奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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三章

奴隷だった私は四天王の婚約者になる

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「ピアーズ様!ちょっといいですか?」

イーラはエミリーに意外な情報を聞いて、すぐにピアーズの部屋に向かった。
ピアーズの秘書をしているイーラが、ピアーズの結婚を知らない訳がない。もし本当なら一大イベントになるし、学校を作るくらいの忙しさになるはずだ。
だから、ありえないのはわかっていたが、イーラは気になって慌てて来たのだ。

「どうした? 珍しいな、一緒に寝たいのか?」

ピアーズはいつものように、大きなベッドでくつろいでいた。あまりに昔と変わらないので、なんだか懐かしい気持ちになった。

「違います……」

イーラがちょっとムスッとした顔で言うと、ピアーズはクスクス笑う。

「どうしたんだ?」
「あの、実は……」

イーラは気を取り直し、エミリーから聞いた話しを伝えた。

「どう言う事だ?」

話し終えると、ピアーズは訝しげな表情になってそう言った。

「やっぱり、そんな話は初耳ですよね?」

イーラはホッとする。

「当たり前だ。それにしても何でそんな噂が?」

ピアーズは首を傾げる。
エミリーの話では、ピアーズには恋人がいて。しかもその人物とはもう婚約までしていて結婚も間近だというものだった。
しかも、その噂はかなり具体的でどこで会っていたとか、どんな言葉で婚約を約束したのかまで広まっているのだ。
しかし、ずっと近くにいたイーラはピアーズに特定の恋人がいない事は知っている。

「ただの人違いか、何かの勘違いですかね?」

そんな事実一つもないし、そんなに害のない噂ではある。
しかし、かなり具体的で広範囲に噂が広がっているのが気になった。

「これは、ちょっと調べてみた方がいいかもしれないな」

ピアーズは、少し難しい顔をしてそう言った。
そんな事があった数日後、イーラを含めた数人がピアーズの執務室に呼ばれた。

「どうしたんですか?」
「この間、言っていた噂のことだ。あれから、俺も調べてみたんだが……」

集められたのはイーラにエミリー、それからヴィゴとルカスもいた。

「その噂の事は聞きましたが、いつの間にこんな噂が流れていたんでしょうか?」

ヴィゴが困惑した表情で言った。ヴィゴも初耳だったようだ。

「どうやら、学校を作ったりで忙しかった時期にじわじわと広がっていたようだ」
「あ、なるほど……」

イーラはそれで納得した。あの頃は忙しくて不要なものは後回しになっていたし、耳に入っていたとしてもスルーされていたのだ。

「ただの信憑性のない噂なら放っておいてもいいかと思ったが、あまり楽観もできそうになくてな、集まってもらったんだ」

ピアーズは困った表情で言った。

「やっぱりデマだったのね。おかしいとは思ったんだけど、あんまりにもその噂を聞くから本当なのかと思っちゃったのよね」

エミリーが納得したように言った。

「具体的には、どこまでその噂は流れているんだ?」
「私の周りはほとんど知ってますよ。ここの下級の使用人でも知っていますから、かなり広まっていると言ってもいいと思います。貴族の中には、本当だと思ってお祝いに何を送るかまで決めてる者までいるとか」
「そこまで、話が進んでいるのか……」

ピアーズは困惑した表情で言った。

「ここは、離れているからそこまで噂は広がってないですが、王都の方では結婚式の日にちまで決まっているなんて話まであるそうです」

エミリーも苦笑している。
そうなのだ、この噂は王都から広がり、それがグズート州まで噂がひろがって今にいたるのだ。
それにしても、結婚の日にちまで決まっているとは思わなかった。

「最近、社交場に行くのをさぼっていたが、それが仇になったな……」

ピアーズがため息をついて言った。
元々ピアーズは舞踏会や夜会などの社交場にはあまり顔を出す方ではなかった。それでも、重要そうな集まりには行っていたのだが、さっきも言った学校創立に集中しすぎて完全に後回しになっていたのだ。
その間に、まるで既成事実かのように噂が広がってしまった。

「問題は、今後どうするかだな……」
「放っておいたらダメなんですか?」

イーラはそう聞いた。いくら噂が広がっているとはいえ、ただの噂でしかない。まったくあり得ないことなのだから、放っておいても大丈夫そうに思える。

「そうは簡単な話じゃないんだ」

ピアーズはまたため息をつき説明する。
問題なのはその噂された相手らしい。そのお相手というのはカリスト・ミュリエル。

「カリストっていうと、あのカリスト・デニセの娘ですね」

イーラはその女性には会ったことはないが、その父親には会ったことがあった。初めて王都に行った時、ピアーズにやたら話しかけてきて嫌がられていた貴族だ。
ピアーズが迷惑そうにしていたのを覚えている。

「そうだ。正直あまり関わりたくない人物だったから、距離をおいていたんだが……」

ピアーズは眉をひそめながら言った。そうとう嫌いなようだ。
ピアーズはさらに続ける。

「ただ、問題なのは。最近あの家は事業にも成功していて金もあって発言権も上がっている。カリスト家は歴史は浅い短いものの実力も影響力もある家なんだ。王家もあまり無視できなくなっている」
「なるほど。だから、困ってるんですね」

しかも、どうやらこの噂を流しているのは、ミュリエル本人のようなのだ。本人がそれを言いふらしている。しかもかなり広まってしまっているとなると、それを否定するのはかなり大変だ。
本人がいくら違うと言っても限界があるし、それを言ってまわるのに社交場に回ったとしてもどれだけ時間がかかるかわからない。
正直、ピアーズにはそんな事をする時間がもったいないのだ。

「なにか、この噂を有耶無耶にできるアイディアはないか……」
「そうですね……これ以上にインパクトのある事を広めるとかですかね……」

ヴィゴも考えながらそう言った。

「例えばなんだ?」
「単純に、他の御令嬢と婚約してしまうのはどうでしょうか」

他にお相手がいるのなら、噂を否定しやすい。それに、その人と何度か人前に出れば口で説明するより早く噂を否定出来る。

「あ、いいわね。ピアーズ様はモテるし、お相手は探そうと思えばこの屋敷にもいくらでもいるしね」

エミリーがそう言った。

「え?そうなの?」

イーラは驚く。モテるだろうと思っていたがこの屋敷にもいるとは知らなかった。

「ピアーズ様くらいの地位の人ならそりゃそうよ。下級の貴族なら自分の娘を送りこんで使用人として働かせて、近づいてあわよくばを狙うのなんてはよくある手よ」

貴族でも複数子供がいれば、直系の子供以外は仕事を探さないといけない。特に女性は家の繋がりのために結婚させられるか、さらに高い地位の貴族の使用人になったりするのが定番だ。
身分も確かだし、教養もあって作法も出来るから重宝される。
王城なんかは、使用人は当然のように全て貴族だ。
そんな中で妾でもいいから関係を持ちたいという者がいてもおかしくない。

「そう言えばそうですね……」
「ちなみに私もその一人だったりするんだけどね」
「ええ!」

イーラはさらに驚く、そんなこと知らなかった。
しかし、いままでエミリーがピアーズにそんな理由でピアーズに接近しようとしているところは見たことがない。
しかし、よく考えてみたら年齢的にも丁度いいくらいだし、エミリーは貴族の生まれだ。
それに、エミリーは結婚していてもおかしくない年齢なのに今だに独身だ。

「私の場合は親に言われてここに来たけど、本当は誰か知らない奴と結婚するのが嫌だったから、言う通りにしたのよ」

エミリーはあっさりとそう言った。

「そうなんだ……」
「でもピアーズ様を誘惑するっていうのも性に合わないから、思い切ってピアーズ様に全部言って、何もしないからここに置いといてもらえないか頼んだのよ」

エミリーがそう言うと、ピアーズが思い出したように苦笑する。

「そう言えばそうだったな。仕事もせずに誘いをかけてくる奴は、片っ端から首にしてるが、わざわざ律儀に言うなんて面白いからそのまま雇ったんだ」
「そんな経緯で……」

ここには色んな経緯で働いている者が多いと知っていたが、まさかエミリーにそんな経緯があるとは思わなかった。

「親には、惜しいところまでいってるって言って、時間稼ぎをしてる。今は独身を謳歌してるんだけどね。だから私を候補にするのはやめてね」

さっぱりとした口調でエミリーは言った。それを聞いたピアーズは可笑しそうに笑う。

「そうか、それは残念だな」
「あ、勿論ピアーズ様は顔もいいし、仕事もできていい男だと思うけど、好みとはちょっと違うんですよね」

エミリーは慌ててフォローを入れる。

「俺はそういうきっぱりしてるところは好きだぞ」
「ピアーズ様、そんな事より婚約者の話はどうなりました?」

話がそれてしまったことに呆れたのか、ルカスが横から口を挟む。本題に戻る。

「ああ、すまない。その案はいいのだが、問題は誰でもいいというわけではないところだな」

ピアーズは腕を組み考え込む。

「そうですね。下手に高い地位の方だと力関係のバランスが崩れて混乱がおきるし、丁度いい地位の方で見合う年齢のご息女は少ない」

ヴィゴが答えた。ピアーズの立場や地位はとても高い。変な相手だと周りに影響が出てしまうのだ。

「それに、デニセ家には色々嫌な噂も聞く。対立していた人物が密かに始末されたとか、証拠はないが違法な事をしているとか、不穏な話がある」

ピアーズはそう言って眉を顰める。
さらに、ヴィゴがひきつぐように言った。

「それに、問題のミュリエル嬢もあまりいい噂を聞かないですしね。気に入らないといって、人を襲わせたなんて噂もあるくらいです。そうなると、もし誰か適当に相手を選んで婚約しても、相手の御令嬢に危険が及ぶ可能性もあります」
「そんな人なんですか?」

イーラは眉をひそめて言った。相手に危険が及ぶとなると、適当に選べないのも分かる。

「全て、証拠が不十分で有耶無耶になってしまったが、どう考えても怪しいんだ。それもあって、あまり関わりたくなかったんだ」

ピアーズは本当に嫌そうに顔をしかめた。
しかし、そうなるといよいよそう簡単に相手が見つからない。
イーラも考えてみたが、実務に関してはできるようになったが、貴族とか政治のバランスに関してはさっぱりなので、アイデアも出せない。
その時、ピアーズがイーラを見て何か思いついたような表情になった。

「そうだ、イーラを婚約者という事にしよう」
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