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【12】黒鬼と月たんと会合。

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「やぁやぁ、みなのもの~~!」
こう言う時の登場口上はよく分からん。黒鬼辞典にはとりまぶっ飛ばすしかなかったからよく分からん!いや、どういう状況やねんっ!!

広い宴会場にずらぁ――――――っとひれ伏す鬼たちを前に、ちょっといたたまれなくなりながらも、黒鬼にとってそれは普通なことなのだと胸にすとんと降りてくる。だからかな、ちょっと寂しいけれど。

でも俺の隣には月たんがいるのだ~~!むふむふっ!だからお兄ちゃん寂しくないよぉ~~っ!うへうへっ!

月たんと仲良く手を繋ぎ、ルンルン気分で黒鬼の座す専用の席に腰をおろす。

月たんと並んで座ってもまだ余裕のある黒鬼の席はものっそい豪華。座席ふかふかだし、背もたれまであって楽チン~~!

あぁ、時代劇の殿様とかはちゃんと背もたれなしの高級座布団に座ってて偉いなぁ~~。
俺には無理だぁ~~。背もたれ最高。ないと不便!特に腰痛い時どうすんの~!鬼は長生きなんだから!腰痛対策も必要だと、俺は思うんだ!俺生まれたばっかり!

あ……!おおぉっと、忘れるところだった。大事なことを忘れるところだった~~っ!んもぅっ!月たんとお手手繋いで仲良くよろしくソファーでリラックスしてたからついつい忘れちった~っ!てっへぺろっ!

でも俺が何も声かけないと、この平伏している鬼たち、微動だにせず頭下げたままなのだ。

しかし、一体いつまでこうしているのか。していられるのか。

耐久レースを仕組むのもいいかなとも思ったのだが、それでは俺もずっと会合に付き合わないといけないじゃないか。

まぁ、俺と月たんだけ先に屋敷に帰って放置待てもありっちゃありだけどねー。

でも、放置待てさせてんのすっかり忘れてマジで放置しそうなので、放置待てはやめた。鬼絶滅しちゃうじゃん。供物どうすんの、供物。

――――――そんなわーけーでっ!はいっ!いきましょか~。やりましょか~。

「みな、面を上げよ」
ここら辺の命はちゃんと黒鬼辞典にあるぞ~!なんで登場口上はないねん~~~~っ!?

……ま、いっか。ともかく俺の言葉で頭を上げた鬼たちは、一同ぽっか――――んとしていた。

みんな、なしたん?

俺が生まれたてで子どもの姿だからか?いやでも、それが黒鬼の生まれ方で、鬼たちもそうだろうが。そんなに驚くことか?

まぁ、いいや。取り敢えずもてなされるがままに適当に時間潰したらか~えろっ!

月たんとお勉強べんきょもいいし~、月たんのためにお菓子作ってあげるのもいいなぁ~~!あとそれからそれから、今日のお夕飯は何にしようかなぁ。肉は普通に手に入るし、ケチャ注文したら普通に届いたから、ハンバーグみたいな洋食も普通に作ってるんだぁ~~!

月たん和食も好きだけど、洋食も気に入ってくれてるんよ~~!
この世界、和風なのにケチャあるし、頼めばペンネ出てくるし不思議なんだけども、月たんが喜んでくれるなら無問題モウマンターィッ!!!

そう、月たんとの夕飯何にしようか、頬をほくほくさせながら考えていた時であった。

「黒鬼さまっ!!」
「あん?」
突然許可もなく立ち上がったのは、鬼たちの最後尾の列にいたらしい、銀色の角の鬼ーーそう白鬼である。

短め、小さい白い角はモブ鬼、一般鬼の代名詞なので、白鬼と呼ばれる鬼の角は長い銀色なのである。

ここで銀鬼とならないのは、不思議。黒鬼辞典には載っていないが、多分言いづらいからじゃぁないかな?

とは言え黒鬼辞典に載っている限りでは、白鬼はけっこうな古参で権力もある名家だったはず。
モブ鬼たちのように短くないその長い角も、白鬼が鬼としてどのくらい強い存在なのかを表しているのだ。

なのに、何故あんな後ろの席にいるのだろう?

う――――ん。

えぇ――――……と。

んぁれ?

――――――あ、そだ。俺が序列最下位にしたからか!
やっべ、すっかり忘れてた、その後序列戻すとか命じてないから、そのままになってたかー。

いや、戻してやる義理もないから、戻してやろうとも思わないけども。

しかし序列最下位とは言え、白鬼はこの会合に呼ばれる、いわゆる色付きと呼ばれる鬼だ。

参加はもれなく認められた……が、序列最下位だからこそ一番最後列にいるわけだ。そうじゃなきゃ、最前列の赤鬼や青鬼など色付き鬼の最上位の鬼たちと並んでいたはずだ。

因みに色付きとは、鬼の前に色がついており、その角もまたその名に倣う、もしくは近い色を有している。古参で名家中の名家、鬼の力も強く、同胞たちからも絶大な支持を得る存在だ。

それにしても、何故俺の不興を買って最下位に追いやられた白鬼が、突然?黒鬼俺さまの許可もなく?命が惜しくはないのだろうか。

「何だ?」
俺の中に流れる黒鬼の血が今にも煮えたぎりそうなのを抑えつつ、取り敢えず聞いてやらんでもないと白鬼に目を向ける。

「では申し上げます!何故!その下等な半鬼が黒鬼さまとともに、黒鬼さまの衣を着、隣に座っているのですか……!そこは黒鬼さまの席!唯一無二の我らが黒鬼のさまのためだけに用意された席でございます!半鬼なんぞがいていい場所ではない!」
――――――あー、そっか。それでみんな唖然としてたのね。ふむふむ、よ~く、分かった。それでも我慢はしていただろう他の連中はまぁ許してやらんでもないよな。

だが白鬼は……月たんが俺のところにくる前に散々手酷いことをしていたくせに。月たんがこうして俺の寵愛を受ける立場にいることに、白鬼は黙っていられなかったのだろう。

まぁ何が俺の逆鱗に触れたのかも分かっていないのだろうな。

それが半鬼に対する当然の扱いであり、俺に注文通りに半鬼を提供したにも関わらず、歴史ある色付き鬼の名家なのに格下げされたのだ。

その上虐げていたはずの半鬼が俺の隣にいるとなれば……これは文字通り黒鬼の寵愛を受けていると判断してもおかしくはない。

……だが、

月たんは半鬼だとか、半鬼じゃないとか言う前に、俺のスウィ~ト・弟・月たんなのぉっ!むーっ!

お兄ちゃんは月たんを溺愛する生き物なのだから寵愛してと~っぜん!

それをなんだぁっ!?この白鬼はあぁぁっ!!月たんを愛でるのを邪魔するならば、容赦はせんぞおぉぉぉっ!!こんのっ、白鬼があぁぁぁっ!!


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