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戦いを乗り越えて

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俺達は限界までエンジンを焚いて走った。あまりのスピードに砂煙が立っている。
フィストが真剣な顔をしてチラリと背後を見た。
背後からは魔王が全速力で追いかけて来ている。

「見えてきました……」

そう言った俺の目線の先には、深い崖がある。このままのスピードで走っていると確実に落ちる距離だ。

「フィスト!今です!」
「分かった!」

フィストがそう言って、フックショットを横の木に向かって撃った。フックショットが木に食い込む、フィストはフックショットを掴み足を踏ん張る。

「っく!!」

フィストはサイドカーにに乗っているので、それに引っ張られてバイクは勢いよく曲がった。
スピードの勢いが強くて木がミシリと軋んだ。バイクと俺の体重が乗るから、フックショットを持っているフィストも顔を歪めた。
これがフィストの言った作戦だ。ギリギリまで魔王を崖に誘い出し、俺達はフックショットで曲がり、魔王を崖から落すという計画だった。スピードを出しているし、タイミングを誤ったり木が折れでもしたら俺達も崖に落ちてしまう。

「よし!」

勢いよく俺達が曲がったことで、魔王はやっと崖の存在に気が付いたようで直前で止まろうとした。必死に足を踏ん張り爪で地面を引っ掻いたが、魔王は砂埃を上げながら崖から落ちた。
巨大な体躯が落ちて土砂が崩れる音と木が折れる音がした。

「やりましたね」

バイクはなんとか止まり。俺は背後を振り返って言った。
さっきまでいた魔王の姿は跡形もない。確認のためにバイクから降りる。
恐る恐る崖から覗き込んだが、魔王の姿は木が茂っているせいで良く見えない。
その時、フィストに引き寄せられ抱きしめられた。

「フィスト?どうしたんですか?」

そう言うとフィストはさらに強く抱きしめる。

「俺も、俺も会いたかった……」

フィストの腕は少し震えていた。
その言葉で離れていた時に感じた胸の苦しさが消えてしまった。フィスト達を見つけた時は再会を喜ぶ余裕もなかったが、あらためて再会出来たことに喜びがこみ上げる。
久しぶりの腕と温もりに涙が出そうになった。

「フィスト……」

顔を上げ、見つめ合う。ここ数日、魔王との戦っていたからか顔は汚れているし無精ひげも生えている。
それでも、フィストは誰よりも格好良く見えた。ゆっくりとフィストの顔が近づいてくる。

「ヤン……」

その時、魔王の咆哮と共に足元が崩れた。

「うわ!!」
「ヤン!」

どうやら、魔王が最後の力を振り絞って崖を登ってきたようだ。そのせいで崖が一部崩れた。端に立っていた俺は丁度足を踏み外す。
俺は咄嗟にフィストに捕まろうとしたが、すり抜けてしまった。
そのまま、崖から落ちる。

「っく!」

衝撃に耐えるために咄嗟に体を丸めたが、崖に打ち付けられグルグルと視界が回る。
体中に痛みが走ったが、幸いなことに木が生い茂っていたおかげで速度が緩んだ。バキバキと枝が折れる音とともに地面に落ちる。

「っぐあ!」

酷い痛みが全身に走る。
全身を打ったし、もしかしたらどこか怪我をしたかも。
その時、大きな影が覆いかぶさる。
魔王だ。
度重なる攻撃と崖から落ちたことで魔王はボロボロになっている。しかし、俺も全身を打ち付けて動けない。
魔王は最後の力を振り絞るように唸りを上げ腕を振り上げた。

「っ……」

もうダメだと思った瞬間銃声が聞こえた。

「やめろー!!」

声はフィストだった。フィストは崖を滑りながら降りてきて。魔王に弾を浴びせた。しかし、すぐに弾が切れてしまう。
魔王は嫌そうにしたあと振り払うように腕を振った。フィストは吹き飛ばされる。ディアボルスの体は触るだけで爛れてしまう。まさかこんな事になるなんて。

「フィスト!!」

必死に手を伸ばそうとしたが、体は相変わらず動かない。
そうしているうちに、魔王はこちらに向き直り、そのまままた腕を振りかぶった。

「っ……!!」

目を逸らす暇も無かった。俺は息を飲んでそれを見ることしか出来ない。

「ダメだ!!ヤンー!!」

その時、叫び声と共に凄い勢いでフィストが突っ込んでくる。そして、そのままの勢いで魔王を素手で殴りつけた。

「っ!」

魔王叫ぶような唸り声を上げたあと横に倒れた。
そして、そのまま溶けて骨だけになった。

「倒した……?いったいどうやって……っう……」

あまりの出来事に唖然としていたら。俺は、何度か頭を打った所為かそのまま気を失ってしまった。

「ヤン?ヤン!」

最後に見たのは慌てて駆け寄ってくるフィストの姿だった。

**********

夢を見ていた。
深い水底にいるような感覚がする。
体が重くて動かない、冷えているのか寒い。
だんだん心細くなってきた、体がさらに沈んでいく。今度は何だか怖くなってきた。
体が動かないからどうすることも出来ない。
その時、誰かに手を捕まれた。
暖かくて力強い。それと同時に声が聞こえてきた。
フィストの声だ。それと同時に俺は目を開けた。

「フィスト……?」
「ヤン!目を覚ましたのか!」

俺はどこか病院のようなところで寝ていた。フィストが心配そうに覗き込んでいる。

「ここは?」
「軍の病院だ。あのあとすぐ助けが来て街に戻れた」

フィストの説明によると。俺は怪我をしているが治れば以前と同じように生活出来る程度だそうだ。

「そうなんですね……フィストは大丈夫ですか」
「俺の事はどうでもいい。ヤンはどこか体に異変はないか?医者は大丈夫だと言っていたが、おかしな所や痛みを感じる場所はないか?」

フィストは怒った顔をして矢継ぎ早に聞く。

「大丈夫……だと思います。どうしたんですか?フィスト怒ってます?」
「怒っては……ない……」

フィストは気が抜けたように、ベッドの横に置いてある椅子に座った。
その時、フィストが俺の手を握っていたことに気が付いた。手が暖かかったのはフィストが握っていたからだった。
フィストはさらに強く俺の手を握る。

「フィスト?」
「ヤンが魔王に襲われた時。あの時、死んでしまったかと思った……もう、駄目かと……」

フィストは声を詰まらせ言った。目も少し赤くなっている。かなり心配をかけてしまったようだ。

「フィスト、ごめんなさい」
「こんなに恐怖を感じたのは初めてだ。魔王と対峙した時もこんな気持ちにはならなかった……」

ギュッと握る手は少し震えている。

「……」
「ヤンがいなくなってしまうと思った……」
「大丈夫です。俺はずっといますから」

そう言って握られた手の上から反対の手を重ねる。すると、フィストも両手で手を握った。

「それで、気が付いた。どれだけ、ヤンが大切な存在か……愛してる」
「フィスト……」

俺は驚いた。フィストからこんな言葉が聞けるとは思ってなかった。体中痛かったけど起き上がると、俺達は抱きしめあった。

「こんな簡単な事に気が付くのに、なんでこんなに時間がかかったのかわからない……ごめん。こんな俺でも一緒にいて欲しい」
「本当に遅いですよ……」

俺は苦笑いしながら言った。そうして、体を引き見つめ合う。

「愛してる」
「俺も……」

そう言って俺達はキスをした。
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