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8.リナとして
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莉菜は今、どんな気持ちでわたしたちの様子を見ているんだろう。
鳴海に知られたくないって思っているのかな?
今でも莉菜は鳴海のことをムカつくやつだって思っているのかな?
心が繋がっていないから、その辺のことはわからない。
だからもし、知られたくないと思っていたら、ごめんね、莉菜。
鳴海が気づいてくれたこと、わたしは嬉しいって思ったんだ。
今日で最後なんだし、許してね。
そう、最後なんだ。
「わたしは、今日まで。明日には莉菜が戻ってくるから、心配しないで」
笑って言おうって思っていたのに、なんだかピクピクとひきつっている気がする。
悲しいことなんかじゃない。
それが本来の形なんだから。
笑え、わたし。これ以上、泣いちゃダメ。
「どういう、ことだ?」
笑顔をキープしようと思っているのに、鳴海が驚いたように聞いてくる。
なんで? そんなこと、聞いてこないでよ。
なんてことないように、終わりたかったのに。
鳴海だって莉菜が戻ってきた方がいいでしょ?
「それが、本来の形だからだよ。わたしが出てきちゃったら、いけないんだ」
だってわたしは鏡の住人だもん。
本来外に出てくるわけがないんだもん。
「だけど、お前も楠木なんだろう? 分身だって、言ってたじゃないか」
「でもここにいるのは莉菜じゃなきゃっ」
「その楠木が理由はわかんねーけど、入れ替わってから頑張っていたのは、お前だろう? 苦手な勉強に、逃げないで必死にしがみついていたのは、リナだろう?」
――リナ。
はじめて、人からそう呼ばれた。
入れ替わりなんて誰も知らなかったし、呼ばれる機会なんてなかったから当然なんだけど。
当人同士じゃなくて、まったくの他人から呼ばれる名前が、こんなに嬉しいものだったなんて。
こんなにも、胸が苦しくなるものだったなんて。
生まれてはじめて、知った。
「わたし、頑張ってたかなぁ?」
「少なくとも勉強であの頑張りは楠木には真似できねーよ。部活ならあいつも頑張るんだけどな」
やっぱり、莉菜のこと、よくみている。
呆れながらもこうして見守ってくれていたのかな。
「莉菜、意地っ張りで素直じゃないけど、きっとこれからは勉強も頑張るよ」
「お前は、リナは、それでいいのか? ここまで頑張ってきたのに……」
「うん。本当はね、淋しい気持ち、もっといたい気持ち、いっぱいある。だけどね、わたしはただ元に戻るんじゃない。莉菜はわたしと入れ替わったことで、大切なことにきっと気がついたから」
わたしと繋がらなかった間、その間の不安は相当なものだったと思う。
だからきっと莉菜はもう、嫌なことから逃げ出したりしない。
それだけでもわたしが外に出てきたことは、きっと意味があったんだ。
「それに、わたしという存在に鳴海が気づいてくれた。そのことがすごく嬉しいんだ。だからいいの。ありがとう」
さっきまでは泣きそうな気持だったのに、こうして言葉にしながら思いを伝えたら、なんだかスッキリしてきた。
「……だから、その素直さが絶対に楠木にはない部分だっつーの」
「ふふっ。それが莉菜だから」
思わず鳴海と顔を見合わせて笑いあった時、突然、眩い光に包まれた。
「これ……入れ替わりの時の!?」
なんで? ここに鏡はないのに。
だけど不思議な感覚を身体に感じていて、思わず自分の身体を抱きしめるように力を込めた。
そして、突然の出来事に驚いた鳴海の表情が、莉菜との入れ替わりでわたしが見た、最後の姿だった。
鳴海に知られたくないって思っているのかな?
今でも莉菜は鳴海のことをムカつくやつだって思っているのかな?
心が繋がっていないから、その辺のことはわからない。
だからもし、知られたくないと思っていたら、ごめんね、莉菜。
鳴海が気づいてくれたこと、わたしは嬉しいって思ったんだ。
今日で最後なんだし、許してね。
そう、最後なんだ。
「わたしは、今日まで。明日には莉菜が戻ってくるから、心配しないで」
笑って言おうって思っていたのに、なんだかピクピクとひきつっている気がする。
悲しいことなんかじゃない。
それが本来の形なんだから。
笑え、わたし。これ以上、泣いちゃダメ。
「どういう、ことだ?」
笑顔をキープしようと思っているのに、鳴海が驚いたように聞いてくる。
なんで? そんなこと、聞いてこないでよ。
なんてことないように、終わりたかったのに。
鳴海だって莉菜が戻ってきた方がいいでしょ?
「それが、本来の形だからだよ。わたしが出てきちゃったら、いけないんだ」
だってわたしは鏡の住人だもん。
本来外に出てくるわけがないんだもん。
「だけど、お前も楠木なんだろう? 分身だって、言ってたじゃないか」
「でもここにいるのは莉菜じゃなきゃっ」
「その楠木が理由はわかんねーけど、入れ替わってから頑張っていたのは、お前だろう? 苦手な勉強に、逃げないで必死にしがみついていたのは、リナだろう?」
――リナ。
はじめて、人からそう呼ばれた。
入れ替わりなんて誰も知らなかったし、呼ばれる機会なんてなかったから当然なんだけど。
当人同士じゃなくて、まったくの他人から呼ばれる名前が、こんなに嬉しいものだったなんて。
こんなにも、胸が苦しくなるものだったなんて。
生まれてはじめて、知った。
「わたし、頑張ってたかなぁ?」
「少なくとも勉強であの頑張りは楠木には真似できねーよ。部活ならあいつも頑張るんだけどな」
やっぱり、莉菜のこと、よくみている。
呆れながらもこうして見守ってくれていたのかな。
「莉菜、意地っ張りで素直じゃないけど、きっとこれからは勉強も頑張るよ」
「お前は、リナは、それでいいのか? ここまで頑張ってきたのに……」
「うん。本当はね、淋しい気持ち、もっといたい気持ち、いっぱいある。だけどね、わたしはただ元に戻るんじゃない。莉菜はわたしと入れ替わったことで、大切なことにきっと気がついたから」
わたしと繋がらなかった間、その間の不安は相当なものだったと思う。
だからきっと莉菜はもう、嫌なことから逃げ出したりしない。
それだけでもわたしが外に出てきたことは、きっと意味があったんだ。
「それに、わたしという存在に鳴海が気づいてくれた。そのことがすごく嬉しいんだ。だからいいの。ありがとう」
さっきまでは泣きそうな気持だったのに、こうして言葉にしながら思いを伝えたら、なんだかスッキリしてきた。
「……だから、その素直さが絶対に楠木にはない部分だっつーの」
「ふふっ。それが莉菜だから」
思わず鳴海と顔を見合わせて笑いあった時、突然、眩い光に包まれた。
「これ……入れ替わりの時の!?」
なんで? ここに鏡はないのに。
だけど不思議な感覚を身体に感じていて、思わず自分の身体を抱きしめるように力を込めた。
そして、突然の出来事に驚いた鳴海の表情が、莉菜との入れ替わりでわたしが見た、最後の姿だった。
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