
千歌がボールを持った時、私は千歌の右寄りの進路を塞いだ。右利きの千歌が左手でドリブルするのを苦手だったのを知っていたから。
だけどそんな私の前で、千歌は一瞬のフェイントをかけた後、左から風が通り抜けるかのように目の前からいなくなっていた。
一瞬、なにが起きたのかわからなかった。
そんなの偶然。ちょっと気が緩んでいただけ。そう切り替えて今度は私がボールを持った。
マンツーマンディフェンス。私のマークには当然、千歌がつく。
今度は私の番! 左右でボールをついて揺さぶりをかける。千歌の意識が一瞬右に向いたのを見て、左から抜こうとボールを左手で突こうとした瞬間。
私の左手で突くはずだったボールは、千歌の右手で奪い取られていた。
――なん、で?
その後、何回繰り返しても同じだった。
私がディフェンスすれば抜かれる。オフェンスで攻めようとすると奪われる。
なんで、なんでなんで、なんで?
右から左から、羽が生えたかのように軽やかに千歌がすり抜けていく。走っても追いつけない。
それならメンバーにパスしようとしても、パスコースは完全にふさがれてしまう。
なんで? なんで?
どう動いても、なにをしても一つも上手くいかなかった。
息が……苦しい。足が、動かない。
――ピィィィッ
先生が鳴らした高い音色が、ものすごく遠くに聞こえた。
先輩たちにとっては最後の大会だった。勝てなくて悔しくていっぱい泣いたけれど、心のどこかで次は自分たちが頑張る番だとも思っていた。
三年生が抜ければ当然チーム編成が大きく変わる。
バスケは試合中の交代が盛んにおこなわれるというものの、試合開始時にコートに出る五人がスターティングメンバ―。そこに入るのは私の目標の一つでもあった。そしてそれが叶った瞬間、周りには悟られないように心の中でガッツポーズをした。
ユニフォームを着用できるメンバーで、私以外のPGは二人。千歌と一年生の莉々だった。
莉々はミニバス経験者で私達より身長は高いけれど、遠慮がちの性格がプレーにも出ていて、特に私達二年生と一緒にプレーすると少し縮こまってしまう。
千歌も日々上達はしているけれど、まだディフェンスは甘いし、攻撃が単調で長い時間のプレーになると攻められることが多くなる。
そんな二人とお互い指摘しあったりしながらも、私はスタメンであることを当然のように思ってしまっていた。
秋の新人戦でもまずまずの結果を残し、冬の大会を目指して練習に励んでいた十一月。
私の歯車が狂いだしたのはこの頃だった。
……違う。目に見えたのがこの頃ってだけ。
本当はもっと前に気づくタイミングはあったはずなんだ。
スタメンであることを当然だと思ってしまった時。千歌がスポンジのようにどんどん吸収しているのを見ていた時。
今となってはすべてがもう遅い。
きっかけは試合形式の練習をしているときだった。
千歌と別々のチームになって、五分間のミニゲーム。今まで何度も繰り返してきた練習。
千歌がボールを持った時、私は千歌の右寄りの進路を塞いだ。右利きの千歌が左手でドリブルするのを苦手だったのを知っていたから。
だけどそんな私の前で、千歌は一瞬のフェイントをかけた後、左から風が通り抜けるかのように目の前からいなくなっていた。
一瞬、なにが起きたのかわからなかった。
そんなの偶然。ちょっと気が緩んでいただけ。そう切り替えて今度は私がボールを持った。
マンツーマンディフェンス。私のマークには当然、千歌がつく。
今度は私の番! 左右でボールをついて揺さぶりをかける。千歌の意識が一瞬右に向いたのを見て、左から抜こうとボールを左手で突こうとした瞬間。
私の左手で突くはずだったボールは、千歌の右手で奪い取られていた。
――なん、で?
その後、何回繰り返しても同じだった。
私がディフェンスすれば抜かれる。オフェンスで攻めようとすると奪われる。
なんで、なんでなんで、なんで?
右から左から、羽が生えたかのように軽やかに千歌がすり抜けていく。走っても追いつけない。
それならメンバーにパスしようとしても、パスコースは完全にふさがれてしまう。
なんで? なんで?
どう動いても、なにをしても一つも上手くいかなかった。
息が……苦しい。足が、動かない。
――ピィィィッ
先生が鳴らした高い音色が、ものすごく遠くに聞こえた。
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