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第二章 覡の卜手

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 焼け野原を無数のあきあかねが飛んでいる。
 保早呂は、焼け落ちた物見櫓を通り過ぎ、門扉の外れた柵の内に入っていった。そこは播埀の貴人あてびとの住まいが立ち並んでいたが、風上にあったおかげで火を逃れ、今は兵舎として使われていた。
 三十人から入れそうな大館おおだちの前で、亜而利が腕を組んで立ちはだかっていた。
「おい、保早呂! おせえだろうがっ」
 額に青筋を立ててずかずかと詰め寄ってくる亜而利に、保早呂は曖昧な笑みを浮かべた。
「すまない。お偉方はもうお集まりか」
「もうとっくにな。居心地が悪いったらねえよ」
 亜而利は髭面を歪めると、ふいに保早呂の肩をつかんで引き寄せた。その耳元に小声で呟く。
「――紀国から使者つかいが来た」
 保早呂は思わず亜而利を見返す。亜而利は肩から手を外すと、「丹戸部にとべどのはおかんむりだぜ」とうんざりしたように言った。
 おまえが先に行けよと亜而利に促され、保早呂は両開きの重い木戸を引き開け、中に入った。
 広々とした板張りの館内たちうちに、二人の男の姿があった。奥でこちらに鋭い一瞥をくれているのは痩せた解き髪の男――丹戸部だった。火の消えた炉の前では、井火古いかこが背を丸めて座っている。目深にかぶったきれの隙間から白髪がのぞいていた。
「何をしていた」
 咎めるように問うたのは丹戸部だった。
 丹戸部は巫覡ふげきと並んで日高見のまつりごとを司る高位の文官である。ただしまじない等は一切行わず、館の奥に籠り、内向きの政務をこなしている。保早呂は今回の遠征で初めて顔を合わせたのだが――初顔合わせから、そりが合わない。居丈高な物言い。人を見下したような目付き。亜而利などはあからさまに丹戸部に敵意を持っていた。
「いや――その、見回りとかな。いろいろあるんだよ」
 保早呂は気まずげに誤魔化した。敵兵を葬っていたなどと言ったら、何を言われるかわかったものではない。
「見回りなど、そなたがやるべきことではない。紀国きのくにとの戦を前にして副将そえのきみたる者が王のお側を離れるとは。そもそも……」
 結局、小言が始まるのか――保早呂は溜息をつく。
「いいじゃねえか。那束さまがあんなふうになっちまって身動きとれねえんだからよ。ここであんたらと顔つき合わせてたってらちが明かねえし」
 吐き捨てるように言った亜而利に、丹戸部が辛辣な目を向けた。亜而利は負けじと睨み返す。
(また始まったか)
 顔を突き合わせるたびに火花を散らす二人をうんざりと見やり、保早呂は円座わろうだにどかりとあぐらをかいた。
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