奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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三章

奴隷だった私は舞踏会に行く3

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舞踏会会場に入るとイーラとピアーズは、色々な人に挨拶をしていった。イーラが婚約者だとアピールするためだ。
とは言え、そうでなくても、ピアーズは王子という立場もあって、こちらから行かなくても沢山の人が寄ってきた。
イーラはピアーズのそばで、挨拶する相手の顔と名前を必死に思い出し挨拶をしていく。
そろそろ疲れてきたなと思ったところで、この舞踏会を主催した人物。この国の王が会場に入ってきた。
会場の全員が喋りを止めて王に注目し、道を作った。
王は会場の上座にある玉座の方に立つ。
イーラとピアーズもそちらに向いた。
その場は静まり返り、あっという間に荘厳な雰囲気になる。
舞踏会は聞いていたスケジュールと同じく進んでいるようだ。
そのスケジュールとは、人が集まり王からのお言葉があった後、各々ダンスをしたり歓談したり食事をして終わりになる。何時に終わるというのは決まってないようだ。
挨拶が終われば各人自由にしていていい。ダンスの会場には所々飲み物や食べ物がおいてあり自由に食べられる。
王が低めの声でこの舞踏会の開始と、挨拶をし始めた。
イーラはとりあえず一休みできると、少しホッとしながらその挨拶を聞く。

「イーラ、大丈夫そうか?」

聞きながら、ピアーズがこっそり小声で言った。

「大丈夫です」
「本当か?もし辛かったら、これが終われば帰ってもいいからな」

ピアーズは心配そうに言う。

「本当に大丈夫ですよ。最初は緊張してましたけど、大分慣れてきましたし……」
「そうか?目的は大体達成できたから、いつでも帰ってもいい。だから、あまり無理はするな」
「達成できたんですか?あまりなにもしていなような……」

イーラは、もっと色々しないといけないと思っていたから驚く。

「まあ、これからも何度か一緒に出かけてもらうつもりだが、今日は大丈夫だ。昨日、店に回ったのもしばらくしたら効果が出るだろう」
「え?お店に回ったのも、何か特別な意味があったんですか?」

確かに、もうすでに沢山ドレスがあるのに、何であんなに買うのか疑問だった。

「ああいった、高級店の店員や職人は沢山の貴族とも会う。だから俺がイーラに金を使ったり仲がよさそうなのをわざと見せて回っていたんだ。そうすればイーラが婚約者だと、自然に噂が流れる」
「……なるほど。だから……」

そういえば屋敷でも沢山の商人を呼んでいたし、王都からもわざわざ呼んだりもしていた。そして、その前で可愛いと言ったりキスしたりしたのは、わざと見せるためだったのだ。

「話の分かる奴にはいくらか金を握らせて、噂を広めるように頼んでおいた。それに今日、話したエクムントの奥さんは少し天然だがお喋り好きで有名なんだ。きっと頼まなくても広めてくれるだろう」
「そうなんですね……」

そう言って、イーラはエクムントの奥さんの事を思い出す。確かに何も言わなくてもずっと喋っていそうな明るい人だった。

「噂というのは、身近な者が言えば言うほど信じやすいものだ」

ピアーズがそう説明する。しかし、イーラの顔を見て不思議そうに言った。

「……なんだ?怒っているのか?」
「お、怒ってません」

イーラはしかめっ面をしながら言った。怒ってないといいつつ、何だか納得いかない気持になる。ピアーズはそれを見て困った顔をした。

「可愛いと言ったのは本音だぞ?今日もいつも以上に可愛いし」
「本当に怒って無いですって。しつこいな……」

イーラは何だか意地になって口を尖らせた。
取り繕うように言われても嬉しくない。
それを見てピアーズは何故か可笑しそうにクスクス笑う。
話がそれてしまった。イーラは気を取り直して話を戻す。

「でも、にこんな噂を流しても、急すぎて逆に嘘だってばれないですかね?」

急にこんな話が流れても、勘のいい人ならイーラが婚約者だというのが嘘だというが分かってしまうんじゃないだろうか。

「それは大丈夫だ。それが分かる察しのいい人物なら、ミュリエルが嘘をついているのも分かるだろうし。それが分からない奴はイーラが婚約者だと信じるだけだ」

ピアーズはそう言って、安心させるように微笑みさらに続ける。

「要は俺の婚約者がミュリエルじゃないって事が伝わればいいんだ」
「確かに……」

目的はミュリエルとの噂の否定だ。イーラが本当に婚約者になるわけではない。
そんな話をしていたら、王の挨拶が終わった。
王が開催を宣言し、舞踏会が始まる。
そうすると、広間の中心辺りに人がいなくなって踊れるスペースが出来た。
舞踏会はまず、この中で地位の高いものが一番最初に踊るのが決まりだ。一番地位の高いものは王なので勿論王が最初に踊る。
王が妃と広間の中央に出ると、楽団が音楽を奏で始めた。
会場にいる全ての人が注目している中、王夫妻がゆっくりと踊る。ある程度踊り終わると、次に長男である王子のエリオットが参加する。相手はエリオットの妻だ。

「そろそろ、俺達もいくか」

ピアーズがそう言って、イーラの手を取った。

「はい」

ダンスは、メインの催し物だ。このためにイーラはエミリーたちとダンスを必死に覚えたのだ。
それに、ここで二人で踊ると言うこと自体にも意味がある。
王の前でしかもこんな大きな舞踏会で踊るということは相手が正式な相手だと暗に言っていて。そしてイーラが、きちんと教育を受けていることも証明できる。
しかも、人の少ない今なら沢山の人にそれを見せる事ができる。ピアーズが王子だから出来るチャンスだ。
イーラは教えてもらったダンスを思い出しながら、中央あたりに進む。二人が中心の方に進むとハーフであるイーラを連れたピアーズにみんな注目する。驚いた顔の人、思わずと言った感じで顔をしかめる人とそれぞれだ。

「そうだ、ダンスは踊れるようになったのか?」

今更ながらピアーズが聞いた。

「大丈夫……なはずです……」

イーラは緊張した面持ちで頷いた。とは言え、あまり自信はなかった。
エミリーに比べるとまだまだ動きがぎこちないし、たまにリズムを外す。
ピアーズと向い合せになり、音楽に合わせて踊り始める。

「なんだ、自信なさそうだったが全然踊れているじゃないか」

しばらく踊った後、ピアーズが意外そうな表情で言った。

「そうですか?」
「ああ、それだけ出来ればば充分だ」
「良かった。エミリーはもっと上手いから自信なかったんです」

イーラが正直に言うと、ピアーズは苦笑する。

「そう言えばエミリーにダンスを習ってたんだな」
「そうなんです。あ、そういえばその時、面白いことがあったんです……」

イーラはそう言っ、てエミリーとアーロンが恋仲になったらしい経緯を話した。
なんとか大丈夫とわかったことで緊張がほぐれたようだ。それに、踊っている時は周りに声は聞こえない。

「そんな事があったのか」

話おえるとピアーズがそう言った。

「カーラ先生いには放っておけって言われたんですけど、やっぱり気になっちゃって……二人には幸せになって欲しいし……」

そう言うとピアーズはそうだなと微笑む。

「意外な組み合わせだと思ったが、案外お似合いかもな。でも、カーラが言うようにあんまりかまうのも良くないかもな」

イーラはふと夜、一緒に寝ていた頃を思い出す。あの時もこんな風にイーラは屋敷であったことを話していた。
こんな状況なのに、なんだか懐かしい気持ちになる。
今思えばあの時話した出来事は、何も特別な話は一つもなかった。思い出そうと思っても思い出せないくらい他愛のない話ばかりだ。
それなのにピアーズはよく楽しそうに聞いてくれていた。今もそうだ、こんな使用人の恋の話なんて聞いても、ピアーズが扱っている仕事に比べたらなんの役にも立たない。
それなのにピアーズは優しい笑顔で真面目に答えてくれる。

「そうですよね…………ん?あれは?」

その時、周りにいた大勢の中にひと際目立つ派手なドレスを着た人物がイーラとピアーズを睨みつけていることに気が付いた。ピアーズはチラリとそちらを見ると言った。

「ん?ああ、あれが例のミュリエル嬢だよ」
「え?あの人が?」

顔を見るのは初めてだ。どんな人だろうとは思っていたがミュリエルはかなりの美人だった。
とても目立つ色のドレスを着ていたが、それを堂々と着こなしていて立ち姿も様になっている。
肌は真っ黒で艶があり、頭にある角は細めながらも形が整っていて美しい。
イーラの肌はハーフの中でも白っぽい方だし、角は髪飾りをしていることもあってほとんど見えないくらい小さい。
エミリー達はむしろ、その角を見えないようにかわりに可愛らしい飾りを付けてくれたのだが、比べるとなんだか恥ずかしくなってきた。

「あまり気にするな。ミュリエルとの噂はあくまで間違いってことにしているから。こちらはなにも知らない振りをした方がいい」

ピアーズはイーラの目線に気が付きそう言った。イーラは黙って頷いた。
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