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事の顛末と、続く幸せな日々。
しおりを挟む「なぁ、おい。助けてくれよぉ、リュウイぃっ!」
そして残された不良勇者が恐る恐る口を開く。
「その腐った口でリューイの名を呼ぶな」
ウチの旦那、今までのは元王女だったから我慢してたのかな。あの元王女は俺の名前すら覚えていなかっただろうし、ラシャの口が堰を切ることもなかったんだろうが、さすがにそこは譲れないらしい。
「だ、黙れっ!獣人のくせにっ!」
不良勇者は獣人を何だと思っているのかな。王族は人族だけれど、スペック的には獣人の方が強いのに。
決して、人族の方が立場が上なわけじゃない。
「黙るのはお前の方だ。罪人が、許可もなく口を開くな」
ルインさまの冷たい声が刺すように響き、不良勇者がびくんと固まる。
「な、何なんだよぉ、お前はっ!リーチェさまは勇者の俺をちゃんともてなしてくれたのにっ!」
元王女の本命は幼馴染みだけれど、俺への仕打ちを裏から指示していたのは彼女だ。彼女の影があったから不良勇者は好き勝手できたわけである。
「この国の王。貴様らがこの世界の神子を虐げなければ、口を利くことさえ許されぬ存在だ」
ルインさまが告げる。
「まぁ、それであってもこの俺への不敬が許されるわけではない。そのうるさい口を塞げ」
ルインさまが指示すれば、騎士が不良勇者に猿轡を嵌め、不良勇者がうーうーと唸る。
「お前たちも、元王女とともに神子を虐げた罪で裁く」
ルインさまが他のパーティーメンバーを冷たく見下ろす。
「わ、私は無実よぉっ」
今はもう髪がボサボサで、肌はやつれ、以前のマドンナたる美貌などどこかへいってしまった元マドンナが叫ぶ。
「お前は元王女を利用し、神子を亡き者にしようとした」
確かに。あのひと、幼馴染みが好きだったもんな。幼馴染みの親友の俺にも当たりが強かった。元王女とはライバルであったが、その権威をも利用して俺を排除しようとするなんて。
結局は自分が選ばれると思い込んでいるから、元王女が幼馴染みに気があると気付いてもそのみ利用したんだろう。
腹黒い女である。
「ぼ、ぼくは不良勇者に脅されて、仕方なくっ!それにりゅうっ、神子さまを治療士しましたっ!助けてください!」
不良勇者を好いている聖女の青年が叫ぶ。
何言ってんだ。不良勇者に痛め付けられた後、アンタに何度見て見ぬふりされて放って置かれたと思ってんの。
こんな時だけ神子さまだなんて。
「ぼくだって不良勇者に命令されてっ」
続いて不良勇者の腰巾着。
不良勇者が裏切るのかと2人を睨みうーうーと唸ってる。
「どいつもこいつも、謝罪のひとつすらないとは。まぁ、いい。だからと言ってお前たちの罪が軽くなることはない。そこの?不良勇者だったか。お前は処刑、他のは終身労働刑だ」
ルインさまの容赦のない言葉に、みな悲壮な表情を浮かべるが、剣士だけは何も言わず、顔を下に向けるだけだった。
剣士が何を考えていたのかは結局分からなかったな。
俺を庇おうとする幼馴染みを制止し、俺が虐げられることを黙認したことには代わりはない。
彼らは騎士たちに引きずられて、退場した。
「最期にお前に謝罪でも言い残すかと思いきや、いやな思いをさせたな」
静寂の戻った玉座の間でルインさまが告げる。
「いえ。彼らの最期が分かってむしろすっきりしました」
命乞いはされたけど、謝罪のひとつすらくれるような連中じゃない。
これからは、彼らに怯えず暮らせる。
ルインさまの治世ならそう安心して暮らせる。ラシャも一緒にいてくれるし。
「それと、その、ミコトは?」
幼馴染みの光の勇者はどうしたんだろう?
「あぁ、やつはお前のことを庇ってもいたそうだしな。減刑を告げたが、生涯をもって償いたいと願い自ら生涯戦場で過ごしたいと望んだから、許可した」
戦場でって。この世界では魔物討伐の最前線だ。
「出発前に、一度会っていくか?」
ルインさまの申し出に、俺は頷いた。
「お願いします」
そんな俺に対し、ラシャは不満そうだった。
「リューイ」
「大丈夫だって。ラシャも、近くにいて?」
そう提案すれば、渋々頷いてくれた。そばにいようとしてくれるところも、愛おしいと思える。
そして俺はラシャとともに久々のミコトとの対面を果たした。
「リュウイ」
「ミコト」
互いに、名を呼び合った。久々に合ったミコトは日焼けしており、筋肉も鍛えられたようでがっしりとしていた。
「守ってやれなくて、すまなかった」
まずミコトはそう言って頭を下げた。
「ミコトのせいじゃない」
王女が、先王とともに王族の力をほしいままにしたのだ。いくら勇者だからって、そうそうに逆らえるわけじゃない。ルインさまがいてくれたならともかく、一番まともなひとが国外に出ていた時に起きたことだ。
「リュウイ、リュウイ。すまない。そして、その、言っておきたいことが、あって」
「なに?」
何だろう?
「ずっと、好きだった」
「は?」
「愛して、いるんだっ!」
「はいっ!?」
なっ、ミコトが、俺をぉっ!?
「んあ゛?」
ひぃっ!?ラシャがマジでヤッバイ殺意出しとるぅーっ!
「あの、俺もう結婚してるから。俺の夫のラシャ。子どももいるから。その、ゴメン」
そう言って、ラシャの腕を掴みながらラシャを落ち着かせ、ラシャを紹介する。
「はは、そうか。そうだよな。こんな俺にリュウイが幸せにできるとは思えない。リュウイ、幸せにな」
そう告げたミコトは泣きそうな顔をしていたけれど、踵を返し涙を呑み込むように去って行った。
「ラシャ、帰ろ」
「ん、だな」
ミコトの背中を見送り、そしてラシャの手を引き、俺たちはルインさまに挨拶をして東地区に帰るのだった。
そして東地区のクランではーー
「ぱぱー」
「ままー!」
ウチのかわいい双子が早速駆け寄ってきてくれて、俺はシャナを、ラシャはクウを抱き上げてくれた。
「うん、ただいま!」
「ん」
そう、2人に告げればーー
『おかえりぃ!!』
双子のかわいらしいおかえりにハートをぶち抜かれたことは……言うまでもない。
双子を見てくれたタクトさんたちにお礼を言い、俺たちはマイホームへと帰還した。
※※※
ーーーそして、現在。
双子をギルドの託児所に預けられるようになったころには、俺はAランク冒険者になっていた。
「きょぉのばんごはんはなぁに?」
ラシャに抱っこされている双子のうち、シャナが俺の方を向きながらわくわくしながら問うてくる。うん、かわいいなぁ。
「ハンバーグ」
『はんばーぐっ!』
双子で息ピッタリ。そして目を輝かせちゃって。ウチの子どもたちほんとにかっわえぇっ!
「ん」
そしてなんとなくラシャも嬉しそうで、微笑ましくなる。
「美味しいの、作るからね」
ラシャの腕に身を寄せれば、ラシャもまた嬉しそうに仏頂面の口元を緩めてくれた。
召喚されて、ひどい目にも遭ったけど、俺は今、すてきな旦那さまやかわいい子どもたちに囲まれて、幸せな日々を送っている。
(完)
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