季節番外編置き場

ユーリ

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母の日

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「はぁッ!?だってこの前も、母に感謝する日だって言ってやったばっかりじゃんか!?」

「お前、それはそれだろ」

「そうですよ。貴方は、日頃から迷惑を掛けてるんですから、何時も感謝した方が良いですよ」

「そんな事言われても……小遣い減らされたばかりで、今は金がない…」

「お前等が貰う小遣いなんて、多少減らされたくらいではなくならないだろう?普段から、何に金使ってんだよ?」

コンラットの言葉に、何処か気まずそうな顔を浮かべながら下を向いたバルドに、ネアが不思議そうな顔をしながら問い掛ける。

「そりゃあ、帰り道で買食いしたり、何か面白そうなの物を露店で見つけては買ったりしてると、小遣いなんてすぐになくなるんだよ。昨日も、これ買ったばっかりだし」

そう言うと、真ん中にボタンのような物が付いたような、5センチくらいの四角い物をポケットから取り出した。

「何?これ?」

「目盛りが付いてるから、たぶん測りじゃないか?」

「貴方、そんなの使うんですか?」

「いや?使わねぇけど?」

「だったら、何でそんなもん買ったんだよ…」

「ボタン押すと、巻き戻るのが面白かったから買った!」

「「「………」」」

コレを買った、何とも言えない理由に、誰も何も言えないで視線だけを送ると、少し慌てたような顔をし始めた。

「で、でも、10メートルは測れるらしいぞ!!」

「だから、何処で使うんだよ…」

「うっ…ッ…」

バルドの部屋には、使い道がよく分からない物がたくさん置いてはあったけれど、あれを全部、自分のお小遣いで買っていたなら、お小遣いなんてすぐなくなるよね…。

「でも、一本も買えない程、お金残ってないの?」

「ん~?兄貴と一緒と一緒なら、一本くらい…買える…かも…?」

首を傾げながら言うバルドに、だったらと思って、僕は提案してみる事にした。

「それなら、クリスさんも誘って、みんなでお花屋さんに行ってみない?値段が分からないと、買えるかどうかも分からないし、それに僕、放課後にカーネーションを買いに行くつもりだったんだ」

「そうだな!行ってみなきゃ分かんねぇもんな!」

「私も、元々行く予定だったので良いですよ」

「ネア!お前も行くんだからな!」

「俺は…必要ないんだが…」

最後まで、自分は関係ないような顔をしていたネアを引き連れ、放課後、みんなで街の花屋を目指す事にした。だけど、だんだん花屋が近くなって来ると、僕達の後ろにいたバルド達が、互いの財布の中身を確認するように、見せあっていた。

「足りる…かな…?」

「分かんねぇ…」

お互いの所持金が少ないのか、財布をみながら渋い顔を浮かべていた。僕も、お小遣いがそんなに残ってなくて不安だったけど、兄様の提案で、お金は兄様が出して、僕が買いに行く担当になったから、お金が足りなくなる事はないはずだ。でも、念のために、自分のお小遣いも持って来ていた。

「いらっしゃいませ!目当ての花は、既にお決まりですか?」

花屋に来ると、僕達を見つけた店員らしい人が声を掛けて来たので、僕はその人に尋ねてみる事にした。

「すみません。カーネーションは一本、いくらですか?」

「カーネーションは一本、銀貨6枚になります」

その店員の言葉を聞いて、後ろにいた2人が、何処か絶望したような顔を浮かべながら小さく呟いた。

「……足り…ない…」

「足りないって、幾ら足りないんですか?」

コンラットと一緒に、2人が持っているお金を確認すると、バルドが銅貨2枚に鉄貨3枚。クリスさんが銅貨2枚に鉄貨7枚で、銅貨一枚足りなかった。

「僕のお小遣いから、お金貸そうか?」

「いや!親父が金の貸し借りはするなって言ってたから駄目だ!」

兄様から預かったお金があったから、僕のお小遣いを少し貸そうかと思ったけれど、クリスさんが片手を前に出しながら、僕の提案をきっぱりと断って来た。

「でも、どうするんですか…?」

「そうだよなぁ…花がありそうな所なんて、花屋くらいしか……!!そうだ!リュカの屋敷の庭には!花がいっぱいあるんだから、カーネーションくらい咲いてるんじゃないか!?」

「えッ!?う、う~ん?たぶんだけど、僕の庭には、カーネーションは咲いてないと思うよ。咲いてたら、兄様も僕に頼んだりしないと思う」

「そうかぁ……」

「で、でも、あるかもしれないから、分かる人に聞いてみようか!?」

「頼む!!」

バルド達の頼みで、一度花屋を後にした僕達は、僕の屋敷にやって来ると、屋敷の事を一番知ってそうなドミニクに尋ねてみる事にした。

「あるにはあるのですが、先日、庭に植えたばかりですので、身頃になるのは秋頃かと思います」

「え?カーネーションは、今が身頃なんじゃないんですか?」 

「それも間違いでは御座いませんが、秋にも見頃を迎えるのです。当家では庭のバランスを考え、秋頃に咲くように栽培しているのです」

「…そう…なのか」

「そういえば、ネアの家は花とか取り扱ってないの?」

2人があまりにも落ち込んでいたので、家が商業を営んでいるネアに、ダメ元で訪ねてみた。

「薬草類なら扱っているが、観賞用は扱ってない」

「なら、咲いてる所とかも知らないの?」

「さぁな、薬草類も、冒険者連中に依頼して採取して貰ってるからな」

カーネーションが見つからずに落ち込んでいる僕達に、ドミニクが声を掛けて来た。

「カーネーションをお探しなら、日当たりが良く、風通しが良い場所を探せば、咲いている可能性もあるかと」

「じゃあ!そういう場所知ってそうな人間に聞いてみようぜ!」

カーネーションが咲いてそうな場所を聞くために、その人達が居そうな場所へと移動する事にした。

「カーネーション?」

僕達は、あの1件で一緒に王都へやって来た2人組に合うために、冒険者ギルドにやって来ていた。

「そんなの、俺達みたいな連中に聞くなよ」

「でも、色んな場所に行ってるから、色々しってるでしょ?」

「色んなって言ってもなぁ…王都には仕事でしか来ねぇから、地理に詳しいわけでもねぇぞ。王都に元からいる、他の連中に聞いてみろよ」

「だって、冒険者に知り合いなんていないもん」

「そんなん、お前だったら……ゥッ」

ハリソンさんの横にいた体格が良いデレックさんが話そうとしたら、ハリソンさんの肘鉄を食らって呻いていた。

「なら、この辺で、日当たりが良くて、風通しが良い場所を知らない?」

「そんな事言われてもなぁ…」

「それなら、王都近くの川辺りにあるそうだぞ?日当たりも良くて、風通しも良いから、昼寝にも最適だって釣り好きの奴が……」

「そこだ!!」

突然の大声に、デリックさんが驚いたように言葉を止めて、僕達の方を見るけれど、バルド達はそれに気付いてもいないようだった。

「よし!行くぞ!!」

「行くって!場所分かるんですか!?」

「川近くだろ!近くに行けば分かるって!!」

そう言った2人はもう、既に扉を開け放って、外へと駆け出して行っていた。

「もしかして、俺、余計な事言った?」

「あぁ…言ったな…これ…俺達も付いて行くしかねぇぞ…」

「マジで…?」

「ガキだけで街の外にやって、あの方から更に面倒な依頼を増やされたいなら、お前の事を置いてくが?」

「……行く」

王都の外までやって来た僕達は、付いて来てくれた2人に案内して貰いながら、カーネーションが咲いていそうな場所までやって来ていた。

「よし!探すぞ!!」

「探すって、何処を探すの?」

周りにはあまりに木が生えておらず、草原みたいなになっていた。そして、その場所を横切るようにして、そんなに大きくない川が流れていて、目印になりそうな物も、探す場所の当てもない。

「花なんだろ?とりあえず、川に沿って歩るいてれば、見ればいいんじゃないか?」

ハリソンさんの提案で、僕達は川沿いに沿って歩きながらしばらく探していると、向こう岸の根本付近に、花屋で見かけたカーネーションが、たくさん咲いているのが見えた。

「あった!!ちょっと俺、向こう岸まで取りに行ってくる!!」

「おい!バカッ!川は浅く見えても、急に深くなってる事があるんだからな!!」

駆け出そうとしたクリスさんを、今度は逃さないとばかりの勢いで、ハリソンさんが止めに入った。

「なら、どうするんですか?」

「そうだなぁ…今から橋まで戻って行くにしても、時間が掛かるな……」

色んな場所に行って、この場所まで来るのに、だいぶ時間を使ったから、もうそんなに時間が残ってない。向こう岸まで、20メートルくらいだから、何とかすれば渡れる気がする。

「ハリソンさん達は、渡れないの?」

「どっかの誰かと、俺を一緒にするな……」

「魔法使っても駄目なの?」

「だから!お前等と一緒にするなって!一般人で魔力持ちなんて、そんなにいねぇんだからな!!」

「街の人間で、魔力持ちってそんなに珍しいのか?」

「クラスに、1人か2人くらいだな」

「なら、そんなに珍しくねぇじゃん?」

「あのなぁ、お前等と違って、1クラス1000人くらいいたりするんだからな」

「バカでかい講堂みたいな部屋で、授業やってるんだよな!でも、何か楽しそうだよな!」

「楽しくねぇよ、喧嘩が耐えないうえに、授業に付いて行けなくなっても、自力で何とかするしかねぇ。まぁ、自分は魔力持ちだからって言って、全く勉強しようとしねぇ馬鹿がいたけどな」

「何で、魔力持ちだからって勉強しなかったの?」

「魔力持ちは、だいたい貴族様のお抱えになるんだよ。でも、貴族のお抱えになるなら、最低限度の礼節くらいは出来なきゃいけねぇからな。だから、貴族連中に売り込み掛けても、誰からも相手にされてなかった姿を見た時は、ザマァと思って笑えたよ」

今思い出しても笑えるのか、そう言ったハリソンさんは、何とも意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「それで、どうするんだよ?行くにしても、ガキ共に行かせるわけにも行かねぇから、俺か、お前しかいねぇだろ?」

「どうするって言ったってなぁ…、川は、流れが急に変わったりもするから、せめて命綱に出来そうな長い紐なんかあればいいんだがぁ……」

「長い紐って言ったって…」

ハリソンさん達の言葉で、辺りを見渡しても、紐に出来そうな長い蔦なんかも見当たらない。

「おい、今朝のアレ、持ってるか?」

それまで成り行きを見守っていたネアが、バルドへと声を掛けた。

「持ってるけど?目盛りなんか、どうするんだよ?」

「もしかしてですけど、それを紐代わりにでもするんですか?でも、向こう岸までには、長さが足りませんよ?」

「反対側で支えながら、一緒に入れば平気だろ」

「おぉ!なら、おっさん!頼んだ!!」

「おっさんって……お前等から見ればおっさんかもしれねぇけど、そこまで年取ってねぇからな」

クリスさんの発言に、何とも苦い顔を浮かべていた。

「何で、俺が…」

「じゃんけんに負けたんだから、文句言うな。それに、元々はお前の発言が原因だろ」

「そうだけどよぉ…」

その後も、ブチブチと文句を口にしながらも、足を止める事なく、互いの腰に目盛りを結んだ状態で川の中を進んで行く。川の中腹くらいまで進むと、水かさが腰くらいまでになって来た。

「まだ、行けそうか?」

「ああ、大丈夫そうだ」

目盛りの長さがいっぱいになったため、反対側を持っているハリソンさんも、川の中へと足を踏み入れ、徐々に向こう岸を目指して行く。

「此処、石がゴロゴロしてて、何か歩き難いな」

「そこ、足場が不安定になってるから気を付け…ッ!!」

「ウワッッ!!」

足でも滑らせたのか、上半身が見えていたはずのデリックさんの姿が、水の中へと消えた。それに、引っ張られるようにしてハリソンが川の中へと沈む。

「やべぇ!!」

それを見たクリスさんが、慌てたように駆け出してハリソンさんの服を掴む。僕達も、川岸からそんなに離れていなかったから、ハリソンさんを掴んでいるクリスさんを引っ張った。すると、ハリソンさんの顔が水面から覗いた。

「っ!ぷはぁつ!わりぃ!助かった!」

そう言ったハリソンさんと一緒に引っ張ると、デリックさんの顔も、水面の上へと現れた。

僕達は、むせ込んでいるデリックさんを引き上げるようにして、引っ張り上げながら全員で川岸に上がると、疲れたように地面に倒れ込んだ。

「お前、勘弁しろよ…」

「悪い…川が急に深くなってるのに、気付かなかった…」

むせ込みも少し収まってきたデリックさんに、クリスさんが心配そうな顔を浮かべながら声を掛ける。

「大丈夫か?やっぱり、渡るのは無理そうか?」

「いや、もう少し下流になら、渡れそうな場所はあった……」

「なら!そっちでやれば渡れるな!!」

「え…っ…?まだ…やるのか…」

「おぅ!」

上体を起こしながら元気に返事をしたバルドを前に、寝そべったまま引きつったような顔をしていたけど、直ぐにハリソンさんから一撃を脇腹に食らって、身悶えしていた。

その後、無事に街に戻った僕達の腕には、しっかりとカーネーションの花が握られていた。だけど、街の入口で別れた2人には、もう、俺達の所に頼みに来るなよと言われてしまった。

そんな僕達がバルドの屋敷の前で来ると、見覚えがある後ろ姿を見かけた。

「アッ!兄貴だ!お~い!!」

「どうしたんだ?そんな土だらけになって?」

振り返ったお兄さんが、僕達の姿を見て、不思議そうな顔をしながら尋ねる。濡れた服は、帰る途中でだいぶ乾いたけれど、ずぶ濡れの状態で地面に横になったからか、服のあちこちに、カピカピになった土が付いていた。

「そんなことより!これ!母さんのために取って来たんだ!!」

胸に抱えていた花を、お兄さんに見せるようにして得意気に掲げるけれど、お兄さんの反応は予想と違っていた。

「?屋敷の庭から取って来るのに、何でそんな土だらけになるんだ?」

「え…っ…?庭……?」

「その花は、屋敷の裏庭に咲いている花だろう?」

お兄さんの予想外の言葉に固まっていると、そんな2人の後ろに、ゆっくりと近付く1人の背中があった。

「………バルド」

「いや!違うって!花なんかに興味ないから、本当に知らなかったんだって!それに兄貴だって気付いてなかったぞ!!」

「俺だって、花なんかに興味ねぇんだから仕方ねぇだろ!!」

3人が揉め始め、それをお兄さんが止めているのを僕達は横目で見ながら、僕達は、小さくため息を付いた。

「……無駄に疲れたな」

「……そうだね」

わざわざ外まで摘みに行った僕達のあの苦労は、いったい何だったんだろう……。でも、母様が喜んでくれたから、それで良いと思う事にした。
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