ミラー★みらくる!

桜花音

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7.最後の一日

7-4

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 保健室は校舎の角にあるんだけど、向かいのドアがプレハブに繋がっている。
 そこには相談室と会議室があった。
 相談室というのは、週に一度カウンセラーさんが来た時に使う部屋らしいんだけど、莉菜もそんな部屋があるらしいくらいのことしか知らない。
 はじめて入ったその部屋は、教室とは違って部屋の角に先生の机らしいものはあるけれど、ゆったりとしたソファが二台、向かい合わせで並んでいる。
 その間にはテーブルがあって、そこだけみるなら普通にリビングと変わらないかもしれない。

「今日はカウンセリングの日じゃないから、落ち着くまでゆっくりしていってね」
 養護の先生は鍵だけ開けてくれて、そのまま帰っていった。
 静まり返った部屋の中、鳴海と二人きりでどうしたらいいのかわからない。
 突然の展開に、涙はすっかり止まってしまった。

「とりあえず、座れば?」
「う、うん」
 二人掛けのソファの端っこにそっと座ると、思ったより柔らかくて、そのまま後ろへと身体が沈んだ。

「うわわっ」
「不器用過ぎんだろ。ソファに座れないとか」
 クッと笑う鳴海を、思わず睨んでしまう。
「こんなに沈むと思わなかったんだもんっ」
「そうかよ。これ、養護の先生からの差し入れ」
 テーブルにペットボトルのお茶を二本、トンと置いた。

「叔母さん、だったんだね」
「まぁ、芹香以外しらないかもな。別に隠しているわけじゃないけど。あの人、苗字、鳴海だし」
「そうなんだ」
 保健室ってよっぽどじゃないといかないし、莉菜は健康そのものだったから、本当に縁がないんだよね。

「じゃあ、一本、もらうね」
 きっと冷蔵庫で冷やしてあっただろうペットボトルは、汗をかいて濡れていたけど、まだ冷たかった。
 走ったり泣いたりして渇いた喉に注ぐと、呼吸しやすくなった。
 向かいのソファに鳴海も腰かけて、同じようにお茶を飲む。
 さっきまで鳴海から逃げていたのに、こうして向きあっているなんて変なの。

「落ち着いたか?」
「……うん」
 それっきり、鳴海も黙り込んでしまった。
 外では遠くに賑やかな声がしているだろう気配はする。
 この部屋は下駄箱から遠いし、人気がしないから、まるで時間が止まっているみたい。

「授業、はじまっちゃうね」
「大丈夫だろう。適当にごまかしておいてくれるよ」
「……慣れてる?」
「こんなこと、やったことねーよ」
「本当かなぁ」
 思わずクスッと笑うと、鳴海は真剣な顔をして、またもや黙り込んでしまった。

 わたしとしても、なにを話していいのかわからなくて、ただただお茶をチビチビと飲む。
 潤っているはずなのに、なんだか落ち着かなくて、意味もなくペットボトルの側面をキュッと撫で続ける。

「俺、変なこと、言ってもいいか」
「え……?」
 変って、どういうこと?

 思わず顔を上げたら、こちらをじっと見ている鳴海と目が合った。
 いつもと違う様子に、思わず目がそらせない。

「最近のお前、なんか違う。どこがってハッキリ言えないけど、楠木のはずなのに、違和感が拭えない」
「――‼」

 思いもしなかった言葉に、わたしは思わず息をのんだ。
 そんなわたしを、鳴海は逃さないと言わんばかりに、強い瞳でこちらを見ていた。
 
 
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