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1.思いがけない再会

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「じゃあまた明日ね、おじいちゃん」
「またな、気を付けて帰りなさい」
『カスミ』の営業時間は十八時までだから、後片付けを手伝って帰ると、お母さんが望む帰宅時間にピッタリ。
 心配性なお母さんは高校が遠いこともあり、最初バイトも反対していた。
 おじいちゃんのお店だからということと、帰り時間が遅くなり過ぎないという条件が満たされて、今のバイトが許されているんだ。

 夕方と夜の境界線の空。日に日に空の色が変わっていく。
 入学式の頃に比べれば明るい空の色にも、春の終わりを感じてしまう。
「夏……か」

 蓋をしたはずの光景が思い浮かぶ。
 キュッと鳴る床、弾むボールの音、熱気のこもる体育館……。
 大好きだったけど、逃げ出した場所。
 思い出さないようにしていたのに、直哉に会ったからかな。

 直哉とはただ同級生だったというだけじゃない。
 小学生時代、私たちは地元の同じミニバスチームに入っていた。
 男女の違いはあっても同じ時間、同じ場所で一緒に練習した仲間。
 特に直哉とは気が合ったから、練習がない日でも校庭の外コートで一緒に遊んだりしていた。
 あんな頃は毎日が楽しくて、とにかくボールを触っていたくて。純粋にボールを追いかけていた日々。
 そして一番、楽しかった時間だった。

『だってうちの学校……』
 直哉が疑問に思うのは当然だ。あの頃の私たちには、行きたい高校があった。
 藤咲学園。県内どころか全国上位のバスケ強豪校。
 六年生の頃、全国大会をテレビで見て藤咲学園のユニフォームに憧れた。
 あの藤色のユニフォームを着て、コートに立ちたい。プレーしたい。
 あの頃は何度もそう声に出して言っていた。
 まるで強く願えば叶うと言わんばかりに。
 そしてそれは、直哉だって一緒だったはず。
 直哉こそどうして……。

「夕映」
 電柱に隠れるようにして塀にもたれていたのは、たった今、考えていた人物だった。
「直哉、なんで?」
 バツが悪そうに頬をかきながら、直哉はそろりと電柱の陰から前に出てきた。
 暗くなってきたこともあり、お店で会った時より表情がわかりにくい。
「今日、気になってお店に入ったって言うのは嘘なんだ。本当は夕映と話がしたくてお店に行ったんだ。だけど上手く話せなかったから」
 やっぱりそうだったんだ。
 どう考えても杜野高校から偶然『カスミ』にたどり着くなんておかしいもん。
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