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三章

変わった人間

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「何でこうなるの!?」

アリアの意に反して、その後のクラス内外でも男子達からの受けは悪いようだった。

「そりゃそうだろ…」

バルドの言葉に僕も思わず同意しそうになったけれど、睨むような視線を向けられているのに気付いて口を閉ざす。

「私可愛いでしょ!?」

確かに外見は可愛いらしいとは思うけど、この前の件で全て台無しになっていた。でも、同性からの評価はさほど悪くはないようで、彼女の事を師匠のように扱っている人もいるようだった。まあ、何の師匠なのかは考えたくないけれど…。

「それにしても、何で僕達と一緒にいるの…?」

さっきから普通に僕達の会話に平然と混ざっているけれど、まったく意味が分からない。

「高物件と会える確率が高いからよ!」

さも当然のように言う彼女の態度からは、遠慮などと言う言葉は一切思い浮かんで来ない。

「お前の周りには、変わった人間しか寄って来ないんだな」

「他人事のように言ってますが、その中に貴方も入っていますよ」

ネアの言葉を不機嫌そうな顔で訂正しているけど、その中に自分が入っている事を否定しないんだね?

「おい!邪魔だよ!」

そんな僕達の耳に、教室の後ろの方から不穏な声が聞こえて来た。

「おい!何してんだよ!?」

「バルド!」

僕が状況を正確に理解する前に、後ろを向いて座っていたバルドが既に駆け出していて、それを追い掛けるようにコンラットも駆け出して行った。

「ああ言うの、今時流行らないのに、良くやるわよね。それにしても、わざわざ助けに行くなんて、彼も物好きなのね」

「アリアは、助けようとは思わないの?」

「思わないわよ。お父様も影で色々やっているのを知っているし、こんなの別に珍しい光景ってわけでもないしね」

「それ…大丈夫なの…?」

聞いてていいのかと思う事をサラッと言って来たから、聞いてる方が大丈夫なのかと不安になる…。

「バレなきゃ良いのよ。赤字を黒字にするのって大変なのよ。貴方の父親だって、色々やってるでしょ?」
 
「僕の父様はそんな事しないよ!」

「へー。まあ、それを信じてるならそれで良いんじゃなの?」

僕の言葉をまるで信じていないような態度に、不満と苛立ちがつのる。そのせいか、僕の口からは少しトゲのある言葉が出た。

「その性格…直した方が良いと思うけど…」

クラスメイトもそうだけど、僕の周りでもこんな無遠慮な事を言う人はいない。

「嫌よ、猫かぶりなんて私のガラじゃないわ。王都にいたら分からないかもしれないけど、ちょっと出掛けるつもりで家を出て、魔物に襲われて死ぬかもしれない日常で生きてる領地民と接していると、人の目を気にして生きてるのが馬鹿らしくなってくるわ。だから、明日死ぬかもしれない人生なら、私も自分が生きたいように生きて死ぬわよ」

僕が言った言葉など、全く意に返したようすもなく、自分の信条を堂々と言い切った。正直、王都からあまり出た事もなければ、魔物も満足に見た事もない。そんな僕とは、あまりにも価値観が違いすぎた。

「塀を建てるとかはしないの…?」

何か言わなければと思って出た言葉は、負け惜しみにもならない言葉だった。

「はぁ…。そんな金、何処から、誰が出すのよ…。金は、自然に湧いてくるものじゃないのよ…。それに、塀の中だけで生きていけるわけないでしょ」

「……」

彼女が言う正論に、何も言い返す事が出来ない…。

「金を稼ぐにも、みずぼらしらしい格好だと周りから見下されて買い叩かれて食い物にされる。だから、着飾って権威と格を見せ付けなきゃいけない。でも、そこに使いすぎたら意味がない。出す所を出して、締める所は締める。その見極めは難しいし、金を貯めるのって、貴方が思っている程簡単じゃないのよ」

彼女の話しを聞いていると、何だか自分が物分りが悪い人間にでもなったような気になってくる…。

「まあ、話しはそれちゃったけど、誰かの助けを待っているような人間とは関わりたくないから、私はもう行くわ。じゃあね~」

手を振りながら去って行く姿を、僕は無言のまま見送った。

「性格は置いておくが、アレの言っている事は間違ってはいないな」

「ネアも…?」

アリアが去った後、さっきまで黙っていたネアがおもむろに言った。

「人助けなんてするのは、結局は余裕がある人間だけだ。自分の事で精一杯の奴は、他人を助けようなんて思わない。そもそも、他人を見ている余裕もない。そんな何時来るか分からないものを待っていても、時間の無駄だ」

「でも、やっぱり助けた方がいいんじゃないの?」

「手を差し伸べたとしても、感謝されるとも限らない。逆恨みされる可能性だってある」

「助けない方が良いって言うの…?」

「そうは言ってない。助ける余裕があるなら、困っている奴を助けてやればいい。まあ、俺は性格が悪いから、対価や報酬などがないと何もする気はないがな」

「でも、猫には色々やってたよね?」

学院にいる猫に餌を上げたり、木の上から救出しているのを見かけた事がある。

「猫は別だ。猫なら全財産捨ててでも普通に助けるだろ?」

「そこまでは…しないかな…?」

そんなの常識だろみたいな事を真顔で言われても、僕はそこまでやろうとは思わない。この微妙な空気をどうしようかと思っていたら、ちょうど良くバルド達がこちらに戻って来るのが見えた。

「全く!アイツも懲りないよな!」

「そう思うなら、貴方も少しは懲りて下さい…」

今回のような事が去年から何度かあり、その度にバルドが駆け出して行っては、コンラットが仲裁するような形を取っていた。

「それにしても、お前大丈夫だったか?」

「えっと…。助けてくれて…ありがとう…ございます……」

バルドが聞けば、連れられて来られて来た子が、少し怯えたような表情をしながら、たどたどしくバルドにお礼を言っていた。

頭を下げているうえ、伸びた緑の深み色の髪に隠れて、顔はよく見えないけど、見慣れてない事から今年から来た子だと思う。

ゆっくりと僕達の方に視線を向けた事によって、癖毛混じりの髪に隠れた焦げ茶色の目が見えた。

「!!それ!魔道具だよね!?」

先程までのたどたどしさなど嘘であるかのように、兄様から貰ってからはめていた指輪を目を輝かせ眺め、食い入るように僕に聞いてきた。

「僕!魔道具とかが大好きなんだ!でも、お金がなくて、あんまり良い物は買えないんだよ…。だから、ちょっと見せて貰っても良い!?」

「う、うん…。見るだけなら…」

「防御の魔法を基本にして魔法が込められているようだけど、それ以外にもある?それに、使われてる素材は……まさか!」

僕の手を握り、指輪を凝視して独り言を呟く姿を見ていると、さっきまでいた誰かを思い出す…。

「本当に、変わった人間しか、集まらないんだな…」

「ネア…。それ、今言わないで…」

しみじみとした声で言うネアに抗議しながら、僕の手を握ったままの子から視線をそらした。
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