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四章

貴族として

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選択教科だけでなく、必修科目の授業もあるため、薬草学の授業は週に2、3回あるだけだった。そのせいか、薬草学の授業では、未だに話し相手がいない。

「余計な事考えないで、普通に話し掛けたら良いんじゃないか?案外良い奴かも知れないぞ?」

ネアの言う通り、話し掛けて欲しそうな視線は感じるため、僕から話し掛けたら話し相手になってくれそうな気はする。だけど、どんな人かも分からない相手に1人で話し掛けるのは、どうにも勇気がいる。だから、僕達の中で一番友達が多いバルドに相談してみたのに、サラッとした答えだけが帰って来た。

「それなら、バルドはどんな風に声を掛けたりしてるの?」

僕の悩みなんて、まるで大した事でもないみたいな態度で言うバルドに、何処か感じる不満を隠しながら聞返せば、キョトンとした顔を浮べて首を傾げた。

「俺か?俺は普通に面白そうな話題が聞こえて来たりした時とか、面白そうな事してる奴とかに声掛けてるかなぁ?」

「そんなやり方で、今まで嫌な人とかいなかったの?」

「ん?あんまりいないな?たまに、何だコイツって奴が話し掛けてくる時はあるけど、そういった奴らは最初から相手にしない事にしてる」

「えっ?そういうのって、素直に引いてくれるものなの?」

「何言ってんだよ。そんな奴らが、大人しく引くわけないだろ」

「そ、それなら、どうしてるの!?」

まるで僕が冗談でも言ったかのように笑うバルドに、僕が驚きと戸惑いを交えながら問い掛けると、ニヤリとした笑みを浮かべて言った。

「言って分かんない奴には、別の手段で解決する事にしてる!」

握り拳を作りながら得意げな顔で笑うバルドを見て、僕は何処か嫌な予感を感じた。だけど、その気配を感じたのは、僕だけじゃなかったようだ。

「まさかとは思いますけど…その相手を殴ったりは…してないですよね…?」

「殴ったぞ?」

「貴方!!?どうしてそれで問題になっていないんですか!?」

「さぁ?でも、相手が何も言って来ないんだから、別に大丈夫じゃないか?」

「はぁ…っっ……」

怒鳴られても、何処か他人事のように小首を傾げなら言うバルドを前に、コンラットは問題児を持つ親みたいな顔でため息を付いた後も唸っていた。でも、僕はそんなコンラットの横で、何事にも物怖じしないバルドの姿に、少し関心してしまっていた。

「まぁ、親側も、わざわざ藪を突付きたくないんだろな」

僕達の中で、ネアだけは1人、何処か冷静に状況を分析していた。そんなネアの言葉があったからか、コンラットも少し冷静さを取り戻した様子を見せながらも、目にはまだ、呆れが少し混ざっているようだった。

「それにしても、貴方。自分の事を棚に上げて、よくネアに言えてましたね…」

この前、僕達と一緒にネアの事を非難していた事を責めるような言葉と視線を向けられると、少しだけたじろいだ様子を見せた。

「で、でも、本音をぶつけ合った相手の方が、仲良くなったりするぞ!」

「僕…喧嘩は…したくないなぁ…」

話しを誤魔化すように僕に話しを降って来たけれど、僕は争い事が嫌いというか、そもそも痛いのが嫌いだ。だから、僕にはバルドのような使えそうになかった。

「はぁ…何か楽しいことないかな…」

「何言ってんだ!?楽しい事ならあるだろ!?」

「えっと…何かあったっけ?」

僕がため息混じりに呟いた言葉に真っ先に反応したのはバルドだった。だけど、何の事を言っているのか直ぐに思い付かなかった僕がバルドへそう聞き返すと、信じられないような顔をされた。

「何言ってるんだ!!?後一ヶ月ちょっとしたら夏休みだし、みんなで旅行に行こうって言ったのはリュカだろ!?」

「最近…色々あって忘れてた…」

「忘れるなよ!!」

何で忘れてるんだとでも言うように憤っているバルドを前に僕が項垂れていたら、それを落ち着けるようにコンラットが僕達の間に入って来た。

「怒ったって仕方ないので、とりあえず落ち着いて下さい。それよりも、日取りとかは決まっているんですか?」

「僕もまだ何も聞いてないから、まだ決まってないと思う」

あれ以来、父様から何も音沙汰がないから、僕も話しが何処まで進んでいるのか分からなくて首を傾げる。

「決まってからで良いのですが、その時は速めに教えて頂けると助かります」

「分かった。家に帰ったら、父様に聞いてみるね」

「えぇ、お願いします」

コンラットにそう約束した僕は、屋敷に帰るとさっそく、夕食の席で父様に聞いてみる事にした。

「父様?叔母さんの所に行く日取りって、もう決まったの?」

「そうね。あれから話しを聞かなかったけれど、お姉さんからのご返事はまだ来ないの?」

僕の言葉を受けて、母様も一緒に父様へと問い掛けれると、父様は少し気まずそうな顔をしていた。

「今回は私達だけではなくリュカの友達も一緒だから、お姉さんご都合が何かお悪いようなら速めに別の案を考えなくては行けないでしょう?」

「問題ないとの返事は貰ってはいるから、行く分には問題はないだろうけど、本当に、行くのかい?今からでも、行き先を変更したって良いんだよ?」

心配そうに聞く母様に気遣いつつも、やっぱり父様は行きたくはないのか、今になっても行き先を変更しないかと聞いてきた。

「でも、アル。今からでは、宿の予約を取るのは難しいと思うわよ?」

「権力と金を使えば、当日だろうと予約は取れるよ」

普段の父様は優しくて、身分を感じさせるような発言をする事なんかない。だけど、時折、パーティーで見せるような笑みを浮かべて、高位貴族なんだと思わせるような発言する時がある。昔はそんな事を気にした事はなかったけれど、色んな人と接する事が増えて来た今、こういった父様の発言を聞くと、上に立っている人なんだなと実感する。

「でも、友達にはもう言っちゃったし、行き先を変えたって言ったらがっかりすると思う。それに、僕も父様の家族に会えるかと思って楽しみにしていたから行きたい」

「そうか…それなら仕方ないね。姉には、都合の良い日取りを改めて聞いておくよ」

僕の言葉に少しがっかりしたような顔を浮かべつつも、父様は仕方なさそうな顔で最後には頷いていた。

「しかし、何故そんなに私の家族に会いたいのか分からないな」

「叔母さんは、父様のお姉さんなのに会いたいとか思わないの?」

「ないね」

全く理解できないとでも言うように呟いた父様に、僕がふと思った事を聞いてみても、何の感情も籠もってないような返事が返って来た。

「身内なのに?」

「私にとって、血の繋がりなんか大した意味などないからね。姉も赤の他人とそう変わらないよ」

父様は本当にそう思っているようで、僕の問い掛けにも普通の事でも話す様子で答えていた。

「勿論、エレナ達は違うよ」

僕が少し物悲しい気持ちになって見つめていると、そんな僕の様子に気付いたのか、父様は安心させるような笑顔を浮かべて言った。だけど、父様は興味がない人間には、何処か冷たいような気がした。

「ねぇ、兄様?父様って、たまに冷たい時がない?」

「そうか?至って普通だと思うが?」

夕食を終え部屋へと戻る途中、僕は今日の父様の様子について兄様に問い掛けてみても、兄様の表情が変わる事ない。

「いちいち他人に感情移入をしていては、貴族社会ではやっていけない」

当然の事のように淡々とした様子で話す兄様を見て、貴族としてはそれが普通なら、僕は貴族としてやって行けなさそうだなと思った。
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