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三章

探索 (カレン視点)

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「見つかりませんね。既に、街の方へと降りてしまったのでしょうか?」

彼の息子と2人、朝から森を探索しているが、痕跡などが見つかる気配が一向にない。

「そうね。此処まで見つからないのなら、その可能性もあるわね。まだ、そこまで降りていないと思ったんだけど、私の感が外れたかしら?」

私達がこちらを探索している間、昨日、情報を吐かせた2人組に、街の方の近くの探索を任せたのだけど、失敗だったかもしれない。

「それにしても、やっぱり魔物の気配がないわね」

「はい。この静けさは異常です」

此処まで来る間、周囲からは魔物の気配が感じられず、森の中は今も異様な静寂に包まれていた。

「はぁ…また、面倒な事にならなきゃ良いけど……」

この辺りにいた魔物が、此処より森の奥に逃げ込んだのなら問題はないが、その逆だったら少し面倒な事になる。だけど、その原因を作った魔物も、あの連中の被害者のようなものだから、出来るだけ穏便に方を付けたい。

お兄さま達から、また例の連中がやらかしたと報告を受けたのは、出掛ける間際になってからだった。少し前から、それらしい報告が上がっていたそうだが、転々と拠点を変えていたため、なかなか尻尾がつかめていなかったそうだ。

通常、魔物を間引く際は、周囲にあまり影響を与えないため、狩って良い魔物か、そうでないかをしっかりと判断してから狩っている。だが、あの連中は、周囲の影響など考えずに手当たり次第に魔物を狩って行く。

そのせいで、その周辺の魔物のパワーバランスが崩れ、住処を追いやられた魔物が街に降りて来た事も、一度や二度ではない。しかも、それが原因で、実習中の学院生に被害が出た事だってある。

しかも、今回は不味いことに、そいつ等が手を出していたのが、此処から少し離れた森を住処としていた主の子供だった。

偶然それを発見した冒険者達が、そいつ等を捕縛しようとしたそうだが、子供を助けに来た親が乱入。いくら温厚で害がないがない魔物と言っても、子供に手を出されれば凶暴化する。双方、入り乱れる乱闘騒ぎに驚いた子供がその場から逃げ出し、その際に連中も何人か取り逃がしてしまったそうだ。

子供は手傷を負っていたため、それほど遠くには行かないと予想していたが、興奮が収まらなかった親が、周囲の魔物を威嚇してしまったため、それに恐れをなした魔物が移動してしまい、それに追われるようにして、子供も移動してしまったようだった。そのせいで、興奮状態が続いて、周囲を威嚇しながら子供を探しているらしく、周囲の魔物にも影響が出始めていると言う事だった。

その報告が城に届いたのが、旅行に出掛ける前の日だと言うのだから、何ともタイミングが悪い。横で話しを聞いていったベルも、明らかに渋い顔をしていた。

その場で、ベルが旅行の中止を申し出たけど、息子が楽しみにしていると言う理由だけで、即座に却下されていた。それでも食い下がったベルに、ラクス周辺の探索だけを命じていた。

だが、ベルが席を外すと、それらしい情報が入ったら、旅行が台無しにならないように、ベルには秘密裏に対処して欲しいとも言われた。けれど、街に出たあの子達をこの子と一緒に尾行している際に、それらしい情報を聞いてしまったのだから、間の悪い事が続くと思ってしまってもしょうがない。

当然、この子もベルと情報を共有しているだろうから、此処で聞かれたのなら、ベルに知られるのも時間の問題だと思った。それならば、ベルにも話しておいた方が速いと思って、素直に情報を渡して協力して貰う事にした。

「街の方は、大丈夫でしょうか?」

「ベルが残って指揮を取ってるから、問題ないでしょう」

街にいる弟達の事が気になるのか、不安げな様子で街の方を振り返る。だけど、その場合も考慮して、街の方の事はベルに任せて来ている。

あの子達も、此処に来てから影に隠れて様子を見ていたけど、街の外に行こうとする素振りもなかったから、予想外な事でもない限り、心配する必要もないでしょう。

「確認ですが、捕縛の方はお任せしても宜しいのですね?」

「ええ、私がきっちり気絶させて大人しくさせるわ。そのために、ベルから魔道具もしっかりと借りて来たしね」

気を切り替えるように、今回の役割に付いて確認してきたブライト君に、何も心配する事はないと言うように言葉を返す。

討伐任務が殆どで、魔物の捕獲は専門外。さらに、興奮して暴れ周っていて、難易度は跳ね上がっているのならば、私がやった方が安全だ。だけど、今回は、魔物を刺激しないため、あえて少人数でしか探索していないから、何が起きても対処出来る要因がいるのは心強い。

借りて来た魔道具を使えば、多少は捕縛するのも楽になるにしても、周囲を威嚇しないよう、強制的に寝てもらうっているのも、さすがに限度がある。

結界の魔道具と反転の魔道具。その2つの魔道具を組み合わせれば、外からの侵入を阻む結界を、中から出られないようにする。そうすれば、強制的に一対一に持ち込む事が出来る。

他にも、周囲に影響を与えずに、広範囲の殲滅魔法だって使う事が出来たり、盗賊と遭遇した際も、一時的な牢獄としても使える。武器もなく、縛られた状態で、自分達は外に出られないけれど、魔物だけは中に入って来れるという、恐怖体験が出来る素敵な仕様になる。もし、仮に放置している間に死んだとしても、それまでの自分達の行いが招いた事であって、自業自得というもの。

「しかし、このような服を着る必要があったのですか?」

着慣れない服に、最初は何処か動きにくそうにしていたが、今ではそれを感じさせない動作を見せる。でも、違和感は感じるのか、未だに居心地悪そうにしていた。

「何事もまずは形からよ!とりあえず、子供も速く見つけないとね!」

騎士よりも、冒険者らしい方が目立たず、逃げた連中の警戒心も下げると思って、街で見繕った物を着せたのだけれど、如何にも騎士っていう厳格な雰囲気を纏ったような人間が、駆け出しの冒険者が着るような安い服を着ていて、逆に目立っているように感じる。それに、面白いくらい似合ってない。
ちょっと失敗だったかなとは思ったけど、今更それを言うわけにもいかず、あえて真面目な顔を浮かべながら、話題を戻す事で強引に誤魔化した。

私の言葉に、何処か納得出来ないように、眉を寄せて怪訝そうな顔をしていても、決して不満は口にしない。その表情が、何処かベルの顔に似ていて、少し笑いそうになったのも内緒だ。

騎士は基本、上官の命令には絶対服従。どんな理不尽な命令を受けても、反論も何もせず、ただそれに付き従って進む一個の個体。

ベルが騎士団長になってからはそういうのはなくなって、下の意見も通りやすくなったようだけど、堅苦しい空気だけは今も顕在だ。

昔から、騎士団のそういう堅苦しいのが嫌いだから、剣の腕は尊敬していても、ベルと結婚したいとは思えなかった。だから、ラザリアはいったい何処か良かったのか、未だによく分からない。

「それにしても、あの国は本当に懲りないわね」

話題を元に戻した事で、何度も面倒事を起こして来た帝国連中を思い出して、愚痴が口から溢れる。

魔物素材は、武器や防具の材料として使えるため、それを密猟しようと狙ってくる人間達は、だいたいあの国の人間がほとんどだ。あの国は、森を開拓して街や、農地を作って行ったため、魔物が住めるような森が少ない。

自国の鉱物などで武器を賄うにしても、周辺が海に囲われていれば、いくら大国でもいずれ限界が来る。その点、この国は魔物種類も資源も豊富だ。だからこそ、私達の国を傘下にしようと、何度も無駄に戦争を仕掛けて来て、本当に迷惑している。

こちらから攻めに出ようにも、時折、急に強い魔物が現れて、周囲に影響を及ぼす事があり、そのせいで住処を追われたりした魔物が大量に街に降りて来る事がある。そうなれば、冒険者達にだけ任せておけるわけもなく、おいそれと国を空けるわけにもいかない。それを分かっているからこそ、向こうも好き放題やっているのが腹立たしい。

「アルじゃないけど、あの国もう潰しちゃおうかしら?」

アルのように、単身で海を渡るような事は出来ないけど、私がひと暴れするだけでも、大打撃を与えられそうだ。

「そんな事をされれば、周辺国、特にルークスが黙っていませんよ。それに、カレン様はただでさえ目立つのですから、派手な行動は控えて下さい」

「まるでベルみたいな事を言うのね」

「褒め言葉として、受け取っておきます」

涼し気に言う姿もどことなく似ていている。もう少し、ラザリアに似てくれてたら、可愛げがあったかもしれないのに…。

言っている事は理解は出来ても、やっぱり釈然としない。

アルだったら、痕跡も残さずに壊滅させて戻って来れるだろうけど、後処理を面倒がって、余程の事がない限りはやらないと思う。あんな国を傘下にしたって、こっちには何の旨味もないのだから。それに、あの鬱陶しい宗教国家に、こっちを叩く絶好の言い分を与えかねない。

それにしても、私達の召喚獣は特に隠していないから、当然知っているはずなのに、カルディア帝国は疑問すら思わないのかしら?あのアルの召喚獣が、ただの鷹だって事に。

「カレン様…」

「……」

声で振り向けば、下方にある湖近くから、あの冒険者達に緊急用で渡していた魔道具の反応が見えた。

「嫌な予感がするわ。急ぎましょう」

それ以外にも、何か嫌な予感がした。出来れば外れている事を願いながら、決めていた合流地点へと駆け出した。
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