ミラー★みらくる!

桜花音

文字の大きさ
上 下
31 / 43
6.莉菜の危機感

6-2

しおりを挟む
 まさか、繋がらなくなっていたとは思いもしなかった。
 莉菜が不安で泣いてしまうのは当然だよね。

『あたしね、最初は楽しかったの。信じられない体験ができたこと。そしてテストから解放されたこと』
「そうだね」
 入れ替わったとこに目をキラキラさせていたことを、思い出した。
 確かに、あの時の莉菜は楽しそうだった。

『なにも考えてなかったの。その気になればいつでも戻れるんだから。そう思ってたの。それなのに……』
 そういえば、わたしが【鏡の部屋】にいたころは、繋がらないのが当たり前だった。
 呼びかけようと思いもしなかったんだけど、あの時、もし呼びかけていたら繋がったのかな?

 ……ううん。繋がらない気がする。
 だって、莉菜はいつも現実世界を楽しんでいて、こちら側なんて意識していなかったんだもん。
 待って。さっき莉菜は『その気になれば』って言ってた。

「莉菜。もしかして最初の入れ替わりの後、戻ろうって試した時にはあなた、戻る気が、なかったの?」
 怯えるように身体を小さくふるわせた後、こくん、と頷いた。
 つまり、莉菜自身に戻るつもりがなかったら、元に戻ることはできなかったんだ。
 じゃあ、今なら、戻るって、こと?

「もど、りたい、よね」
 怖かったって言ってるんだから、そう思うのが当然のこと。

 なのに、どこかで今度はわたしが思ってしまっている。
 ――まだ、ここにいたい、って。

『勝手だってわかってる! リナに勉強だけ押しつけておいてなに言ってるんだって。だけど、だけどあたし、戻れなくなるのはイヤ! ずっとここにいるのはイヤ。お母さんのご飯食べたい、芹香ちゃんに会いたいっ。学校、行きたいっっ』

 心の底から絞り出すように訴える莉菜の言葉は、痛いくらいにわかる。
 だってそれらは全部、わたしが今、楽しいって思っているものだから。

『もう逃げたりしないっ。これからは勉強も頑張る! リナが頑張ってきてくれたみたいに、あたしもちゃんと頑張るっ。だからっっ』
「――うん。わかってるよ」

 だってわたしは、本当の楠木莉菜じゃないから。
 【鏡の部屋】の住人であることが、わたしの本来の居場所。

『ごめんっ。リナ。あたし、勝手で本当にごめんっっ』
「謝らないで。だって、そもそも入れ替わるなんて、体験できるはずじゃなかったんだよ。たった四日間だったけど、わたしにはすごく、すごく思い出になった」
 こんな不思議、神様のイタズラだったのかもしれない。運命だったのかもしれない。
 でも起こるはずのなかったこの奇跡を、大切にしたいって思う。

「でも、ひとつだけ。わがまま言ってもいいかな?」
 きっと最初で最後。これっきりだから。

『うん。なに?』
「……あと一日。あと一日だけ、このままで過ごさせてくれないかな。明日が終わったら、絶対に元に戻るから」
 もう一度、この現実の鮮やかな色彩を目に焼き付けておきたい。
 生身で触れる温もりを、感じたい。

『……もちろん』
 涙を浮かべた瞳で笑顔を見せてくれた莉菜。
 本当なら今すぐにでも戻りたいと思っているだろうに。

「ありがとう」
 最後にもう一日だけ、莉菜として過ごさせてね。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

てのひらは君のため

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

ゆうれいのぼく

早乙女純章
児童書・童話
ぼくはゆうれいになっていた。 ゆうれいになる前が何だったのか分からない。 ぼくが帰れる場所を探してみよう。きっと自分が何だったのかを思い出して、なりたい自分になれそうな気がする。 ぼくはいろいろなものに憑依していって、みんなを喜ばせていく。 でも、結局、ゆうれいの自分に戻ってしまう。 ついには、空で同じゆうれいたちを見つけるけれど、そこもぼくの本当の居場所ではなかった。 ゆうれいはどんどん増えていっていく。なんと『あくのぐんだん』が人間をゆうれいにしていたのだ。 ※この作品は、レトロアーケードゲーム『ファンタズム』から影響を受けて創作しました。いわゆる参考文献みたいな感じです。

処理中です...