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6.莉菜の危機感
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まさか、繋がらなくなっていたとは思いもしなかった。
莉菜が不安で泣いてしまうのは当然だよね。
『あたしね、最初は楽しかったの。信じられない体験ができたこと。そしてテストから解放されたこと』
「そうだね」
入れ替わったとこに目をキラキラさせていたことを、思い出した。
確かに、あの時の莉菜は楽しそうだった。
『なにも考えてなかったの。その気になればいつでも戻れるんだから。そう思ってたの。それなのに……』
そういえば、わたしが【鏡の部屋】にいたころは、繋がらないのが当たり前だった。
呼びかけようと思いもしなかったんだけど、あの時、もし呼びかけていたら繋がったのかな?
……ううん。繋がらない気がする。
だって、莉菜はいつも現実世界を楽しんでいて、こちら側なんて意識していなかったんだもん。
待って。さっき莉菜は『その気になれば』って言ってた。
「莉菜。もしかして最初の入れ替わりの後、戻ろうって試した時にはあなた、戻る気が、なかったの?」
怯えるように身体を小さくふるわせた後、こくん、と頷いた。
つまり、莉菜自身に戻るつもりがなかったら、元に戻ることはできなかったんだ。
じゃあ、今なら、戻るって、こと?
「もど、りたい、よね」
怖かったって言ってるんだから、そう思うのが当然のこと。
なのに、どこかで今度はわたしが思ってしまっている。
――まだ、ここにいたい、って。
『勝手だってわかってる! リナに勉強だけ押しつけておいてなに言ってるんだって。だけど、だけどあたし、戻れなくなるのはイヤ! ずっとここにいるのはイヤ。お母さんのご飯食べたい、芹香ちゃんに会いたいっ。学校、行きたいっっ』
心の底から絞り出すように訴える莉菜の言葉は、痛いくらいにわかる。
だってそれらは全部、わたしが今、楽しいって思っているものだから。
『もう逃げたりしないっ。これからは勉強も頑張る! リナが頑張ってきてくれたみたいに、あたしもちゃんと頑張るっ。だからっっ』
「――うん。わかってるよ」
だってわたしは、本当の楠木莉菜じゃないから。
【鏡の部屋】の住人であることが、わたしの本来の居場所。
『ごめんっ。リナ。あたし、勝手で本当にごめんっっ』
「謝らないで。だって、そもそも入れ替わるなんて、体験できるはずじゃなかったんだよ。たった四日間だったけど、わたしにはすごく、すごく思い出になった」
こんな不思議、神様のイタズラだったのかもしれない。運命だったのかもしれない。
でも起こるはずのなかったこの奇跡を、大切にしたいって思う。
「でも、ひとつだけ。わがまま言ってもいいかな?」
きっと最初で最後。これっきりだから。
『うん。なに?』
「……あと一日。あと一日だけ、このままで過ごさせてくれないかな。明日が終わったら、絶対に元に戻るから」
もう一度、この現実の鮮やかな色彩を目に焼き付けておきたい。
生身で触れる温もりを、感じたい。
『……もちろん』
涙を浮かべた瞳で笑顔を見せてくれた莉菜。
本当なら今すぐにでも戻りたいと思っているだろうに。
「ありがとう」
最後にもう一日だけ、莉菜として過ごさせてね。
莉菜が不安で泣いてしまうのは当然だよね。
『あたしね、最初は楽しかったの。信じられない体験ができたこと。そしてテストから解放されたこと』
「そうだね」
入れ替わったとこに目をキラキラさせていたことを、思い出した。
確かに、あの時の莉菜は楽しそうだった。
『なにも考えてなかったの。その気になればいつでも戻れるんだから。そう思ってたの。それなのに……』
そういえば、わたしが【鏡の部屋】にいたころは、繋がらないのが当たり前だった。
呼びかけようと思いもしなかったんだけど、あの時、もし呼びかけていたら繋がったのかな?
……ううん。繋がらない気がする。
だって、莉菜はいつも現実世界を楽しんでいて、こちら側なんて意識していなかったんだもん。
待って。さっき莉菜は『その気になれば』って言ってた。
「莉菜。もしかして最初の入れ替わりの後、戻ろうって試した時にはあなた、戻る気が、なかったの?」
怯えるように身体を小さくふるわせた後、こくん、と頷いた。
つまり、莉菜自身に戻るつもりがなかったら、元に戻ることはできなかったんだ。
じゃあ、今なら、戻るって、こと?
「もど、りたい、よね」
怖かったって言ってるんだから、そう思うのが当然のこと。
なのに、どこかで今度はわたしが思ってしまっている。
――まだ、ここにいたい、って。
『勝手だってわかってる! リナに勉強だけ押しつけておいてなに言ってるんだって。だけど、だけどあたし、戻れなくなるのはイヤ! ずっとここにいるのはイヤ。お母さんのご飯食べたい、芹香ちゃんに会いたいっ。学校、行きたいっっ』
心の底から絞り出すように訴える莉菜の言葉は、痛いくらいにわかる。
だってそれらは全部、わたしが今、楽しいって思っているものだから。
『もう逃げたりしないっ。これからは勉強も頑張る! リナが頑張ってきてくれたみたいに、あたしもちゃんと頑張るっ。だからっっ』
「――うん。わかってるよ」
だってわたしは、本当の楠木莉菜じゃないから。
【鏡の部屋】の住人であることが、わたしの本来の居場所。
『ごめんっ。リナ。あたし、勝手で本当にごめんっっ』
「謝らないで。だって、そもそも入れ替わるなんて、体験できるはずじゃなかったんだよ。たった四日間だったけど、わたしにはすごく、すごく思い出になった」
こんな不思議、神様のイタズラだったのかもしれない。運命だったのかもしれない。
でも起こるはずのなかったこの奇跡を、大切にしたいって思う。
「でも、ひとつだけ。わがまま言ってもいいかな?」
きっと最初で最後。これっきりだから。
『うん。なに?』
「……あと一日。あと一日だけ、このままで過ごさせてくれないかな。明日が終わったら、絶対に元に戻るから」
もう一度、この現実の鮮やかな色彩を目に焼き付けておきたい。
生身で触れる温もりを、感じたい。
『……もちろん』
涙を浮かべた瞳で笑顔を見せてくれた莉菜。
本当なら今すぐにでも戻りたいと思っているだろうに。
「ありがとう」
最後にもう一日だけ、莉菜として過ごさせてね。
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