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第六章 地上調査
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✳︎✳︎✳︎
「斎藤……ナイフ一本で倒したのか」
河野は唖然と呟くと、ぎりっと歯を食いしばった。
「なぜ発煙筒を使わない! 複数の蜻蛉相手にナイフではすぐに限界が来る」
乾が目の上に手を翳し、目を細めた。
「相変わらず攻撃力高えなぁ。……つうかなんか揉めてんな、あいつら。やっぱり斎藤さんの悪い癖が出たかよ」
何――河野が振り向いた。
乾は舌打ちをした。
「くそっ、戻るしかねえか」
「虫に囲まれているんだぞ」
「俺たちだっていつまでもここにいるわけにはいかねえだろ。それに、あいつら見殺しにしたら寝覚めも悪ぃしな」
待て――河野は乾の肩を掴んだ。
「……ここから撃つ」
「撃つって――何言ってんだ、ライフルもねえのに」
「ライフルはないが機関砲ならある。これはただの輸送ヘリじゃなく、武装ヘリコプターだからな」
河野は機の上から身を乗り出してコックピットのドアを開けると、操縦席に飛び降りた。
「水に浸かっているのは機の半分だけだ。基幹部分は生きてる可能性がある」
動け――河野は祈るように補助動力装置を入れた。
コンソールパネルが起動した。ローターが回転し、ひしゃげた翼がばたばたと水面を叩く。
機体の上の乾が「うおっ」と首をすくめた。
「乾、隣に座れ! 外にいると落ちるぞ」
乾は反対側のドアからコックピットに乗り込み、もう一方の操縦席に座った。
河野はコンソールパネルの表示を指で叩いた。機体側面にごぼりと大きな気泡が上がった。
操縦桿をゆっくりと引き上げる。その動きに合わせて機関砲が水面から顔を出した。
「いい具合に上を向いてるな……」
河野は照準器をじっと見据えた。蜻蛉の飛行速度と着弾時間を瞬時に計算し――滑空する蜻蛉に照準を合わせてスロットルバーのボタンを押した。
砲声が響いた。全身が痺れるほどの衝撃に、乾は奥歯を食いしばる。
榴弾の弾頭が炸裂し、巨大蜻蛉が四散した。
乾は「ははっ」と乾いた笑い声を上げた。
「す……すげえじゃねえか、河野さん!」
河野は大きく息を吐いた。
「目標より少しずれたんだがな。向こうが弾に合わせて当たってきたんだ」
ヘリコプターの周囲に集まっていた黒い影はいっせいに向きを変え、水面に落ちた蜻蛉の死骸を目がけて泳いでいった。
虫たちが水を跳ね上げ、競うようにむさぼるさまに、乾は頬を引き攣らせる。
「……共喰いしてやがる」
空中に停止飛翔をしていた蜻蛉がくるりと向きを変え、ヘリコプターを見た。
「もう一匹だ」
河野は照準を合わせる。黄と黒の肢体が、紺碧の空に弾け飛んだ。
よっしゃあ――乾は歓声を上げ、操縦席の窓から身を乗り出した。
「こっから全部撃ち落とせねえか⁉︎」
「そうしたいところだが――ギリギリで動いてる状態だ、いつ動かなくなるかわからん」
そう言ってる間にパイロットランプが点滅し、コントロールパネルの照明が消えた。
翼がゆっくりと回転速度を落としてゆく。
「おい……言ってるそばからエネルギー切れかよ」
乾が愕然と呟く。
河野は補助動力装置のボタンを幾度も押した。コントロールパネルの画面は暗いままだった。
「斎藤……ナイフ一本で倒したのか」
河野は唖然と呟くと、ぎりっと歯を食いしばった。
「なぜ発煙筒を使わない! 複数の蜻蛉相手にナイフではすぐに限界が来る」
乾が目の上に手を翳し、目を細めた。
「相変わらず攻撃力高えなぁ。……つうかなんか揉めてんな、あいつら。やっぱり斎藤さんの悪い癖が出たかよ」
何――河野が振り向いた。
乾は舌打ちをした。
「くそっ、戻るしかねえか」
「虫に囲まれているんだぞ」
「俺たちだっていつまでもここにいるわけにはいかねえだろ。それに、あいつら見殺しにしたら寝覚めも悪ぃしな」
待て――河野は乾の肩を掴んだ。
「……ここから撃つ」
「撃つって――何言ってんだ、ライフルもねえのに」
「ライフルはないが機関砲ならある。これはただの輸送ヘリじゃなく、武装ヘリコプターだからな」
河野は機の上から身を乗り出してコックピットのドアを開けると、操縦席に飛び降りた。
「水に浸かっているのは機の半分だけだ。基幹部分は生きてる可能性がある」
動け――河野は祈るように補助動力装置を入れた。
コンソールパネルが起動した。ローターが回転し、ひしゃげた翼がばたばたと水面を叩く。
機体の上の乾が「うおっ」と首をすくめた。
「乾、隣に座れ! 外にいると落ちるぞ」
乾は反対側のドアからコックピットに乗り込み、もう一方の操縦席に座った。
河野はコンソールパネルの表示を指で叩いた。機体側面にごぼりと大きな気泡が上がった。
操縦桿をゆっくりと引き上げる。その動きに合わせて機関砲が水面から顔を出した。
「いい具合に上を向いてるな……」
河野は照準器をじっと見据えた。蜻蛉の飛行速度と着弾時間を瞬時に計算し――滑空する蜻蛉に照準を合わせてスロットルバーのボタンを押した。
砲声が響いた。全身が痺れるほどの衝撃に、乾は奥歯を食いしばる。
榴弾の弾頭が炸裂し、巨大蜻蛉が四散した。
乾は「ははっ」と乾いた笑い声を上げた。
「す……すげえじゃねえか、河野さん!」
河野は大きく息を吐いた。
「目標より少しずれたんだがな。向こうが弾に合わせて当たってきたんだ」
ヘリコプターの周囲に集まっていた黒い影はいっせいに向きを変え、水面に落ちた蜻蛉の死骸を目がけて泳いでいった。
虫たちが水を跳ね上げ、競うようにむさぼるさまに、乾は頬を引き攣らせる。
「……共喰いしてやがる」
空中に停止飛翔をしていた蜻蛉がくるりと向きを変え、ヘリコプターを見た。
「もう一匹だ」
河野は照準を合わせる。黄と黒の肢体が、紺碧の空に弾け飛んだ。
よっしゃあ――乾は歓声を上げ、操縦席の窓から身を乗り出した。
「こっから全部撃ち落とせねえか⁉︎」
「そうしたいところだが――ギリギリで動いてる状態だ、いつ動かなくなるかわからん」
そう言ってる間にパイロットランプが点滅し、コントロールパネルの照明が消えた。
翼がゆっくりと回転速度を落としてゆく。
「おい……言ってるそばからエネルギー切れかよ」
乾が愕然と呟く。
河野は補助動力装置のボタンを幾度も押した。コントロールパネルの画面は暗いままだった。
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