『エンプセル』~人外少女をめぐって愛憎渦巻く近未来ダークファンタジー~

うろこ道

文字の大きさ
上 下
67 / 110
第六章 地上調査

2(6)

しおりを挟む
 河野は腕を組むと寛人と渥美を見据えた。
「……柚木と渥美か。なぜ入れかわってまで地上調査隊に加わった? 理由があるだろう」
「僕は――お金が目的です」
 河野はむっとしたように目を細めた。とても信じていない顔である。
「佐々木はどうなんだ。――佐々木ではなく、渥美か」
「俺は地上を見たかったんだ。一度でも」
 渥美はいどむようにまっすぐ河野を見返した。
 まあまあ河野さんよ――乾が気怠けだるく口を挟んだ。
「訳なんて別にいいじゃねえか。それぞれだろ。ちなみに俺の目的はわかりやすく金だ。俺ら下級労働者の賃金なんざ雀の涙だが、この地上調査だけは破格の報酬だからな。それに――成果を上げりゃあ、子供だってつくらしてもらえるかもしれねえし」
「乾さん、子供欲しいんですか?」
 寛人はぽかんと乾を見上げた。乾はそれを見返す。
「なんだよ、悪いかよ。まあ子供ったってってだけだがなぁ。でも血を残してえだろ。せっかく生まれてきたんだから」
 生まれてきたっつっても俺は人工授精センターで機械的に増やされたクチだけどな――乾は言った。
「おまえらはちゃんと母体から産まれたんだろ? 上級労働者様だしな。家族とかいるんだよなぁ。いまいちどうゆうもんか想像できねえけど」
「僕は家族はいません」
 寛人はきっぱりと言った。妙に強い口調に、乾は面食らったように寛人を見やる。
「俺は……母親と姉がいる。親父は、死んだ」
 呟くように言った渥美の腕を、乾は唐突につかんだ。
「おめー、姉ちゃんいんのかよ」
 渥美はぎょっと目を上げた。乾の威圧感のある眼差しとかちあう。
「画像とかねえのか? つうか紹介しろよ」
「は? 何言ってんだよいきなり」
 渥美は一歩引いた。ざっくばらんな口調や雰囲気で意識せずにいたが、乾は結構な強面こわもてなのである。
「こら。やめるんだ乾」
 河野が乾の肩を掴んだ。冷静に考えれば脅迫しているわけでも何でもないのだが、はたから見たら十分に身の危険を覚えるほどの凄味すごみがあった。地顔が怖いのだ。
「だってこいつの姉ちゃんだぜ? 性格はともかく見てくれは期待できねえか?」
「言っとくけど似てねえからな」
 渥美は吐き捨てた。容姿をいじられたのは――自分だけなのだ。
「――渥美くん」
 その時、斎藤がいつになく真顔で渥美を見据えた。
「乾くんが義兄ぎけいになるってことですから、そこのところをよく考えた方がいいですよ」
「斎藤さんはちょっと黙ってろよ、これは俺とこいつの問題なんだからよ」
「だから紹介なんかできねえって言ってるだろ。姉貴は国のもんなんだから」
 渥美は乾の手を振り払った。
「そうか。世の中の女はセンターに入れられてんだな。……国から強奪っていうのも燃えるよなぁ」
「そうゆうことなら協力しましょう」
 斎藤さんは暴れたいだけだろ、と乾は眉根を寄せた。
「国家警察の俺の前で拉致計画を立てるとはいい度胸だな」
 河野は苦々しく溜息をつき、寛人と渥美に目を向けた。その鋭い眼差しに、二人はぎくりと身を強張らせる。
「お前たちの処遇だが、ここで引き返すわけにもいかないからな。専門家の捜査協力者として同行を願う――それでいいな?」
 寛人はほっと息を吐いて、額の汗をぬぐった。
 ここまで来て――地下都市に連れ戻されるわけにはいかない。
「専門家が二人もそろってるなんてついてるよなぁ。使えねえなんて言って悪かったな」
 お前ら頼りにしてるぜ、と乾は渥美と寛人の背中を叩いた。
「つうかその白井や佐々木ってのも下級労働者か囚人だろ? お前らみてえな育ちがよさそうなのが、よく接点があったな?」
「僕は地上から帰還した隊員の寄生検査や寄生生物のサンプル回収もやっているんです。その時に知り合って……」
「では白井さんは生き延びたんですか。虫の巣に落ちたから絶対に亡くなられたと思ったんですが」
 それはよかったと斎藤は淡々と言った。
(白井さんはもう――)
 寛人はひっそりとこぶしを握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クロノ・コード - 成長の螺旋 -

シマセイ
SF
2045年、東京。16歳になると国から「ホワイトチップ」が支給され、一度装着すると外せないそのチップで特別な能力が目覚める。 ハルトはFランクの「成長促進」という地味な能力を持つ高校生。 幼馴染でSランクの天才、サクラとは違い、平凡な日々を送るが、チップを新たに連結すれば能力が強くなるという噂を知る。 ハルトは仲間と共に、ダンジョンや大会に挑みながら、自分の能力とチップの秘密に迫っていく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

999番

作者主
SF
20xx年、香港、大量虐殺があるちんけな商店街で起こった、死者は数十人にまで及び、負傷者は20人余り、一時はニュースへ大々的に取り上げられていたが、今ではその事件など人々の記憶にすら残っていなかった その中で、また一つの大きな事件があることを知らずに

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...