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7.最後の一日
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保健室は校舎の角にあるんだけど、向かいのドアがプレハブに繋がっている。
そこには相談室と会議室があった。
相談室というのは、週に一度カウンセラーさんが来た時に使う部屋らしいんだけど、莉菜もそんな部屋があるらしいくらいのことしか知らない。
はじめて入ったその部屋は、教室とは違って部屋の角に先生の机らしいものはあるけれど、ゆったりとしたソファが二台、向かい合わせで並んでいる。
その間にはテーブルがあって、そこだけみるなら普通にリビングと変わらないかもしれない。
「今日はカウンセリングの日じゃないから、落ち着くまでゆっくりしていってね」
養護の先生は鍵だけ開けてくれて、そのまま帰っていった。
静まり返った部屋の中、鳴海と二人きりでどうしたらいいのかわからない。
突然の展開に、涙はすっかり止まってしまった。
「とりあえず、座れば?」
「う、うん」
二人掛けのソファの端っこにそっと座ると、思ったより柔らかくて、そのまま後ろへと身体が沈んだ。
「うわわっ」
「不器用過ぎんだろ。ソファに座れないとか」
クッと笑う鳴海を、思わず睨んでしまう。
「こんなに沈むと思わなかったんだもんっ」
「そうかよ。これ、養護の先生からの差し入れ」
テーブルにペットボトルのお茶を二本、トンと置いた。
「叔母さん、だったんだね」
「まぁ、芹香以外しらないかもな。別に隠しているわけじゃないけど。あの人、苗字、鳴海だし」
「そうなんだ」
保健室ってよっぽどじゃないといかないし、莉菜は健康そのものだったから、本当に縁がないんだよね。
「じゃあ、一本、もらうね」
きっと冷蔵庫で冷やしてあっただろうペットボトルは、汗をかいて濡れていたけど、まだ冷たかった。
走ったり泣いたりして渇いた喉に注ぐと、呼吸しやすくなった。
向かいのソファに鳴海も腰かけて、同じようにお茶を飲む。
さっきまで鳴海から逃げていたのに、こうして向きあっているなんて変なの。
「落ち着いたか?」
「……うん」
それっきり、鳴海も黙り込んでしまった。
外では遠くに賑やかな声がしているだろう気配はする。
この部屋は下駄箱から遠いし、人気がしないから、まるで時間が止まっているみたい。
「授業、はじまっちゃうね」
「大丈夫だろう。適当にごまかしておいてくれるよ」
「……慣れてる?」
「こんなこと、やったことねーよ」
「本当かなぁ」
思わずクスッと笑うと、鳴海は真剣な顔をして、またもや黙り込んでしまった。
わたしとしても、なにを話していいのかわからなくて、ただただお茶をチビチビと飲む。
潤っているはずなのに、なんだか落ち着かなくて、意味もなくペットボトルの側面をキュッと撫で続ける。
「俺、変なこと、言ってもいいか」
「え……?」
変って、どういうこと?
思わず顔を上げたら、こちらをじっと見ている鳴海と目が合った。
いつもと違う様子に、思わず目がそらせない。
「最近のお前、なんか違う。どこがってハッキリ言えないけど、楠木のはずなのに、違和感が拭えない」
「――‼」
思いもしなかった言葉に、わたしは思わず息をのんだ。
そんなわたしを、鳴海は逃さないと言わんばかりに、強い瞳でこちらを見ていた。
そこには相談室と会議室があった。
相談室というのは、週に一度カウンセラーさんが来た時に使う部屋らしいんだけど、莉菜もそんな部屋があるらしいくらいのことしか知らない。
はじめて入ったその部屋は、教室とは違って部屋の角に先生の机らしいものはあるけれど、ゆったりとしたソファが二台、向かい合わせで並んでいる。
その間にはテーブルがあって、そこだけみるなら普通にリビングと変わらないかもしれない。
「今日はカウンセリングの日じゃないから、落ち着くまでゆっくりしていってね」
養護の先生は鍵だけ開けてくれて、そのまま帰っていった。
静まり返った部屋の中、鳴海と二人きりでどうしたらいいのかわからない。
突然の展開に、涙はすっかり止まってしまった。
「とりあえず、座れば?」
「う、うん」
二人掛けのソファの端っこにそっと座ると、思ったより柔らかくて、そのまま後ろへと身体が沈んだ。
「うわわっ」
「不器用過ぎんだろ。ソファに座れないとか」
クッと笑う鳴海を、思わず睨んでしまう。
「こんなに沈むと思わなかったんだもんっ」
「そうかよ。これ、養護の先生からの差し入れ」
テーブルにペットボトルのお茶を二本、トンと置いた。
「叔母さん、だったんだね」
「まぁ、芹香以外しらないかもな。別に隠しているわけじゃないけど。あの人、苗字、鳴海だし」
「そうなんだ」
保健室ってよっぽどじゃないといかないし、莉菜は健康そのものだったから、本当に縁がないんだよね。
「じゃあ、一本、もらうね」
きっと冷蔵庫で冷やしてあっただろうペットボトルは、汗をかいて濡れていたけど、まだ冷たかった。
走ったり泣いたりして渇いた喉に注ぐと、呼吸しやすくなった。
向かいのソファに鳴海も腰かけて、同じようにお茶を飲む。
さっきまで鳴海から逃げていたのに、こうして向きあっているなんて変なの。
「落ち着いたか?」
「……うん」
それっきり、鳴海も黙り込んでしまった。
外では遠くに賑やかな声がしているだろう気配はする。
この部屋は下駄箱から遠いし、人気がしないから、まるで時間が止まっているみたい。
「授業、はじまっちゃうね」
「大丈夫だろう。適当にごまかしておいてくれるよ」
「……慣れてる?」
「こんなこと、やったことねーよ」
「本当かなぁ」
思わずクスッと笑うと、鳴海は真剣な顔をして、またもや黙り込んでしまった。
わたしとしても、なにを話していいのかわからなくて、ただただお茶をチビチビと飲む。
潤っているはずなのに、なんだか落ち着かなくて、意味もなくペットボトルの側面をキュッと撫で続ける。
「俺、変なこと、言ってもいいか」
「え……?」
変って、どういうこと?
思わず顔を上げたら、こちらをじっと見ている鳴海と目が合った。
いつもと違う様子に、思わず目がそらせない。
「最近のお前、なんか違う。どこがってハッキリ言えないけど、楠木のはずなのに、違和感が拭えない」
「――‼」
思いもしなかった言葉に、わたしは思わず息をのんだ。
そんなわたしを、鳴海は逃さないと言わんばかりに、強い瞳でこちらを見ていた。
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