奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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二章

奴隷だった私はエルフに会う2

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その建物は巨木に沿うように建てられていた。建物は階段で繋がっていて、複雑に入り組んだ構造をしていた。
構造は他の巨木にまで渡って建てられていて。灯りもともっているのでとても美しく、幻想的だった。
イーラは急いで下に降りて、ピアーズにこの事を知らせる。

「おそらく、そこがエルフが住んでいる場所だな。まさか木の上にあるとは思わなかったが」

どうやらあれがエルフの住んでいるところらしい。なるほど、上にあるなら見つけにくいのも納得だ。
そうして、イーラ達はそちらに向かった。

「幻の種族って聞いてたから、もっとひっそりと暮らしてるのかと思ったが、思ったよりでかいな……」

たどり着くと、その大きさに驚き、透真が言った。

「まあ、こんな森の奥だし。空が飛べないと見えないからな。普通なら見つけるのは難しいだろう」
「どこから入るんでしょうか?」

イーラは首をかしげる。建物が入り組みすぎてどこから入ったらいいか分からない。

「とりあえず、手当たり次第に戸を叩いてくか」
「うるさいからやめてくれ」

突然、知らない声が後から聞こえた。

「だ、誰だ!」

驚いて振り返る。
そこには、この世の物とは思えない美しい男が立っていた。
肌の色は青く、髪は真っ白で耳はとんがっている。

「ここに住んでいる者だ」
「あなたがエルフ?」

その男の姿は、文献にあったエルフの容姿と合致する。イーラが聞くとその男は頷く。

「そうだ。客は久しぶりだな、なにか用か?」

そう言ってエルフの男は首をかしげた。
そうして、イーラ達はエルフに出会うことが出来た。
ピアーズが聞きたいことがあると説明すると、エルフはあっさり建物に入れてくれた。
部屋に通されたイーラは驚く。
通された部屋は整頓はされているものの、おびただしい数の書物や巻物が所せましと並んでいて物であふれかえっていたのだ。
机や椅子にも高い山が築かれていて、座る場所もなかった。
イーラ達はなんとか物を避けなら部屋に入り、自己紹介をした。
エルフの名前はイェンセンと言うらしい。

「本当にあなた一人で住んでるの?」

イーラは思わず聞いた。
建物はとても大きく沢山あった。一人で住むには広すぎるように見えたのだ。

「ああ、一人だよ。他の建物は全て本や資料で埋め尽くされているから、むしろ生活する場所がここしかないんだ。あと、悪いが客に出す茶とかは無いからそのつもりで」

エルフはあっさりとした感じで凄い事を言った。生活すると言っている場所にもこれでもかと本があるのに、他はもっとあるだろうか想像もできない。
しかし、これだけあるのだから知識が深いと言うのは本当なんだろう。

「エルフがもう一人しか残ってないのも、本当なのか?」
「確認したことはないが、おそらくな。まあ、いたとしても一緒に住まないし、住みたくもない。だから、案外探したらどこかにいるかもしれないがな」

イェンセンは何の興味もなさそうに言った。イェンセンだけなのかエルフという種族がみんなそうなのかはわからないが。どうやら、かなり変わり者のようだ。

「それで……聞きたい事なんだが……」

ピアーズがそう言って、早速透真とイーラに起こった事を話す。

「ふむ……なるほどね……」

イェンセンは話しを聞くとイーラと透真を見て考えつつ言った。

「なにが起こっているのか知りたい。わかるか?」
「なかなか、興味深い。こんな珍しい事……まあ、とは言え必然だったのかもしれないがな……」

イェンセンは何か分かっているのか、面白がるように言った。

「どういうことだ?」
「説明するのは面倒だな……」

イェンセンは煩わしそうに言った。

「情報料がいるなら払うぞ」

ピアーズが焦れたように言う。

「金なんかいらない。そもそもここでは貨幣の価値なんてほとんどないからな」

透真も焦れたように聞く。

「じゃあ、教えてくれ。妹はどこにいるんだ?」
「簡単に説明するとイーラの体には透真の妹の魂が入っている」
「……どういうことだ?」

透真が眉を顰めて言った。

「過去に数件だが、イーラのように異世界の記憶を持って生まれてくる事例がある。記憶と言ってもそれぞれバラバラで個人差があるが……」
「そんなことがあるのか?」
「ああ。異世界の人間がこちらの世界に落ちてきた時、死んで魂だけになってしまい、そのまま生まれる前の子供の体に入るんだ。そして、二つの魂がまじりあって生まれるんだ」
「イーラがそうだっていうのか?」

そう言った透真の表情は硬い。

「そうだ。向こうの言葉が読めて喋れるのに、意味が分からないと言っていただろう。それは、二つの魂が混ざって記憶が中途半端に甦るからだ」

イェンセンは頷き言った。

「で、でも私が産まれたのは十五年前だよ。透真と沙知が召喚されたのは三年前だ。それじゃあ計算が合わなくない?」

イーラが不思議そうに言った。イェンセンが言う事が本当なら、魂が落ちてきたのも十五年前じゃないとおかしい。

「あちらの世界とこちらの世界の狭間には、隙間といわれる空間がある。その間には時間も場所も関係のない場所なんだ。だからそこを通ったのが三年前でもここの世界に同じ年に落ちるとは限らないんだ」
「世界の狭間?」
「そう、透真はこの世界に呼ばれ、なんの問題もなくこの世界に来れた。しかし、それに弾かれた沙知は、違う時間帯と場所に落ちたんだ」
「そんなことがあるんだ……」

イーラは呟く。自分の事を聞いているはずなのになにも実感が湧かない。

「証拠になる事例は色々ある。例えば、イーラが見つけた日本語で書かれた本は、異世界から落ちてきた人間が書いたのは知っているな?しかし、それを書いたのは何百年も前のことだ」
「それがなんで証拠になるんですか?」
「言葉というのは時間がたつにつれ変化していくものだ。何百年も前の人間が書いたのなら透真やイーラは読めないはずだ。でも何も問題なく読めたんだろう?」

イェンセンがそう言うと透真がハッとした、表情になる。

「確かに、日本語で何百年も前だったら。古文の世界だ。俺は読める自信ないな……」
「二人がこの世界に来た経緯はこうだ。まず、人間が魔法で世界に穴を開けて二人を落した。しかし、透真だけ呼ぶ予定だったから力が足りなくて沙知は弾かれた。そうして魂だけになってどこかの母親の腹に入ったのだ」
「……じゃあ、沙知は……」

透真はそう言って言葉を詰まらせた。

「気の毒だが、もう会えることはないだろう。ただ、記憶のかけらがイーラの中にあるだけだ。そもそも、魂が混じってしまっているからな。もう引き離すことは出来ないし、仮に出来たとしても今度はイーラがいなくなることになる」

イェンセンはあっさりと言った。

「そんな……」

透真はそう言って黙り込んでしまった。イーラはたまらない気持になって透真の手を握る。
透真は黙ってその手を握り返した。
すると、ずっと黙って聞いていたピアーズが口を開いた。

「随分、簡単に教えるんだな……」
「なんだ?俺の事を疑っているのか?」

睨むような表情で言うピアーズに、イェンセンが面白そうに聞き返す。

「いや……教えてくれた事はおそらく事実だと思う。ただ、こんな貴重な知識をそんなに簡単に話すのは、危険なこともあるんじゃないかと……」

イェンセンはクスクス笑う。

「こんな辺境にわざわざ来ているんだ、モンスターもいるし、下手をすれば森で迷う。そこまでして知りたいと思って来るなら教えるのは当然だ。何か気になることでもあるのか?」

イェンセンがそう言うとピアーズは少し黙った後、言った。

「ずっと、疑問だったんだ。人間達がどうやって、異世界から人を呼ぶ方法を知ったのか……」

ピアーズがそう言うと、イェンセンは愉快そうな表情になった。

「どういうことだ?」

透真が眉をひそめて聞いた。

「人間も魔法は使えるし、それなりの技術もある。しかし他の世界から何かを召喚するなんて技術まであるとは思えないんだ……」

イェンセンはまだ何も言わない。ピアーズはさらに言う。

「さっき、客は久しぶりだと言っていたな?俺達より前には誰が来たんだ?」
「まさか、それって……人間達に召喚の仕方を教えたのはお前なのか?」

透真は恐る恐る聞いた。

「ああ、そうだ。以前に来たのは人間だし、召喚の方法も教えた」

イェンセンは何でもないことのように言った。

「っふ、ふざけるな!そんなこと教えなければ俺も沙知もこんな目に合わなくて済んだんだぞ!」

透真はそう言ってイェンセンに掴みかかる。

「透真、落ち着け」

ピアーズが慌てて止める。

「しかも、召喚されたのは俺だけじゃないんだぞ!」
「私にそれを言っても仕方がないだろう。知識に善悪はない。全ては使うものが決める。お前は戦って剣で切られたからと言って、鍛冶屋に文句を言うのか?」
「っそ、それは……」
「原因がどうとかいうなら、人間がその技術を求めたのは魔族との争いが発端だ。そしてその争いの原因は魔族が人間を迫害したからだ。だったら、そっちにも文句を言った方がいいんじゃないか?」

イェンセンはそう言ってピアーズを指差し、またクスクス笑った。

「っくそ!」
「透真!」

透真はそう言って八つ当たりのように机を殴ると、そのまま外に出て行く。
イーラは慌ててそれを追った。
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