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4.気にしている時間ないのに、恋、気になる
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『お兄ちゃん』から『意識する人』かぁ。
恋心ってそうやって芽生えていくのかな。
「素敵だね」
「……まぁね」
まだ恥ずかしそうだけど、照れながらも芹香ちゃんは顔を上げて笑った。
「なにが素敵なもんか。巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ」
面倒くさそうに鳴海が髪の毛をかきながら、芹香ちゃんにジトッとした視線を投げた。
「急にうちに押しかけてくるようになったと思ったら、アニキが今好きなものはなんだとか、カノジョはいそうなのかとか、質問攻めにしてきた挙句、クリスマスやバレンタインには呼び出してくれとか、自分でやれっつーの」
「いいでしょーっ! 恋するオトメになったら竣人さんに気軽に話しかけられなくなっちゃったんだもん」
かっわいい! いつもズバッと言う芹香ちゃんに、そんな一面があるなんて。
「くっついてくれた時には、ホッとしたよ。やっと解放される! って」
「悪かったわね。竣人さんとしても、私が小学校卒業と、自身の受験が終わるまでは、線引いておきたかったんだって」
「あっそ」
投げやりな鳴海の返事にも、芹香ちゃんが嬉しそうに笑う。
あぁ、恋するとこんな表情するんだなぁ。
「芹香ちゃん、幸せそう」
「まぁね。竣人さん、年上ってのもあるのかもしれないけど、大人だし、優しいし」
「みたいだね。鳴海と兄弟なんて信じられな……っ」
思わず口が滑って慌てて塞いだけどもう遅い。
鳴海が明らかに不機嫌そうな顔してこっちを見ている。
でも芹香ちゃんが立ち上がって、大きく頷きながらわたしのそばにやってきた。
「だよねぇ。遥人も本当はいいやつなんだけど、どうにも素直じゃなくてね」
「俺はいつでも素直だよ」
「よく言うわ。いっつも莉菜にあんな憎まれ口叩いちゃってさ」
「余計なお世話だ」
確かに鳴海は莉菜によくつっかかってきていた。
莉菜もそれに対してムカついていたし、見ていたわたしも気持ちよくはなかった。
だけど、ペアを組むようになってから感じるのは、なんだかんだと面倒見のいいやつなんだろうなってこと。
まぁ、莉菜が赤点取れば自分も大会出られないんだから、必死になるのは当たり前かもしれないけどね。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ芹香ちゃんが鳴海のことをいいやつって言ってたの、わかるよ」
今だって、本当は鳴海がついてこなくったってよかったんだ。
でも多分、自分がうっかり口を滑らしたことを気にしているんじゃないかな。
そう思ったから口にしたんだけど、何故か芹香ちゃんも鳴海も、口をぽかんと開けて固まってしまった。
「え? どうしたの?」
「あ、ごめん。まさか莉菜がそんなこと言うなんて思わなかったから……」
芹香ちゃんの言葉で金縛りがとけたみたいに、鳴海も頭を大きく横にふる。
「……とりあえず、今日の宿題は英単語と漢字な。明日の朝、テストするから」
それだけ言って、鳴海はそそくさと音楽室を出ていってしまった。
「なに、あれ」
今度はわたしが呆気にとられる番だ。なんでいきなり帰っていったんだろう?
鳴海が出ていった背中を見送った芹香ちゃんが、吹き出すように笑った。
「どうしたの? 芹香ちゃん」
「ううん。遥人って面白いでしょ?」
よくわかんないけど、笑いながら涙を浮かべている芹香ちゃんが、指で拭いながら聞いてきた言葉に、戸惑いながら頷いた。
「さて、私たちも帰ろっか」
「うん、そうだね」
芹香ちゃんは今まで話せなった分を埋めるかのように、帰り道で別れるまで、ずっと竣人さんの話をしていた。
そんな芹香ちゃんはかわいくて、そして少し大人に見えた。
親友の新たな一面を知った日。
この日、わたしは芹香ちゃんのことで頭がいっぱいになっていて、家に帰ってから眠りにつくまで【鏡の部屋】にいる莉菜のことをすっかり忘れてしまっていた。
恋心ってそうやって芽生えていくのかな。
「素敵だね」
「……まぁね」
まだ恥ずかしそうだけど、照れながらも芹香ちゃんは顔を上げて笑った。
「なにが素敵なもんか。巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ」
面倒くさそうに鳴海が髪の毛をかきながら、芹香ちゃんにジトッとした視線を投げた。
「急にうちに押しかけてくるようになったと思ったら、アニキが今好きなものはなんだとか、カノジョはいそうなのかとか、質問攻めにしてきた挙句、クリスマスやバレンタインには呼び出してくれとか、自分でやれっつーの」
「いいでしょーっ! 恋するオトメになったら竣人さんに気軽に話しかけられなくなっちゃったんだもん」
かっわいい! いつもズバッと言う芹香ちゃんに、そんな一面があるなんて。
「くっついてくれた時には、ホッとしたよ。やっと解放される! って」
「悪かったわね。竣人さんとしても、私が小学校卒業と、自身の受験が終わるまでは、線引いておきたかったんだって」
「あっそ」
投げやりな鳴海の返事にも、芹香ちゃんが嬉しそうに笑う。
あぁ、恋するとこんな表情するんだなぁ。
「芹香ちゃん、幸せそう」
「まぁね。竣人さん、年上ってのもあるのかもしれないけど、大人だし、優しいし」
「みたいだね。鳴海と兄弟なんて信じられな……っ」
思わず口が滑って慌てて塞いだけどもう遅い。
鳴海が明らかに不機嫌そうな顔してこっちを見ている。
でも芹香ちゃんが立ち上がって、大きく頷きながらわたしのそばにやってきた。
「だよねぇ。遥人も本当はいいやつなんだけど、どうにも素直じゃなくてね」
「俺はいつでも素直だよ」
「よく言うわ。いっつも莉菜にあんな憎まれ口叩いちゃってさ」
「余計なお世話だ」
確かに鳴海は莉菜によくつっかかってきていた。
莉菜もそれに対してムカついていたし、見ていたわたしも気持ちよくはなかった。
だけど、ペアを組むようになってから感じるのは、なんだかんだと面倒見のいいやつなんだろうなってこと。
まぁ、莉菜が赤点取れば自分も大会出られないんだから、必死になるのは当たり前かもしれないけどね。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ芹香ちゃんが鳴海のことをいいやつって言ってたの、わかるよ」
今だって、本当は鳴海がついてこなくったってよかったんだ。
でも多分、自分がうっかり口を滑らしたことを気にしているんじゃないかな。
そう思ったから口にしたんだけど、何故か芹香ちゃんも鳴海も、口をぽかんと開けて固まってしまった。
「え? どうしたの?」
「あ、ごめん。まさか莉菜がそんなこと言うなんて思わなかったから……」
芹香ちゃんの言葉で金縛りがとけたみたいに、鳴海も頭を大きく横にふる。
「……とりあえず、今日の宿題は英単語と漢字な。明日の朝、テストするから」
それだけ言って、鳴海はそそくさと音楽室を出ていってしまった。
「なに、あれ」
今度はわたしが呆気にとられる番だ。なんでいきなり帰っていったんだろう?
鳴海が出ていった背中を見送った芹香ちゃんが、吹き出すように笑った。
「どうしたの? 芹香ちゃん」
「ううん。遥人って面白いでしょ?」
よくわかんないけど、笑いながら涙を浮かべている芹香ちゃんが、指で拭いながら聞いてきた言葉に、戸惑いながら頷いた。
「さて、私たちも帰ろっか」
「うん、そうだね」
芹香ちゃんは今まで話せなった分を埋めるかのように、帰り道で別れるまで、ずっと竣人さんの話をしていた。
そんな芹香ちゃんはかわいくて、そして少し大人に見えた。
親友の新たな一面を知った日。
この日、わたしは芹香ちゃんのことで頭がいっぱいになっていて、家に帰ってから眠りにつくまで【鏡の部屋】にいる莉菜のことをすっかり忘れてしまっていた。
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