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三章

帰りは

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「何がどうなってるんだ!?そいつ!リュカの召喚獣だったのか!?」

「そんなわけないわ!?召喚獣は、異世界から呼び寄せるものなんだから!!」

「そうですよ!それに、さっきまで何の印もなかったです!!」

「じゃあ!どういうわけなんだぁ!?」

「ぼ、僕も分かんないよ!?」

僕も混乱している中、そんなに立て続けにみんなから聞かれても、僕だって答えられない。誰かに助けを求めるように周りを見渡せば、何も言って来ないお兄さんでさえも、大きく目を見開いて、何とか冷静さを取り戻そうとしているようだった。そんな中、ベルンハルト様だけは、全く驚いた様子がなかった。

「一度に聞かれても、答えられないだろう。皆、まずは落ち着け」

僕と目線が合うと、ベルンハルト様は僕に助け舟を出すように、みんなに落ち着くよう声を掛けてくれた。

「何で!貴方はそんなに落ち着いてられるのよ!!?」

「以前、アレの子等が起こした問題の後始末を手伝わされた際、彼奴からその場での詳細を聞いたのだが、その際、これと似たような事が、過去にも起こっていた事も聞いた」

「えーッ!!なにそれ!?私!何も聞いてないんだけど!!?」

父様が、僕に秘密って言っていた事をベルンハルト様が知っていた事には驚いたけれど、僕よりよ、カレン様の方が驚いていた。

「詳細を把握していた方が後処理に支障がないため、彼奴も仕方なく私と陛下だけに現状報告として話しただけだ。そもそも、彼奴が公言するつもりはないと言うのならば、我等が勝手に口にする事はない」

「それは…そうでしょうけれど……」

返事はしたものの、何処か仲間はずれにされて面白くなさそうな顔をしながら、ベルンハルト様へと問い掛ける。

「それで?アルは、理由とかも言っていたの?」

「その事については、まだ憶測でしかないのか、特に言及はしていなかった。だが、他者から聞いただけの私が話すより、まずは本人に聞いた方が確実だろう」

そう言うと、静かに僕の方へと視線を向けた。そのせいで、みんなの視線も、自然と僕に向いた。

「説明を聞こう」

視線が集まる中、ただでさえ身長が高いベルンハルト様から、威圧感のあるような顔で上から見下ろすようにして言われると、怒られているわけじゃないのに、緊張と重圧で足が竦んで来る。父様も背が高いけど、何時も笑いながら屈んでくれるし、母様や兄様、使用人達と話す時だって、こんな緊張した事なかった。

「…っ…あ…ぅ……」

半分泣きそうになりながら下を向くと、腕にいた子狐が心配そうに見上げながら小さく鳴いた。僕が、ぎゅっと子狐抱きしめていると、誰かの気配を感じた。

「ベル。貴方は普通に立っているだけでも怖いんだから、物言いや雰囲気に気を付けなさい」

「いや…私は、別に…」

「父上…普通の子供相手に、その態度はないですよ…」

「親父の無言は、無駄に怖いんだよなぁ…」

「まあ、俺達は慣れてるけどな!」

「それはそれで、どうなんですかね…」

「とにかく、ベルは怒っているわけじゃないから、リュカ君のペースで、ゆっくり話して良いからね」

「は、はい…っ…」

「………これは…私が悪いのか…?」

みんなの後ろへと追いやられたベルンハルト様が、何とも言えないような顔で、小さく何か呟いていた。

ベルンハルト様の事を、悪者みたいにしちゃったのを申し訳なく思いながら、この街であった事や兄様の事、クリスさんを応援に行った時の出来事を、僕が分かる範囲でみんなに話した。

「あの時帰って来なかったのは、そういう事があったからなんだな。でも!召喚獣の事とかも、もっと速く言ってくれれば良かったのに!」

「そんな事、簡単に言えるような事じゃないですよ。むしろ、話して下さってありがとうございます」

「でも…水臭いだろ…」

少し不貞腐れたような表情で落ち込むバルドに、クリスは励ますように声を掛けた。

「一緒にいるからって、別に全部知ってなきゃいけねぇわけじゃねぇんだから、細かいことは気にすんなって!だけど、何でこの街の連中があんな態度だったのかは、分かった気がするなぁ」

僕達の視線が冒険者の人の方へ向くと、その人は集まった視線からから逃れるように、そっと目線をそらしていた。

「だけど、今思い返してみると、何回かリュカの屋敷に行ったのに、リュカの召喚獣を見せてもらった事もなければ、聞いた事もなかったんだよな……」

「そう…ですね…。1年以上も一緒にいたのに、意外とお互い知らないんですね…」

「そうだよなぁ……本当は、俺達のを見せた後に、リュカのも見えて貰おうと思ってたけど、あの後ドタバタしてたのもあって、何か見せて貰ってた気になってたんだよなぁ…」

「ドタバタしたのは、貴方のせいですけどね」

「だから!あれはネアのせいだって!!」

「俺は、事実を言っただけだ」

不意に聞こえて来たネアの言葉に、僕達は何処から聞こえて来たのかと辺りを見渡したら、僕達から少し距離を取るようにして、1人離れて立っていた。

「何でそんなに離れてるの?」

「気にするな」

何時もの落ち着き払ったような顔でそう言ったネアに、バルドが何かを思い出したように問い掛けた。

「そういえば、ネアにも聞いた事なかったけど、ネアって召喚獣っているのか?」

「俺は…呼べない…」

バルドからの問い掛けに、何処か躊躇ったように言葉を濁しながら、視線をそらした。そんなネアに、コンラッドが真っ先に声を掛ける。

「ま、まあ、ネアの場合、いなくても不思議ではないし、それで何か変わる事もありませんからね!」

「おぅ!俺達がダチである事には、変わりないからな!!」

「うん!!」

「お…おぅ…」

僕達も同意を返せば、ネアは何処か気まずそうに視線をそらしながら、照れているのを誤魔化すためなのか、渋い顔を浮べていた。

そんな僕達の様子を、大人達は微笑ましげに見ていたようだけど、子狐は僕の話しで退屈していたのか、急に僕の腕からピョンと飛び降りた。

だけど、今まで秘密にしていた事を打ち明けて安心しきっていた僕は、小狐の突然の行動に驚き、バランスを崩して後ろへと一歩下がってしまった。

後ろが湖だった事を思い出したのは、僕の足に水の感触がしてからだった。驚いた僕は、慌てて足を上げようとしたけど、ただでさえバランスを崩していた所に、更にバランスを崩す事をしまって、ゆっくりと僕の身体が後ろへと倒れていく。

思わず目をつぶって、水に落ちる事を覚悟していると、背中に何か柔らかい物が当たって、僕の事を支えてくれた。何とかずぶ濡れにならずにすんだ僕が目を開けると、親ぎつねの長い尻尾が、僕の背中を支えてくれていた。

「ふっ~ぅ」

尻尾に支えて貰いながら上体を起こすと、僕は安堵のため息を付いた。此処は浅瀬だから、落ちたとしても、濡れるだけですむだろうけど、一人だけずぶ濡れの状態では、宿には帰りたくない。

僕を見ていたみんなも、驚いた顔から安心したかのような顔をしていた。だけど、そんな中、カレン様とベルンハルト様の2人だけは、僕に背を向けて、みんなとは真逆の森の方を見ていた。

「「……」」

しばらく森を見つめていた2人がこちらを向くと、その顔は何処か怒っているようにも見えた。

「少し…話し合わなきゃいけない人がいるみたいね…」

「…そのようだな」

それだけ言うと黙ってしまった2人に何か感じたのか、お兄さんが変わるように口を開いた

「もうすぐ、日もくれます。完全に日が暮れる前に、宿へと帰還しましょう」

僕が話している間に、日も傾いて来ていて、辺りも暗くなってきていた。

「そうね。もう街の方も落ち着いたでしょうし、頃合いかもね」

「それで、どうやって帰るんだ?」

カレン様の言葉に、クリスさんが疑問を口にする。僕達が乗って来た船は一人用だし、湖を迂回して帰るにしても、今からだと歩いて帰るのも無理そうだ。だけど、そんな僕達の不安を払うように、力強くカレン様が言った。

「ベルが作った道があるから、後はカムイに乗って帰ればいいわ!」

「でも…全員は乗れないですよね…?」

ベルンハルト様が悠々と乗れる大きさだから、僕達だけなら乗れそうだけど、此処にいる全員は乗れそうにない。

「私達は、走って行くから大丈夫よ」

「えーッ!走って行くの!?」

「だ、大丈夫なんですか…?」

僕達が心配するけど、カレン様はそれを軽く笑うような笑顔を浮かべていた。

「こんな距離なんて、なんて事ないわよ?ねぇ?」

「ああ、荷物や重しを持って行軍するよりも楽だ」

「それに、ぬかるみや砂地というわけでもないですからね」

カレン様が後ろを振り向くと、ベルンハルト様やお兄さんも、平然とした顔のまま頷きながら返す。

「さぁ!そうと決まったなら、速く帰りましょう!旅行はまだ終わってないわよ!」

「ッ!!そうだな!後2日しか、もう残ってないからな!!」

「ですが、今回の事で、しばらく街は混乱していて、観光どころではないのでしょうか?」

「う~ん?魔物が街の中に入ったってわけでもないし、別に大丈夫じゃなかしら?街の人もそうだけど、観光に来ている貴族連中だって、魔物討伐は学院でやらされて自衛も出来るはずだから、きっと何も気にしないわよ!」

「自分達に害がなければ、何も気にしない連中が多いですからね。しかし、自衛が出来ない子供等だけで遊ばせると言うのも…」

お兄さんは、困ったような、悩ましげな表情を浮かべ、カレン様も、何処か顔を曇らせながら僕達の方を見る。

「そうね……ッ!そうよ!!なら、学生時代のアルノルドの話でもしてあげましょうか!?」

「本当ですか!?」

良い事でも思い付いたような顔を浮べるカレン様に、コンラッドが真っ先には食い付いた。

「ええ、何だか今は、無性に話してやりたくなったのよね。ベルもそうでしょう?」

「……ぅ…むぅ……」

意地悪い笑顔を浮かべているカレン様の横で、苦虫を噛み潰したような顔で、返事をしたのか分からないような、曖昧な返事を還す。だけど、そんなベルンハルト様の事なんか気にもせず、バルド達は目を輝かせていた。

「おおっ!!じゃあ!親父の話しも聞ける!?」

「ええ、良いわよ!」

「やった!!」

「親父の話しとか滅多に聞けねぇからな!!」

「それは、私も少し興味があります」

「………」
 
得意気に胸を張るカレン様に、興味津々の顔を向けているバルド達。その様子を、ベルンハルト様は何とも微妙な顔をして見ていた。

だけど、滅多に聞けない父様の昔話を聞けるチャンスに、僕も楽しみになって来た。それと一緒に、今は無事に全部が終わった事を喜ぶ事にした。
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