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三章
息子と友人 (ベルンハルト視点)
しおりを挟む息子2人と馬車に揺られながら、目的地であるラスクを目指していた。
「母さんがいる時だけは、言葉使いに気を付けるよう言っただろ」
「だって…」
私が口下手なため、ブライドには私の変わりを担って貰っている部分が多く、今も私の変わりに苦言を呈してくれている。
「前のように、カレン様をおばさんなどと間違っても言うなよ」
「だって…呼んで良いって言われたんだもん…」
力無く項垂れる姿に、なんと声を掛けたものか。素直なのは良い事なのだが、同時に難点でもある。
剣にも言える事だが、クリスは癖もなく基礎を忠実に身に着けている素直さがあるが、基本に忠実であるがゆえに、急な状況変化への対応は苦手としている。
そのため、上手く剣を振れずに伸び悩んでいた時は、心身ともに不安定になっていた。そのため、一時期は心配したものだが、こちらの心配を他所に、己自身の力で立ち直った。きっと、ラザリアに似ているのだろう。
ブライドもまた、何時か私を追い越して行ってしまうのだろう。バルドはまだ不安な面も多々あるが、皆、私には勿体無い子達ばかりだ。
そんな息子と、奴の息子が同級になったのは、何の縁なのだろうか。その者の話は前々から度々聞かさせていたが、上の時も同じような事を言っていた事を思い返せば、何処まで信じて良いものかと判断に迷う。
パーティーの際、人混み越しに見てはいても、人となりは見えてこない。それを実際に感じる事が出来たのは、護衛対処として対処した時だった。
「今回は、協力して貰って礼を言う」
集まった我等に礼の言葉を口にするが、何とも裏がありそうで気味が悪い。本来なら、コイツの頼みなどは引き受けたくなどはないのだが、下の子のためと妻の頼み。そして、昔の借りがあれば、断るわけにはいかない。
「貴様に似なかったようで良かったな」
時折、漏れ聞こえて来る微かな会話に耳を澄ませながら、奴へと会話を振れば、こちらへと視線を向ける気配がした。
「お前が私の子を素直に褒めて来るとは意外だな」
「思った事を言ったまでで、褒めた覚えはない」
「そうか」
特に会話が続くような事もなく、再び静寂が訪れる。私達が、会話しないせいか、他の者も口を開く様子もない。スクトール伯などは、暑さ以外の理由でも汗をかいているようだ。
容疑者が動いたと知らせ受けた我等は、会場にて待機していた。此処で仕掛けるとは思ってはいないが、念の為、近くの観戦席で待機していた。しかし、開けて隠れる場所もないため、我等は目深かにローブを被って座っていた。夏場にそんな見た目の我等は周りからは浮いていた。こちらを遠巻きに様子を伺っている者も多い。
「まだ隙はありますが、立ち回りが上手くなりましたね」
「そうだな」
共に試合を観戦しているブライドから、称賛の声が上がった。容疑者の監視もしなければならないが、なかなか仕事で時間が取れない私としては、こうして息子の成長を直に見れる機会があるというのは嬉しいものだと感じる。
規律遵守を唱えている者として、それに見合った行動を取るよう常に心掛けてはいるが、こういった時、それが正しい事なのか疑問に感じようになった。昔なら、それらに対して疑問になど感じなかったというのに。
「そろそろ行くぞ」
クリスの試合も終わり、移動を始めた子供等と容疑者を追うため、奴と共に我等もその腰を上げた。
「……団長…私達が来る必要性など、なかったように見えるのですが…」
目の前の惨状に、ブライドが困惑したように私を見てくるが、私はこうなるだろうと予測していた。だが、初めて見る者にとっては刺激が強いだろう。
熱感知が出来る蛇の召喚獣を持つからと、奴が連れて来たスクトール伯だけは、少し怯えているようだった。だが、荒事に関わらない人間がこんな光景を見せられれば、それも仕方がない。それに、息子の方も奴と同様に、敵に掛ける慈悲はないとばかりに苛烈だ。
「死人が出る前に私が止める。お前は周囲の警戒と逃げられぬように注意しろ」
「はっ!」
ブライドに指示を出し、私はゴロツキ共に視線を向ける。相手には少し同情する所もあるが、知らなかったとはいえ、私達の息子に手を出そうとしたのが運のつきと言える。
「そこで止めておけ。死人が出る」
相手の悲惨さと比べ、奴だけは小綺麗なままで立っている奴の状況は、見慣れているとはいえ異常に映る。
「死罪が確定している相手だ。特に気にする必要はない」
昔と比べ、あまり見せなくなった冷え切った目で、淡々と事実だけを口にする。奴の言うとおり、高位貴族に手を出せば死罪は逃れられないだろう。だが…
「まだ、判決が出たわけではない」
「……仕方がない、後の楽しみにでもしておくか」
獲物を前に笑う顔は、そこらの凶悪犯にも負けてはいない。そんな奴が、よく本性を隠しながら普通に暮らしているものだと感心するが、まずはこの場の後始末から初めて欲しいものだ。
その後、容疑者を確保するために動いていれば、最後の無駄な悪足掻きをした者と奴の息子のせいで、余計な後始末に追われる事になった。
そんな時、奴は何を思ったのか、私の仕事を肩代わりすると言ってきた。当初は断っていたのだが、陛下からの勧めもあって屋敷に帰える事になった。だが、自身でも間の悪い時に帰って来たようだ。
バルドには、勝手に学院を抜け出した罰を与えてはいたが、日々の言動や、武器の位置が僅かに動いていたため、それを守っていない事は気付いてはいた。だが、事件に巻き込まれた事も考え、厳しすぎるのもどうかと思い、気付かない振りをしていた。しかし、私の見える範囲で違反したとなれば、罰しないわけにはいかない。
バルドは、隠す事が苦手なようだ。
以前、私の物を壊した際も、直ぐに言動で分かってはいたが、あえて聞かずにおいた。翌日、陛下には私が壊した事とし、報告と謝罪を済ませて赦しを得たため、後は、あれが自供するのを待つばかりなのだが、一向にやって来る気配がない。
証拠品の隠し場所もあらかた予想が付くため、証拠を差し押さえようと思えば出来るのだが、自主性に任せ、期限までは待つつもりである。
そんな息子が、朝から人目を避けるような行動をしているのが目に入った。念の為、ブライドと共に庭に様子を見に行けば、隣の屋敷から騒ぎ声のようなものが聞こえて来ていた。事情を確認するため、先に脱出路を押さえれば、難なく容疑者達を確保する事が出来た。
声の人数が多かったため、2人だけの犯行ではないと予想はしていたが、奴の息子も関わっていたとは思わなかった。理由も聞かず叱るわけにはいかないと理由を問えば、何とも子供らしい好奇心が理由だった。
無断侵入は問題ではあるが、奴が過去に起こした問題を考えれば、こんなものは問題にもならないだろう。祝の席に水を差さぬよう、不問にしようと思っていたのだが、バルドに偽証の疑いが生じた。
破損くらいならば見逃す手もあるが、さすがに偽証は見逃せない。偽の報告をすれば、軍の統率にも影響を及ぼし、壊滅的被害が出る事態に繋がる可能性がある。それに、度重なる隠蔽をした事実もあったため、バルドには重めの警告をする事にした。
今後、どのような態度になるかは見てみなければ分からないが、萎縮しない事を願うばかりだ。やはり、ブライドから伝えるべきだっただろうか?だが、その後の様子を見ている限り、要らぬ心配だったようだ。
しかし、本人にその意思が無くとも問題を起こすのは、奴の血がなせる技なのだろうか?意図してやっているならば対処の方法もあるが、そうでないのならば対処の仕様がない。そんな者と旅行に行くなどと、何の因果だと思ってしまう。
「不在にして良いものか…」
バルドには、成績しだいと伝えはしたが、この夏、我等が不在にする可能性については、前もって周知はしていた。だが、この状況で城を開けても良いものだろうか。やはり、私だけでも城に留まるべきではないだろうか。
「団長が残ると言えば、ご子息であるブライド隊長も残ると言い出すかと」
「うむ…」
他の者には執務室から退出を願い、副官であるマルコに懸念事項について聞いて貰っていたのだが、新たな懸念事項が出て来てしまった。
昨年、一人、屋敷には残せないと休暇も取らずにいたのだが、他の子達も屋敷に残ると言い出した事を思えば、そうなる可能性は高い。
良く出来た子達であるがゆえ、今まで多くの苦労や我慢させていた。その分、何かしてやりたいとは常々考えてはいたが、私はどうするべきだろうか。
「とりあえず、ブライド隊長を休ませると思い、休暇申請だけでも出されては如何でしょうか?」
「陛下にも、ご相談してみよう……」
マルコの後押しと、陛下のご行為で休暇を頂けたが、その話しを聞いていた奴の顔を見る限り、何か企んでいるようだった。念の為、警戒はしていたのだが、まさかこんな手を使って来るとは予想だにしていなかった。
旅行に行く前の段階で、問題が起きる予感しかない。
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