季節番外編置き場

ユーリ

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釣りの日

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ある日、バルドが僕の屋敷を訪ねて来た。

「今、お前の兄貴っている?」

兄様ともう何度も顔を合わせているから、最初の頃のような堅苦しさもなくなって、親しい感じになっていた。

「いるよ?何か用事?」

「あれからナイフ投げとか練習しれうんだけど、まだナイフ投げで魚を仕留めるのは難しそうなんだよな。それで、他の人達はどうやって取ってるのかって、ふっと気になってさ。ちょっと参考になるかと思って聞きに来た」

「でも、コンラットは?今日は一緒には来てないの?」

コンラットは未だに硬い部分はあるけれど、兄様の事となれば一緒に着そうなものなのに、バルドが1人で着ている事に違和感を感じて問い掛ければ、そんな僕からの視線を避けるようにそっと横へと逸らした。

「だって…そんな下らない事で手間を取れせるなって…小言を言われそうだったから…」

コンラットの性格を一番分かっているからか、本人が言いそうな言葉を適切に言い当てていた。バルドの言葉を聞いた僕も、確かに言いそうだなと納得してしまった。

「それで、今大丈夫か?仕事中なら、また出直すけど?」

「大丈夫じゃないかな?今、レオン殿下が着てるだけだから」

「それって、仕事中じゃないのか?」

「ううん、昼食時に来るって手紙が届いたんだけど、兄様が、今日はもう仕事にならないなって言ってたから仕事はしてないと思う」

「そっか、ならお邪魔しても大丈夫か?」

「良いんじゃないかな?前に、知らないで入っちゃった事あるけど、全く怒られなかったよ?」

「それなら、ちょとだけ除きにだけ行っても良いか!駄目そうなら、今日は諦めるからさ!」

少し軽い調子のバルドと一緒に兄様の部屋を訪ねて行けば、僕達は思いの外歓迎された。その事もあって、バルドは早速2人に今回の用事を訪ねていた。

「私はナイフなどは使わない。水の流れを操作し、魚の逃げ道を塞いでから捕獲する」

「そんな面倒な事するよりも、火魔法を思いっきり川に当てて浮いて来た魚を取った方が速いって!!」

兄様が答えた後、明るい口調で言い放たれた言葉に、兄様はじっとりとした視線を向ける。

「……あれは、周囲が水浸しになるから止めろ。あの時は…酷い目にあった」

「そういえば、あの時はみんなしてびしょ濡れになったんだっけな!オルフェも髪から水が滴ってて、思わず笑ったのは覚えてる!」

「あぁ、お前は、反省もせずに、1人で笑ってたなぁ…」

「で、でも、濡れたって乾かせば良いだけだろ!?」

「その焚き火も、一緒に消えてたがな…」

「あ、あれ?そうだったか?焚き火の火…燃えてたと思ったんだけど…?」

「そうだな。お前が気を失っている間に、私が湿気ってない枝をもう一度探しに行ったからな」

「わ…悪い…」

「そう思っているのなら二度とやるな。全く、後始末もしないで気絶するとはな」

「それは…そうなんだけでよ…。それよりも、何で俺は気を失ったんだ?あの時の事を思い出そうとしてみても、気を失うような事はなかったと思うんだけどよ?」

「笑っているお前を、私が後ろから殴った」

「だったら、それは俺のせいじゃないだろ!!」

「煩い。リュカがいる所で大きな声を出すな」

「お前ッ!!……ッ!」

兄様の一言でさっきまでの反省の色が吹き飛んだように、納得が行かなそうな顔で兄様に食って掛かっていたけど、僕達を確認するように見て、何かを必死に我慢しているようにしていた。

「それで、用事はもう終わり?」

此処に長いをしてもあんまり良い事がなさそうだと思った僕は、バルドの用事が終わったなら、僕の部屋にもう戻ろうと思って聞いたのに、こういう時に限ってこっちの意図に気付いてくれなかった。

「そうだなー。リュカの親父さんにも聞いてみたいけど、今は親父と一緒で城にいるだろうしな」

「うん。まだ、帰って来ないと思うよ」

何時も決まった時間に帰って来るから、諦めが付くように僕がバルドへとそう返せば、怒りから立ち直っただろう殿下が、意地悪めいた顔を浮かべて言った。

「俺と一緒に行けば、城だってすんなり入れるぞ」

「おい…」

「俺が良いって言ってるんだから良いだろ?嫌なら、オルフェは付いて来なくて良いぞ?」

「……」

ニヤリと笑うレオン殿下に、苦虫を噛み潰したような顔で兄様は睨んでいたけれど、兄様がその事に何か言う前に口を開いた人がいた。

「行って良いのか!?なら、面白そうだし!行きたい!」

「決まりだな!」

乗り気なバルドと、悪乗りをしている殿下の2人を止める術がないうえに、バルドだけを行かせるわけにも行かなくて、僕も一緒に付いて行く事にした。そうしたら、面白くなさそうにしながらも、兄様も一緒に付いて来てくれたけど、そんな兄様の様子を見た殿下がしてやったりという顔をしていて、今度は兄様が必死に何かを我慢しているような顔をしていた。

敢えてそれに気付かない振りをしながら馬車に乗って城にやって来た僕達は、警備の人に止められる事なくすんなり中に入り、レオン殿下の案内の下、父様の仕事場所へとやって来た。けれど、そこに父様の姿はなかった。

父様の城の仕事部屋なんて初めて見たけど、仕事が出来そうな人達がこんなにいる部屋も見た事がなかった。何処か学院にいる教師を思い出させるような雰囲気だったから、少し気後れをしてしまったけれど、案外話してみると気さくな人達だった。

その人達の話によると、陛下の所に報告に行っていて、今は席を外していると言う事だった。暫くしたら戻ると言う事だったけど、レオン殿下は待ってるより行った方が速いと言って部屋を後にしてしまった。廊下を進みながら仕事中なのに良いのかなとも思ったけれど、僕以外誰も気にしていなさそうだから、もう気にしない事にした。

部屋の外にいた警備の人から、入室の確認をして貰った僕達が部屋へと入ると、父様達は仕事の手を止めていて、僕達の方へと視線を向けていた。

「どうかしたのか?」

「リュカの友人が、父上に聞きたい事があるんだそうです」

「聞きたい事?」

何も身に覚えがないような顔で不思議そうな顔をしている父様に、バルドは兄様達にした同じ質問をもう一度問い掛けた。

「私は川ごと全部凍らせるかな。凍らせておけば運ぶ際も楽で、長期保存も出来るからね」

「君は、情緒の欠片もないな。ベルの事を脳筋のように言う時があるが、君も似た者同士だよ」

「……ならば、お前はどうなんだ?」

「釣り竿を使うに決まっているだろ。あの、何も考えずにぼーっと座っている時間も、中々捨てがたい時間だからな」

「「「………」」」

「父上…何と言うか…年寄くさいです…」

「貴様…年取ったな…」

「お前は私と同じ年だろうが!1人だけ若い振りするな!!」

「お前と違って、私は心までは年を取っていない」

「私の心労の原因を作っているような奴が、偉そうに言うな!」

「言い訳とは見苦しい」

「言っておくが!私の方が普通だからな!?お前等が可笑しいんだからな!!?」

何とも言えぬような視線を3方向から向けられ、納得行かなそうに言い返す様は、さっきも見たような光景と似ていた。

「リュカ、俺、まずはナイフ投げ張る事にする!」

「うん…頑張って…」

何が正解なのか分からなくなった僕は、バルドの言葉に応援の言葉だけを返す事にした。
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