落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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三章

現実的

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「新学期は、どうだった?」

「う、うん…」

夕食の席で父様に、今日の様子について聞かれたけれど、どうしても曖昧な返事になってしまった。

「何か、問題でもあったのか?」

そんな僕の様子を見て、父様は何処か心配そうに聞いて来た。

「えーと…。ちょっと凄い子が、新しく来ただけ…」

「それは、大丈夫なのか?」

視線をそらすように言った僕に、父様と同じような表情を浮かべて兄様が聞いて来たけれど…。

「大丈夫じゃないのは、僕じゃなくて兄様かな…?」

「どう言う事だ?」

眉にシワを寄せながら訝しげな表情で浮かべる兄様に、僕は曖昧な笑みを返すのだった…。

次の日、学院に向かっていると、学院の門の影に隠れるように立っているみんなの姿が見えた。

「何で、隠れるようにして集まってるの?」

馬車から降りた僕は、みんなへと声を掛けた。

「っ!!何だ、リュカか…。どうしたも何も、クラスにいたくなくて俺が此処で時間を潰してたら、2人が混ざって来たんだよ」

「俺は、朝からあんな奴の相手なんかしたくない」

「私だってそうですよ…。でも、リュカも来る時間にもなったので、何時までも此処にはいられないですね…」

「そうだな…。行くか…」

苦い表情を浮かべるコンラットに、バルドは嫌そうな表情で答えると、重い足取りでみんなと教室を目指した。

「それにしても、役職が高かったり、優れている兄とかがいると大変ですね」

「コンラットにだって、兄貴がいるだろ?」

まるで他人事のようなコンラットに、バルドは不可解そうな顔を浮かべて言った。

「私の所は、前にも言った通り分家ですし、父も大した役職にも付いていませんからね。それに、兄や私もそれほど容姿が優れているという事もありません」

「それ、言ってて悲しくならないか?」

「少し…」

その後の話題も、なかなか話題が続かなくて、ほとんど無言のまま教室の前まで来ていた。

教室に付いて欲しくないと思っていたせいか、今日はやけに距離が近く感じる。一番前にいた僕が意を決してクラスの扉を開けると…。

「待ってたわ!!」

腕を組みながら扉の前に立っている彼女の姿が目に入って、僕は無言で扉を閉めた。

「何で閉めるのよ!!」

「無意識に…」

閉めた扉が勢いよく開き、目の前に怒った彼女がいた事で、思わず本音が出てしまった。

「もう!寮から真っ直ぐに此処に来て、私ずっと待ってたのよ!?」

「そんな事言われてもなぁ…」

「約束してた分けでもないですからね…」

彼女からの理不尽な怒りに、僕達はどうしようかと視線を合わせる。

「あのね!私は、お金持ちで地位もある格好良い男性と結婚したいって言う夢があるの!!だから、貴方達のお兄様を紹介してよ!!」

「えーと…そんなものに拘らなくても、別に良いんじゃない?」

少しでも、兄様から他に目を向けて貰おうと思って言った事だったけど、逆に彼女の中の何かに触れたようだった。

「貴方は何を言ってるの!?世の中綺麗じゃ生きて行けないのよ!この世の中、まず金よ!」

「急に現実的な事言い出したぞ…」

「王都に住んでる連中には分からないわよ!良い!私がいる北の領地なんて、冬になると雪で物資が遅れる事なんて日常茶飯事だし!輸送費も割高なって物資が高騰するの!それなのに、観光客は減るから収入は減るのよ!!」

「でも、辺境伯は兵力を持つ事を特別に許可されているではないですか…」

確かに、辺境伯は王族から武力を持つ事を許されているから普通とは違って、侯爵と同等かそれ以上の地位があるって習った記憶がある。

「はぁ?あんなの魔物対策のための部隊で、何の利益にもならないわよ。維持費とかで金は掛るうえに、ないと魔物の被害が出るから予算は削れない。狩った魔物素材を売っても、武器や防具の修繕費とかに消えるから完全に赤字よ」

「そんな、身も蓋もない事言うなよ…」

「何で?事実何だからしょうがないでしょ?だから、まずは金!それで、地位もあって、顔が良ければなお良し!」

「そんな人、そうそういませんよ…」

「お前、小説の読み過ぎだぞ…。そんな絵に描いたような理想の王子様みたいな奴なんていな…いるのか?」

「僕に聞かないでよ……」

疑問符を付けながら視線を向けても、僕も困る。殿下と会って話した限りだと、たしかに理想の王子様だと言えなくもないのかな?まあ、僕の兄様の方が強くて格好良いうえに、頭も良くて優しいけどね!あれ?兄様って欠点なくない?

「とにかく!そんな奴は此処にはいないから、もう諦めろよ!!」

「はぁ!?諦めるわけないでしょう!!何のために私がAクラスになったと思っているのよ!このクラスなら、将来が安泰の高物件と出逢えると思って、したくもない勉強もしたのよ!私は、山と雪と魔物しかいない場所から速くおさらばしたいの!!」

「でも、中身も大事だと思うよ…」

「中身が良かったとしても、金も地位もなくて、中年太りの男と誰が結婚したいと思うのよ!貴方達だって、逆の立場なら嫌でしょ!?」

「そんな事は…」

「あるでしょ!!」

「趣味は、人それぞれだから…」

「それは認めるけど、そんなの極一部でしょ!」

兄様を守るために何とか出した僕の言い分も、全て彼女によってすぐに反論されてしまう。

「何でも優良物件から売れて行くのよ!だから、遠慮なんかしてる暇なんてないわ!此処は戦場であり狩場よ!」

「今、狩場って言わなかったか…」

「言ったな…。クラスの男共は、完全に引いているぞ…」

「女性陣は、メモを取っている人もいますけどね…」

男女での態度の落差が激しい…。そもそも、メモを取るような事なんてあった…?

「人生なんて、年取ってからの方が長いのよ。たとえ愛が消えたとしても、金が消えなければ1人でも生きて行けるわ!」

僕達が話している間も、昨日と同様に彼女の主張は続いた。

「男の方が寿命が短いから、年上と結婚した方が速く遺産も貰えそうという意味では、金持ちの中年もありよ!」

「コンラット…。なんか俺、背筋が寒くなってきた気がするんだけど…」

「奇遇ですね…。私もです…」

寒そうに両腕を擦っているバルドに、硬い表情を浮かべながらコンラットが同意していた。

「そういう意味では、ウィンクルム商会も捨てがたいのよね。でも、半分しか遺産が貰えない可能性があるか…」

そう言いながら、彼女は静かにネアへとその視線を向けた。

「言っておくが、俺がお前より速く死ぬ事は絶対にないぞ!」

「それくらい分かってるわよ」

全力で否定しているネアに、彼女はつまらなそうな目を向けていたが、ネアは警戒心を滲ませたように彼女から数歩距離を取っていた。

「夢とか理想も良いけど、まずは現実を見ないとね」

「「「「………」」」」

女性ってこんなに現実主義なんだろうか…?だったら、知りたくなかったな…。

みんなが無言の中、これだったら、夢見る乙女の方が良かったような気がした…。
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