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8.リナとして
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沈黙がつづいて、その間、わたしは怖くて目を開けていられなかった。
どれくらいそうしていたんだろう。
鳴海の声が聞こえなくて、とうとうわたしはチラッと目を開けて、鳴海の様子を見た。
すると、わたしが目を開けるのを待っていたかのように、鳴海はフッと笑った。
「【鏡の部屋】って? 莉菜だけど違うっていうのは、どういうことか、もうちょっと説明してくれるか?」
「……信じて、くれるの?」
「まあ、違和感の正体っぽいからな」
突拍子もない話だろうに、ちゃんと聞いてくれる姿勢にホッとする。
わたしが鳴海をイイやつだって思うのは、こういう面なのかもしれない。
「わたしってどうして存在しているか、自分でもわからないの。気がついたら莉菜の私室とまったく同じの【鏡の部屋】にいた。違うのは、あくまで鏡の中であるってこと。莉菜の一部だとは思うけれども、莉菜とは心が繋がっているわけじゃない。だから鏡として見て知っていることはあるけれど、莉菜の心を理解しているわけじゃないってこと、かな」
改めて説明しようとすると難しいなぁ。
莉菜は感覚的にわかってくれたみたいだけど。
鳴海は再び考えるように、口元に手を持っていって静かになっていたけど、やがて小さく息をはいた。
「つまり、目の前にいるお前は、楠木の姿をしているけれど、別人ってことだよな?」
「うん……でも完全に別人というよりは、分身とか? わかっていると思うけど、学力とか体力とか、能力的なものは莉菜そのものだよ」
「それで鏡の中にいたけれど、今は外に出てきている、と。それなら、楠木はどうしているんだ?」
「莉菜は、今は【鏡の部屋】にいるの。わたしたち、入れ替わっちゃったの」
「なんで?」
「それは……」
多分、一番は莉菜がテストが嫌だったからなんだろうけど。
でもそれを鳴海に言っていいのかな?
それに、それだけじゃない。きっとわたしが無意識のうちに外に興味を持っていたんだ。
莉菜が逃げたい気持ちと、わたしが外に出たい気持ち。両方が重なって入れ替わっちゃったんだと思う。
片方の思いだけじゃきっと変われないんだ。
莉菜が繋がらなくて不安だったって言ったあの時、あれはわたしが完全に気持ちが【鏡の部屋】になかったからだ。
そのことに、この前気づけたんだ。
そうだとすると、入れ替わりの原因はわたしにもある。
わたしが、外に興味を持ったことも理由の一つなんだ。
「楠木は、入れ替わって、大丈夫なのか?」
入れ替わりの理由を言い渋ったわたしに気遣ったのか、鳴海が質問を変えてきた。
「う、うん! 入れ替わっていても鏡を通して会話ができていたから……元気、だよ」
その言葉を聞いて、鳴海がちょっと安心したような顔をする。
心配、したんだ。
そうだよね。だって莉菜は本来こっちにいるべき人なんだから。
どれくらいそうしていたんだろう。
鳴海の声が聞こえなくて、とうとうわたしはチラッと目を開けて、鳴海の様子を見た。
すると、わたしが目を開けるのを待っていたかのように、鳴海はフッと笑った。
「【鏡の部屋】って? 莉菜だけど違うっていうのは、どういうことか、もうちょっと説明してくれるか?」
「……信じて、くれるの?」
「まあ、違和感の正体っぽいからな」
突拍子もない話だろうに、ちゃんと聞いてくれる姿勢にホッとする。
わたしが鳴海をイイやつだって思うのは、こういう面なのかもしれない。
「わたしってどうして存在しているか、自分でもわからないの。気がついたら莉菜の私室とまったく同じの【鏡の部屋】にいた。違うのは、あくまで鏡の中であるってこと。莉菜の一部だとは思うけれども、莉菜とは心が繋がっているわけじゃない。だから鏡として見て知っていることはあるけれど、莉菜の心を理解しているわけじゃないってこと、かな」
改めて説明しようとすると難しいなぁ。
莉菜は感覚的にわかってくれたみたいだけど。
鳴海は再び考えるように、口元に手を持っていって静かになっていたけど、やがて小さく息をはいた。
「つまり、目の前にいるお前は、楠木の姿をしているけれど、別人ってことだよな?」
「うん……でも完全に別人というよりは、分身とか? わかっていると思うけど、学力とか体力とか、能力的なものは莉菜そのものだよ」
「それで鏡の中にいたけれど、今は外に出てきている、と。それなら、楠木はどうしているんだ?」
「莉菜は、今は【鏡の部屋】にいるの。わたしたち、入れ替わっちゃったの」
「なんで?」
「それは……」
多分、一番は莉菜がテストが嫌だったからなんだろうけど。
でもそれを鳴海に言っていいのかな?
それに、それだけじゃない。きっとわたしが無意識のうちに外に興味を持っていたんだ。
莉菜が逃げたい気持ちと、わたしが外に出たい気持ち。両方が重なって入れ替わっちゃったんだと思う。
片方の思いだけじゃきっと変われないんだ。
莉菜が繋がらなくて不安だったって言ったあの時、あれはわたしが完全に気持ちが【鏡の部屋】になかったからだ。
そのことに、この前気づけたんだ。
そうだとすると、入れ替わりの原因はわたしにもある。
わたしが、外に興味を持ったことも理由の一つなんだ。
「楠木は、入れ替わって、大丈夫なのか?」
入れ替わりの理由を言い渋ったわたしに気遣ったのか、鳴海が質問を変えてきた。
「う、うん! 入れ替わっていても鏡を通して会話ができていたから……元気、だよ」
その言葉を聞いて、鳴海がちょっと安心したような顔をする。
心配、したんだ。
そうだよね。だって莉菜は本来こっちにいるべき人なんだから。
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